artscapeレビュー
カタログ&ブックス | 2022年9月1日号[テーマ:紙と文字と本と──立花文穂の表現の「触感」が立ち上がる5冊]
2022年09月01日号
紙や活版活字を用いたコラージュなど、視覚・触覚を喚起する平面作品や書籍の仕事で独自の立ち位置を築くアーティスト/デザイナー立花文穂。『風下』(2011)、『KATAKOTO』(2014)、『書体』(2018)、『傘下』(2020)など、セルフパブリッシングや少部数で発行されるアートピースのような本も数多く手掛けてきた立花ですが、水戸芸術館現代美術ギャラリーでの「立花文穂展 印象 IT'S ONLY A PAPER MOON」開催(2022年7〜10月)に際し、彼の関連書のなかでも比較的入手しやすく、そして特にいま触れておきたい5冊をご紹介します。
今月のテーマ:
紙と文字と本と──立花文穂の表現の「触感」が立ち上がる5冊
1冊目:かたちのみかた
Point
立花が美術大学で教えていた際の、演習やワークショップでの実践の記録。自分の手や身近なものを「みる(観察する)」ことを出発点に、何かを作る際の身体性や想像力の働かせ方、感覚の研ぎ澄ませ方に至るまで、そのレッスンの射程は広大。立花文穂展の展示室全体にも、本書のエッセンスが散りばめられています。
2冊目:球体 volume4(2009) 運動〈特集〉
Point
責任編集とデザインを立花が務める形で2007年に刊行開始した雑誌『球体』。各号ごとの遊びのある造本も魅力的ながら、特集内容も「文字」(1号)、「東北圏」(2号)、「機会」(最新9号)など、その時期ごとの立花の興味の変遷が物体として刻まれています。この4号ではテーマ「運動」のもと横尾忠則も登場。
3冊目:谷川俊太郎詩選集 1(集英社文庫)
Point
父親が製本所を営んでいたという話とともに、本というメディアへの思い入れを過去にもたびたび語り綴っている立花。立花文穂展にも、彼が装丁を手掛けた本/装画として使用された作品が展示されており、この選集通しての装画となったドローイング「変体」「変々体々」も、展示会場でその実物が観られます。
4冊目:自炊。何にしようか
Point
料理家・高山なおみが一人暮らしになり、家で自ら作って食べるレシピを集めた一冊。カバーの鈍い質感の黒インクの光沢とラップに包まれたごはんのコントラストは、立花の近年の装丁仕事のなかでもとりわけ書棚で目を惹きます。高山の過去の著作ではほかに『料理=高山なおみ』『高山なおみの料理』なども立花による装丁。
5冊目:Leaves 立花文穂作品集
Point
装丁家としての側面に光が当たることも多い立花ですが、そのキャリアの始まりは95年、佐賀町エキジビットスペースでの作家としての個展から。本書は、立花が一貫して収集を続けている紙や本・活字を用い再構築した平面作品群を、制作当時の随筆などと併せて再録したもの。立花の表現の原点に触れられる気がする一冊です。
立花文穂展 印象 IT'S ONLY A PAPER MOON
会期:2022年7月23日(土)~10月10日(月・祝)
会場: 水戸芸術館 現代美術ギャラリー(茨城県水戸市五軒町1-6-8)
公式サイト:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5185.html
[展覧会図録]
『球体 9:機会 オポチュニティーズ』
2021年の東京ビエンナーレでのインスタレーション「オポチュニティーズ」。会期終盤、活版印刷機をJR総武線の御茶ノ水駅~秋葉原駅間の高架下スペースに運び込み、『楽機』と称して、IL TRENOのギター畑俊行とピアノ野村卓史が参加しセッションを行ないました。そのときの録音をプレスした2枚組のレコードです。
水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、第5室で『球体 オポチュニティーズ』が展示されています。レコードのabcd面が順番にかけられ、多様なスピーカーから流れる音を、大きな空間全体で浴びることができます。
◎水戸芸術館ミュージアム・ショップ コントルポアンで先行販売中。
2022/09/01(木)(artscape編集部)