artscapeレビュー
関西の2つの博覧会のレガシー
2024年03月01日号
[兵庫県、大阪府]
研究室で日建設計のリサーチ・プロジェクトを進めており、大阪と神戸の作品を集中的に回ったが、そのなかで2つの博覧会の跡地を訪れ、改めてレガシーについて考えさせられた。
まず人工島のポートアイランドは、中学生のときに、1981年の神戸ポートアイランド博を見て以来の再訪である。これは日本各地で地方博覧会を開催するきっかけとなったが、いまも導入部のエリアが残り、これらを担当したのが日建設計だった。すなわち、列柱に囲まれた市民広場(ポートアイランド線の駅名にもなっている)、国際会議場、そして見る角度によって形が変わる、湾曲したプランをもつ《神戸ポートピアホテル》である。ホテルは現在も豪華感はあり、意外に盛況だった。また広場ではバレンタインデーに関するイベントの設営中だった。批判が集中する2025年の大阪・関西万博も、木造リング、パビリオン、トイレなどを残せば良いと思うのだが、その後のフリーハンドで開発できるIR化が前提になっているために、レガシーにする発想がないのだろう。なお、ポートピアの跡地には、安藤忠雄による建築も存在する。
その翌日は、久しぶりに花博記念公園 鶴見緑地に足を運んだ。バブルの絶頂期だった1990年に国際花と緑の博覧会が開催された跡地であり、いくつかの施設が残っている。日建設計による《咲くやこの花館》は、池に浮かぶ睡蓮をイメージしたという巨大なガラスの温室だ。注目すべきは、中央の屋根が開閉するメカニズムだが、このエリアは植物のための温室ではなく、イベント会場の上部である。温室部分は跳ね上げ式の細い可動式開口を備えていた。また世界各地の植物に適したさまざまな気候に合わせた空間が必要なため、施設内において冷暖房の熱を循環させるシステムは興味深い。ほかにも記念公園では、博覧会のレガシーとして、川崎清による《生命の大樹「いのちの塔」》(現在、展望室は閉鎖)、いずれもダイナミックな構造をもつ磯崎新の《国際陳列館》と《国際展示水の館》が存在している。前者は1階で子どものボクシング大会をやっていたが、上階の大きな空間はあまり活用されていないようだった。後者の展示施設は、円形屋根を支える柱が室内にあるものの、(本来は無柱が望ましい)スポーツセンターに転用されている。また当初はガラス面に水が流れていたと思われるが、もう稼働していない。博覧会の施設を残したあと、どのように活用するかも重要なテーマだろう。
2024/02/11(日)、12(月)(五十嵐太郎)