artscapeレビュー
建築家・吉村順三の眼 アメリカと日本
2024年03月01日号
会期:2023/12/22~2024/03/28
GALLERY A4(ギャラリー エー クワッド)[東京都]
日本を代表する近代建築家として後世に多大なる影響を与えた吉村順三。同世代の建築家たちと比べて彼が希有なのは、師であるアントニン・レーモンドからモダニズム建築を教わる一方で、自らもまた伝統的な日本建築や文化を伝えたという点があるからだ。本展は、こうした師弟間の日米異文化交流が戦前戦後を通して行なわれてきたことを主題に取り上げる。そもそもレーモンドが日本建築や文化に関心を抱いたきっかけは、帝国ホテル二代目本館の計画時にフランク・ロイド・ライトの設計助手として初来日したことだった。簡素な木造建築の町並みと庶民の暮らしぶりにすっかり魅了され、それらを「生活の芸術」と称して絶賛したのだという。そして早々に独立したレーモンドの下へ、彼の建築に惚れ込んだ吉村が飛び込んでいく。
戦前の1940年に吉村はレーモンドの要請を受けて渡米し、14カ月間、「レーモンド・ファーム」と呼ばれる自邸兼スタジオで住み込みながら学び働いた。ペンシルバニア州フィラデルフィア郊外にあるそこはファームというだけあり、農場も兼ね備えていたのが特徴で、所員たちは建築設計の見習いだけでなく、農業の手伝いもしたという。なんと牧歌的な……と思うが、自然と共生しながら、人が快適に住み暮らすとはどういうことなのかを、「レーモンド・ファーム」は自ら体験する場だったのだろう。そこの大きなガラスの開口部に、吉村が伝えた日本の障子がはまっていたのである。
本展では、吉村の眼(まなざし)として、14カ月間の米国滞在中に彼が撮った写真をはじめ、その後、米国や日本で設計した建築作品の数々が紹介されている。米国で伝統的な日本文化を伝え、日本で米国流の自由で平等な生活様式を取り入れた吉村。そんな日米間を行き来する媒介者だった彼の根底には、必ず人々の暮らしと風土があった。かつてレーモンドが魅せられたのは簡素な木造建築の町並みとそこで暮らす庶民であり、その眼を醸成するような「レーモンド・ファーム」が吉村の出発点だったからこそ、彼には住み手や使い手に立った視点が揺るぎなくあったに違いない。
建築家・吉村順三の眼 アメリカと日本:https://www.a-quad.jp
2024/01/27(土)(杉江あこ)