artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

日本におけるキュビスム─ピカソ・インパクト

会期:2016/11/23~2017/01/29

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

昨年末から風邪気味のまま年が明けて、ズルズルと2週間ほどたってしまった。こんなに展覧会を見なかったのは3.11以来だろうか。で、今年初めての展覧会は、少し遠出して、玉近の「日本におけるキュビスム」。これは見たいけど見に行くのが億劫だったが、いまを逃せば高知まで足を延ばさなければいけないので重い腰を上げる。そもそもこの展覧会、鳥取(県立博物館)で立ち上がり、埼玉を巡って高知(県立美術館)に行くという珍しい巡回展。なんで人の少ないところを回るんだろ。関西の人たちはどっちに行けばいいんだ? 悩ましい展覧会だ。どっちにしろもう高知しか選択肢はないけどな。それでも行ってみる価値のある、とてもいい展覧会です。内容はタイトルどおり、日本はいかにキュビスムを受け入れたかを、約170点の作品で探るもの。
まず最初に来るのが萬鉄五郎の《もたれて立つ人》。1917年作というから、ピカソが《アヴィニョンの娘たち》を描いてからすでに10年たってるが、細かい部分はともかく、実際に見てきたわけでもないのにけっこう自分のものにしている(じつはこれ以前からヨロテツはキュビスム風の絵は描いていた)。東郷青児の1915年作《コントラバスを弾く》も早いが、これは未来派やレイヨニスムもごちゃ混ぜになっている。そう、幸か不幸か日本には“現物”や“見本”がほとんどなかったため、画家たちは少ない情報を頼りに想像力で補ったり、日本の状況に合わせて改変したり、ある意味独自の、またはこういってよければ奇形的な作品が生み出されていったのだ。展覧会の前半は戦前の作品で、真ん中あたりにピカソやブラックの“本物”が置かれ(ただし国内にある後期の作品や版画が多い)、後半はキュビスムというよりピカソの影響の色濃い作品を並べている。後半のほうは1937年作の《ゲルニカ》および、敗戦間もない1951年に開かれた「ピカソ展」に感化されたもの。あまりにあからさまな山本敬輔の《ヒロシマ》をはじめ、松本竣介、岡本太郎、難波田龍起、吉原治良、池田龍雄、河原温、それに初期の山田正亮まで入ってる! ほとんど全員じゃないか、と思えるほど。驚くのは、高山辰雄をはじめとする日本画家、彫刻家、工芸家にまで影響を及ぼしていることだ。これほど広範囲に及んでいるとは思わなかった。これはもう単なる流行現象ではなく、通過儀礼ですね。

2017/01/13(金)(村田真)

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東京凸凹地形─地形から見た東京の今昔─

会期:2016/11/26~2017/02/12

東京都立中央図書館[東京都]

ちょっと調べものがあって訪れた図書館でやっていた展覧会。デジタル標高地形図や微地形模型、あるいは浮世絵に描かれた名所風景などで、東京がいかに起伏に富んだ土地であるかを教えてくれる。特に山の手と下町は文字どおり低地の下町に山の手が迫るかたちをしていて、東京が東西で完全に2分化されてること、そして、水位が5メートル上がるだけで東京23区のおよそ半分が水没することがわかる。でも地形図には反映されてないけど、都心はビルなどの建造物に覆われているので、2階以上の建物は無数の小島となって水面から顔を出すはず。ちょっと見てみたい光景ではある。

2016/12/27(火)(村田真)

世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画

会期:2016/11/16~2017/01/09

サントリー美術館[東京都]

日本に初めて西洋画がもたらされたのは16世紀のことだが、江戸時代になると鎖国政策により幕末まで西洋画は途絶えてしまう。そんななかで細々と西洋画に挑んだのが江戸の平賀源内であり、彼に導かれて洋風画を学んだ秋田藩士の小田野直武、および秋田藩主の佐竹曙山らであった。今回はその小田野を中心とする秋田蘭画を紹介するもの。彼らは西洋画を目指したものの、道具も情報もないなかで悪戦苦闘したため、日本の風物を日本の画材で西洋風に描く「洋風画」にとどまった。これがなにやらチグハグな和洋折衷で、そこが最大の魅力だったりする。具体的には遠近法や陰影などを採り入れ、近景の木の幹や枝を大きく配す構図が特徴だが、こうした技法が幕末の高橋由一や五姓田義松らによる油絵に受け継がれ、日本の近代絵画の基礎が固められていったのだ。洋風表現の系譜をたどると、いまの日本人の美意識にもつながっているようでおもしろい。

2016/12/25(日)(村田真)

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HITOTZUKI「ALTERRAIN」

会期:2016/12/16~2017/01/28

SNOW Contemporary[東京都]

青を貴重にしたシンメトリックな壁画で知られるHITOTZUKIの個展。キャンバスにデジタルな形態を青系のグラデーションで描いているが、よく見ると定規やコンパスを駆使した手描きであることがわかる。やっぱりキャンバスでは物足りないのか、壁にもツタがはうようにペインティングが延びている。ちなみにHITOTZUKI(ヒトツキ)とは男女のコラボレーションユニットで、「日と月」であり、男と女、陰と陽をも意味するそうだ。

2016/12/21(水)(村田真)

ヴァルダ・カイヴァーノ展

会期:2016/12/16~2017/02/04

小山登美夫ギャラリー[東京都]

鉛筆で描いたドローイングの上から薄く溶いた青系の絵具を塗った絵。塗り残しの余白も含めて受験生の油絵を思い出した。もちろん彼女の絵が受験生レベルってことじゃなくて、逆に受験生絵画をもう少し見直したらいいんじゃないかと。

2016/12/21(水)(村田真)