2022年12月01日号
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artscapeレビュー

木谷優太、林修平、室井悠輔「P 尽き果て」

2022年09月01日号

会期:2022/07/15~2022/08/07

IN SITU[愛知県]

本展は、名古屋駅からほど近いオフィスビルの一角にある「IN SITU」(完全予約制)で開催された木谷優太、林修平、室井悠輔によるもので、Pというのは「ポスト」を意味するという。

ポスト・トゥルース、ポスト・モダン、ポスト・コロナ、ポスト・コロニアル……次に何を考えるべきか、何を超えようとしているかと命名するとき現われる「P」。相対化の応酬たる「P」を3人はどのように扱うのか。


P:未踏の状態における可能性

宇宙に行ってしまったら、妄想の宇宙は消えてしまうという室井悠輔は、触れたことのないパチンコの絵《Cherry P》を描く。パチンコに幼少期からユートピアを感じながらも、金銭的余裕のなさから店に入ることすらできずにいるなかで描かれる資本主義の肖像。ポスト資本主義社会で重要視されるものが資本ではなく専門知だとして、未知なるものの価値はどうなるのかという問いであり、ひとつの答えだといえるだろう。


P:生活だけが残る

covid-19で注目を集めた言葉のひとつ「エッセンシャルワーカー」は、基本的に公共圏に不可欠な職種を指す。しかし、親密圏にもエッセンシャルワーカーは存在し、それはジェンダーに結びついているのではないかと、木谷優太は《二重生活》を制作する。木谷が「家庭内にあるエッセンシャルワーク」を男性である自身のセルフポートレイトでなぞるとき、何か違和感を感じたらそこにはジェンダーバランスの不均衡が見え隠れする。実家の壁にありそうなプラスチックの画鋲で留められた写真は、そのものが展示物でもあるのだが、人の家に貼られた写真を見てしまったような気持ちにさせる。何を超えようとも果てようとも、生活は残る。


P:次へ次へと果てに向かうのではなく

林修平の《帝國水槽》は熱帯魚が泳ぐネイチャーアクアリウムだ。ただし、その中にある水草は『満州水草図譜』(1942)に掲載されたものである。林は日本に植民地化された時代の満州国という枠組みのなかでの水草を生育環境の再現に用いることで、鑑賞者の内面に起こる二つの連続性を探ろうとしている。地域的あるいは時代的な戦後意識の連続性の有無である。どこまでを他者とみなし、どこまでを自身のこととして引き受けるか。

入場料は500円でした。


室井悠輔《Cherry P》(2022/部分)
合板、ダンボール、アクリルガッシュ、オイルパステル、アクリルメディウム、木工用ボンド、パテ、釘、画鋲、捨てられるはずだったもの、ほか
[撮影:木谷優太]


木谷優太《二重生活》(2022)
インクジェットプリント
[撮影:木谷優太]



林修平《帝國水槽》(2022)
水草、熱帯魚、石、木、二酸化炭素、水槽
[撮影:木谷優太]



公式サイト:https://twitter.com/IN_SITU43/status/1545728893168275458

2022/07/31(日)(きりとりめでる)

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