artscapeレビュー

岡本秀「居かた、見ため」

2022年09月01日号

会期:2022/07/15~2022/08/07

FINCH ARTS/ARTRO(2会場)[京都府]

岡本秀の個展のプレスリリースには「各会場で展示される絵画作品には、一貫したテーマやコンセプトがあるわけではない」と書かれているが、展覧会タイトル「居かた、見ため」は明快に作品の見方、その入口を提案してくれる。描かれた作品も人物も、ひとりずつ、1点ずつタッチも違えばパースも違う。人物の場合であれば、どの人物が作品のなかで重要そうに見えるかという佇まいを増幅させる。竹内栖鳳がひとつの作品で複数の流派を合わせた鵺派のように、明快な派閥間闘争がタッチの違いで引き起こされるわけではないが、《くくるく療法》の中央に鎮座する西郷隆盛の肖像画ごとくずっしりと構えた登場人物を見ていると、どのような偉人の肖像画が多く残されてきたかということが、画面の中にいる複数の登場人物の存在感の大小と比例するかのようだ。額縁に押し込まれるように描かれた家事を行なう女性の後ろ姿、必死に綱を放すまいとする女性の手元。このように、展覧会中のいくつかの作品は、中心をつくることで周縁を浮かび上がらせ、人々の佇まいに目が行く。私たちはいままで何を見逃してきたのかと問いかけられる。その一方で、本展で繰り返し登場するモチーフ「✗」とはなにか。それはときには川のせせらぎを、山風を、波を、草を表わす。鳥の群れにも見えるし、何とも識別できないときもある。この「✗」は時代や文化圏を超えられるか。では、額の縁に描かれた女性はどうか。この二つの軸が交差することによって、「見た目」の認識が時のなかでどう変化していくのかという射程を持つ展覧会だったと言えるだろう。

なお、観覧は2会場とも無料でした。


岡本秀《くくるく療法》(2021-22)
64.0x88.0×2.0cm, 名塩雁皮紙、岩絵具、植物染料、墨、膠
©︎Shu Okamoto, Photo by Akane Shirai, Courtesy of FINCH ARTS


岡本秀《サザエ》(2022/部分)
47.0x74.3×2.0cm, 名塩雁皮紙、岩絵具、植物染料、墨、膠
©︎Shu Okamoto, Photo by Akane Shirai, Courtesy of FINCH ARTS 


岡本秀《藪》(2022/部分)
36.4x25.7×2.0cm, 名塩雁皮紙、岩絵具、植物染料、墨、膠
©︎Shu Okamoto, Photo by Akane Shirai, Courtesy of FINCH ARTS



公式サイト:https://www.finch.link/post/okamoto

2022/07/31(日)(きりとりめでる)

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