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八戸市美術館

2022年01月15日号

[青森]

2021年1月にすでに完成した躯体は見ていたが、開館後は初めてとなる《八戸市美術館》(2021)を訪問した。西澤徹夫・浅子佳英・森純平の設計による空間は、ジャイアントルームの吹き抜けが最大の特徴であり、廊下を介することなく、ホワイトキューブを含む、それぞれの専門的な部屋と直接につながっている。何もないときは工業地帯の景観が有名な八戸らしく(例えば、「八戸工場大学」の活動がある)、工場のような大空間だったが、市民がいる状況では、安東陽子がデザインしたカーテンによる空間の分節が効いており、ヒューマンスケールの調整を行なう。



八戸市美術館




ジャイアントルーム




安藤陽子のカーテン


開館記念の「ギフト、ギフト、」展は、ほぼ全室を使い、美術館のさまざまな空間を市民に向けてのお披露目を兼ねていた。八戸三社大祭やデコトラなど、地元の固有性をモチーフにした作品、桝本佳子の超絶技巧、KOSUGE1-16のユーモアなどを組み合わせる。そして建築チームは会場構成のみならず、作家としても参加し、リサーチをもとに、設計のヒントにもなった八戸の諸事象のネットワークを立体的に可視化した。近年の弘前れんが倉庫美術館、アーツ前橋、太田市美術館・図書館と同様、海外の巨匠を展示するのではなく、ここも地域資源に注目している。ただし、ラーニングというプログラムを積極的に打ち出したのが、新機軸だろう。



桝本佳子




KOSUGE1-16のインバウンド




ギフト展の建築チーム展示


青森アートミュージアム5館連携協議会連携事業「建築にみるこれからの美術館 ~八戸市美術館の可能性~」のトークイベントにて、筆者はモデレーターを担当したが、閉じられた部屋での議論ではなく、上下左右のあちこちで人々が行き交うなかでのトークは、せんだいメディアテークのオープンスクエアよりも、さらに進んだ空間の体験だった。そして登壇者の発言、来場者の質問、視聴者の書き込みによって、今後この美術館をどう使ったらいいかという建築の可能性を考えるいい機会になった。実はトーク終了後の懇親会でも、同じテーマでさらに議論が続き、みんなで使い方をあれこれ提案したくなる、美術館の幸せな誕生に立ち会うことができた。市民からノルディック・ウォーク(!)に使いたいという要望があり、11月末に実現しているらしいが、この日も壁に何か描きたいとか、ジャイアントルームと諸室のアクティビティを逆転させるなどのアイデアが生まれている。



トーク会場


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