artscapeレビュー
ミュシャ展
2017年04月15日号
会期:2017/03/08~2017/06/05
国立新美術館[東京都]
国立新美術館ができて10年経つが、今回ほど天井の高い巨大空間を生かしきれた展覧会はないと思った。あ、いま思い出したけど「貴婦人と一角獣」展は少し生かしてたっけ。ともあれ貧乏人なもんで、展覧会を見るたびに壁の上半分がもったいないなあと思っていたのだ。とにかく作品がデカイ。最大6×8メートルの大画面が20点もあるから壮観だ。作品の上辺と天井のあいだにほとんど隙間がない! もうそれだけで感動してしまう。アルフォンス・ミュシャの《スラブ叙事詩》シリーズのことだ。だいたい、こんな大きなキャンバスがあった(つくった)ことにも感心する。画面の縁を見ると、額縁の奥にハトメがついているのが見えるので、おそらく木枠に張らず、額縁の裏側から引っ張って留めているのだろう。なるほど、これなら外して丸めれば搬送は比較的楽だ。
さて、ミュシャといえば、一般には19世紀末のパリの街を飾った華麗なポスターで知られるアールヌーヴォーの画家(というよりデザイナー)だが、その後のことはあまり知られていない。1910年に50歳で故郷ボヘミアに戻ってから、自己のルーツであるスラブ民族のアイデンティティをテーマにした《スラブ叙事詩》に着手、16年ほどを費やして全20点を完成させた。これは各画面とも人物が数十人単位で登場する壮大な物語画で、描写力は見事というほかない。どっちかというと印象派以前の写実絵画だが、一方で輪郭がはっきりしているうえ塗り方も平坦なので、ペインティングというよりイラストレーションにも近い。完成したのは、ダダやシュルレアリスム、抽象が出そろった1926年のことだから、テーマもスタイルもすでに時代遅れと見なされたことだろう。しかも第二次大戦後チェコは共産圏に入ったこともあって、これほどの超大作なのにほとんど知られることがなかったのだ。芸術作品にも制作するタイミング、発表するタイミングというものが重要なんですね。
2017/03/07(火)(村田真)