artscapeレビュー

棚田康司展「入って飛ぶ」

2024年03月01日号

会期:2024/01/17~2024/02/17

MIZUMA ART GALLERY[東京都]

第30回平櫛田中賞を受賞した棚田康司の個展。昨秋、岡山県井原市平櫛田中美術館で受賞記念展が開かれ、そこに出品された新作《地上を取り込むように》と《宙を取り込むように》の2点を公開している。両者とも縄跳びをしている無表情な人物を彫った木彫だが、どちらも上半身裸でマッシュルームカット、白いパンタロン姿というまるで半世紀前にタイムスリップしたかのようなファッション。胸が少し膨らんでいるが、それが乳房なのか発達した大胸筋なのかわからない、つまりモデルが男性なのか女性なのか判別しがたいようにつくられている。

2体の最大の違いは縄跳びの縄にある。《地上を取り込むように》は太い縄が展示室の床いっぱいに大きく広がっているのに対し、《宙を取り込むように》は細い金属製の縄が宙に向かって垂直に弧を描いている。ふと思うのは、この場合「彫刻」はどこまでを指すのか。木彫の本体か、縄まで含めるか、それとも木彫も縄も取り込んだ空間全体か。答えは作品名どおりということだろう。

それにしても、なぜ縄跳びなのか。縄跳びほど彫刻にしづらいモチーフもないだろう。縄跳びをすると必ず身体が宙に浮く瞬間があるが、その一瞬は絵に描くことはできるけど、彫刻にはできない。なぜなら彫刻には重力があり、床に置かなければならないからだ。だから棚田はあえて縄跳びを彫刻化したかったのではないか。つまり彼は「彫刻」を超えたかったのではないか。



棚田康司  左:《地上を取り込むように》、右:《宙を取り込むように》  展示風景 [筆者撮影]


今回は上記2点以外にも絵画を含めて何点か出品している。うち1点は女性の胸像だが、斜めから見た状態の浮き彫りで、床に置くのではなく壁に掛けている。これは彫刻といえるのか? もう1点は、頭部はリアルだが首から下は流動体のような気味の悪い人物像が、これも床置きではなく壁に掛けられている。奇妙なのは、身体の半分だけが壁から浮き出していて、文字どおり半身像になっていること。レリーフというより、彫刻の縦半分が壁に埋もれて見えなくなっているともいえる。どうやらわれわれが棚田彫刻のえもいわれぬ表情やいわくありげなポーズに目を奪われているうちに、彼はそっと彫刻から逸脱しようとしているのかもしれない。


棚田康司展「入って飛ぶ」:https://mizuma-art.co.jp/exhibitions/2401_tanada_koji/

2024/02/07(水)(村田真)

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