artscapeレビュー
国際芸術祭「あいち2022」 一宮市エリア
2022年09月01日号
会期:2022/07/30~2022/10/10
今回の芸術監督をつとめた片岡真実の出身地でもある一宮市のエリアは、やはり力が入っていた。まず、オリナス一宮(様式建築の旧名古屋銀行一宮支店)の内部に入れ子状に空間をつくり、奈良美智の作品群を設営していることで、多くの人がこの街に足を運ぶだろう。
ここから一番遠いのが、県内唯一の丹下健三による建築、《尾西生涯学習センター墨会館》(1957)だが、きちんと保存された1950年代のモダニズムが素晴らしい。三角形の敷地に沿って、外部に対しては壁をはりめぐらせ、閉じており、戦艦風でもあるし、ル・コルビュジエの影響も感じられる。かつては道路を挟んで向かいに、ノコギリ屋根の工場が存在し、対峙していた。ここは強烈な空間を体験するためだけでも、訪れる価値が十分にある。
繊維業で栄えた一宮市は、今もノコギリ屋根の風景が残るが、塩田千春の作品はまさにその下で糸のインスタレーションを展開していた。ただし、ツァオ・フェイの映像も、ノコギリ屋根の下なのだが、こちらはすでに天井を塞いでいる。必見の作品としては、旧スケート場の巨大な空間を使ったアンネ・イムホフの映像と音だろう。こうした異空間を体験できるのが、街なか会場の醍醐味である。なお、一宮市エリアのアーキテクトを担当した栗本真壱によれば、看護専門学校を展示場に用途変更することが大変だったという。
一宮は、各会場が離れているので、炎天下であれば、おそらく自動車でまわるのがベストである(美術関係者はタクシーを借り切ったという話も聞く)。筆者は自動車を使ったので、ついでにいくつかの建築も見学した。あいち2022の会場にもなった《豊島記念資料館》(1966)(もともとは図書館)は、清々しいモダニズムである。一方で内井昭蔵設計の《一宮市博物館》(1987)は、世田谷美術館の直後くらいの仕事で、脂がのった時期の超濃密なポストモダンだ(ノコギリ屋根の企画展示も開催していた)。無駄を排除する現代では、無理なデザインだろう。ほかにstudio velocityとしてはやや抑えたデザインの《一宮聖光教会》(2022)は、外観のみ見学した。こうした愛知県のさまざまな魅力を再発見させるのが、まさにあいちトリエンナーレから続く役割である。
「国際芸術祭あいち2022 STILL ALIVE 今、を生き抜くアートのちから」公式サイト: https://aichitriennale.jp/
2022/07/31(日)(五十嵐太郎)