2022年12月01日号
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artscapeレビュー

没後40年 山中信夫☆回顧展

2022年10月01日号

会期:2022/07/16~2022/09/04

栃木県立美術館[栃木県]

これは展覧会のプレスリリースの枕詞だ。きっと、これから山中信夫を紹介するこの言葉は何度も形容を微細に変えながら繰り返されるだろう。


山中信夫(1948年大阪生まれ、東京出身)は、1971年に《川を写したフィルムを川に映す》という衝撃的な35mmフィルム映像作品で鮮烈なデビューを飾りながらも、1982年に滞在先のニューヨークで34歳の若さで急逝した伝説のアーティストです。


山中が「伝説」たるのは、彼の作品が場所に根ざした映像インスタレーション作品であったために、作品の残存数が約150点と少ないなかで、他者による批評文や口承によって作品の一部が洩れ伝わっているからだと言える。ただし、本展はその「伝説」をフレコミ上で強調しておきながら、さまざまな記述や口承に記録物といったアーカイブズを参照することで、「山中の作品の射程」を禁欲的に浮かび上がらせることに注力したものであった。会場は時系列に展示物が並んでおり、鑑賞者は画廊のダイレクトメールや資料から、ピンホールの魔術師がどこまでを考えていて作品をつくり、何は意図していなかったのか、山中における同時代性、作家の範疇を考えることができる。あるいは、山中の作品についてどこまで明らかになっているのかや、わかっていないことには「わかっていない」という貼り紙がされているのかなど、研究成果の全貌を知ることになる。これらは、作品不在のなかでの山中の神格化を押しとどめながら、山中につづく光と映像をめぐる後発の表現の背中を支えるような、情報開示のごとき展覧会の構成だ。

アーカイブズというものは不思議なもので、取り組むとなると、人ひとりの人生ぐらいは簡単に飲み込まれてしまう。場所も時間も人もお金も不可欠で、その必要性を訴えるうえでは、そのアーカイブズがほかと比べても重要な理由を随所で訴えねばならない。「伝説」、それはアーカイブズにふさわしい対象であると。しかし「アーカイブズ」は、伝説を解体する可能性としても存在する。アーカイブズがつくられるということ自体もまた権威を得ることであると同時に、その権威がどの程度のものであって然るべきかが検討可能になるという状況なのだ。本展は作品も資料も所せましと並べられ、展覧会名のスペクタクルとは裏腹に、彼の作品がいかに唯一無二であり、「アーカイブズとして保持されつづけるべきか」という得難い検証の場になったのではないか。今後、隔回で『美術史評』に掲載された山中自身によるテキストを読みながら、本展について考えたい。

なお、展覧会は800円で観覧可能でした。


展覧会会場写真(栃木県立美術館より借用)


展覧会会場写真(栃木県立美術館より借用)



公式サイト:http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/exhibition/t220716/index.html

2022/09/01(木)(きりとりめでる)

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