artscapeレビュー
日本におけるキュビスム─ピカソ・インパクト
2017年02月15日号
会期:2016/11/23~2017/01/29
埼玉県立近代美術館[埼玉県]
昨年末から風邪気味のまま年が明けて、ズルズルと2週間ほどたってしまった。こんなに展覧会を見なかったのは3.11以来だろうか。で、今年初めての展覧会は、少し遠出して、玉近の「日本におけるキュビスム」。これは見たいけど見に行くのが億劫だったが、いまを逃せば高知まで足を延ばさなければいけないので重い腰を上げる。そもそもこの展覧会、鳥取(県立博物館)で立ち上がり、埼玉を巡って高知(県立美術館)に行くという珍しい巡回展。なんで人の少ないところを回るんだろ。関西の人たちはどっちに行けばいいんだ? 悩ましい展覧会だ。どっちにしろもう高知しか選択肢はないけどな。それでも行ってみる価値のある、とてもいい展覧会です。内容はタイトルどおり、日本はいかにキュビスムを受け入れたかを、約170点の作品で探るもの。
まず最初に来るのが萬鉄五郎の《もたれて立つ人》。1917年作というから、ピカソが《アヴィニョンの娘たち》を描いてからすでに10年たってるが、細かい部分はともかく、実際に見てきたわけでもないのにけっこう自分のものにしている(じつはこれ以前からヨロテツはキュビスム風の絵は描いていた)。東郷青児の1915年作《コントラバスを弾く》も早いが、これは未来派やレイヨニスムもごちゃ混ぜになっている。そう、幸か不幸か日本には“現物”や“見本”がほとんどなかったため、画家たちは少ない情報を頼りに想像力で補ったり、日本の状況に合わせて改変したり、ある意味独自の、またはこういってよければ奇形的な作品が生み出されていったのだ。展覧会の前半は戦前の作品で、真ん中あたりにピカソやブラックの“本物”が置かれ(ただし国内にある後期の作品や版画が多い)、後半はキュビスムというよりピカソの影響の色濃い作品を並べている。後半のほうは1937年作の《ゲルニカ》および、敗戦間もない1951年に開かれた「ピカソ展」に感化されたもの。あまりにあからさまな山本敬輔の《ヒロシマ》をはじめ、松本竣介、岡本太郎、難波田龍起、吉原治良、池田龍雄、河原温、それに初期の山田正亮まで入ってる! ほとんど全員じゃないか、と思えるほど。驚くのは、高山辰雄をはじめとする日本画家、彫刻家、工芸家にまで影響を及ぼしていることだ。これほど広範囲に及んでいるとは思わなかった。これはもう単なる流行現象ではなく、通過儀礼ですね。
2017/01/13(金)(村田真)