artscapeレビュー

大阪のビジネス街と日建設計

2024年03月01日号

[大阪府]

朝から夕方まで、大阪の各地にあるビジネス街をはしごして回り、日建設計が関わったプロジェクトを確認した。まず南港エリアでは、《さきしまコスモタワー(大阪府咲洲庁舎)》(1995)や《アジア太平洋トレードセンター》(1994)などの巨大建築がある。前者はカラフルなポストモダン・ハイテクであり、学生の頃、こういうタイプの卒計が多かったことを思い出す。後者もダイナミックな造形だが、なぜ中間階にホテルが入っているのかと思ったら、近年の改装によるものだった。日本に勢いがあった時代の建築である。もっとも、いずれもバブル崩壊やアクセスが悪いことなどにより、想定されたオフィスの需要が望めず、大阪の役所機能を部分的に移転させて、空室が埋められた。ところで、コスモタワーの大きな吹き抜けに、彫刻が不自然な状態で並べられており、明らかに展示というよりも、仮置き風である。なるほど、美術品を地下駐車場に「保管」していたことで問題になった大阪府咲洲庁舎はここだった。慌てて、美術品の一部を、地上階に移動させたのかもしれない。



日建設計+マンシー二・ダッフィ・アソシエイツ《コスモタワー》



日建設計《アジア太平洋トレードセンター》



大阪府咲洲庁舎の美術品


なお、ともに日建設計が手がけたミズノ本社ビル横に完成した《イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」》(2023)は、走行、各種の球技などの計測、試作、テストを行なう研究施設である。その結果、オフィスとスポーツの空間を組み合わせたチュミのディス・プログラミング的な刺激をもたらす。精密な測定器具の進化が、新しい施設の誕生を促した。



日建設計《イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」》


大阪ビジネスパーク(OBP)は、初訪問だった。ここは砲兵工廠跡の再開発であり、槇文彦事務所や竹中工務店と共に日建設計がプロジェクトを計画している。街路空間が連続するこのエリアは、1980年代の後半から1990年にかけて、次々とビルが完成した。日建設計は、ツイン21の印象的なアトリウム(中心軸から大阪城が見える)、足元にアーケードを抱える松下IMPビル、ホテルニューオータニ、専用入口をもついずみホールを組み込む住友生命OBPプラザビル、橋の向こうにある大阪城ホールを手がけている。

中心部の御堂筋から北浜のエリアでは、昨年完成した2つのリノベーションを見学した。ひとつは住友ビルディング本館のエントランス改修であり、ピッチが変化していく立体の木格子を天井に反復させることで空間の印象を大きく変えた。住友の森から木材を調達し、道路向こうの緑と連続しつつ、頭上の奥行きも与えている。そして日建設計の大阪オフィスが引越に伴い、什器のリサイクルや転用、そして自然換気を可能にする窓にとりかえるなど、空間のリノベーションだけでなく、フロアごとに業務のプログラムを再編集した。特筆すべきは、IoTによって新しいワークプレイスの実験に自ら挑戦していること。フリーアドレスを生かし、均質な空間のオフィスに代わり、人の動きとの相互作用によって、あえてムラのある環境を随時生みだす。


日建設計《松下IMPビル》(1990)


日建設計《ツイン21》(1986)


日建設計《住友ビルディング本館》(1962)の改修したエントランス(2023)

2024/02/13(火)(五十嵐太郎)

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