artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
TWS-Emerging 2016 第5期
会期:2016/11/26~2016/12/25
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
片貝葉月、新宅睦仁、染谷浩司の3人。片貝はさまざまな日用品や機械の部品を寄せ集めてなんの役にも立たないような、例えば《なみだ流し機》《眉間しわ寄せ機》《貧乏ゆすり機》といった複雑な装身具を組み立てている。本人は「現代実用私的装置展覧会」と称しているが、そんな無用の装置が数十点並ぶさまはある意味感動的ですらある。新宅はコンビニから出る弁当の山を時計にダブらせ、染谷はこれまで描いた作品を並べて「収穫祭」を敢行。今回は全体的にガラクタ的でゴミタメっぽくて好感がもてた。
2016/12/02(金)(村田真)
試写『ホームレス ニューヨークと寝た男』
スタイリッシュなスーツに身を包んだ長身でハンサムなファッション・フォトグラファー、マーク・レイ。ニューヨークの街なかでモデルに声をかけて写真を撮り、レストランで食事してクラブで女の子たちと酒を飲み、でも寝に帰るのはビルの屋上だ。朝、シートからはい出してトイレで身だしなみを整え、いざ出勤。昼夜の、というより起きてるときと寝てるときの環境の落差が極端に激しく、これはなかなか勇気と体力のいる生活だ。でも寝てるときは夢のなかだから環境なんてどうでもいいともいえるわけで、本人もきっとそう考えているに違いない。ちなみに、彼の1カ月の生活費は食費450ドル、交際費300ドルなど計1200ドル(約14万円)。いまマンハッタンの平均家賃は1DKで2200ドル(約26万円)もするそうだから、圧倒的にリーズナボー。それにしても本当に実践してるヤツがいるとは! 見ているうちに本当にドキュメンタリーなのかと疑ってしまう、ウソみたいなドキュメンタリー映画だ。なにげにショーンKを思い出した。ちなみに原題は「HOMELESS」ならぬ「HOMME LESS(オムレス)」。
2016/12/02(金)(村田真)
クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91
会期:2016/10/01~2016/12/04
水戸芸術館現代美術センター[茨城県]
茨城県北芸術祭開催(もう終わっちゃったけど)に合わせ、4半世紀前に県北の地で行なわれたクリスト&ジャンヌ=クロードによる《アンブレラ》プロジェクトを回顧。《アンブレラ》は、太平洋を隔てて茨城県とカリフォルニア州の日米2カ所で、直径8.7メートルの巨大傘3100本を開くという途方もなくバカげたプロジェクト。近年こうしたおバカなプロジェクトが減り、お行儀がよくて社会の役に立つアートばかり増えているのは寂しい限りだ。展示は、数十点に及ぶドローイングやコラージュを中心に、写真、記録映画、傘本体のほか、分厚い束の調査書や厖大な量の契約書、許認可書、アルバイトの手配、傘の開閉マニュアルなどの資料も出ている。傘をつくって立てるだけでも大変なのに、傘が風に飛ばされないように風洞実験を重ね、傘を立てる土地の地権者全員に会って許可をもらい、工場に特注し、数百人ものスタッフを集めて管理しなければならない。そうした事務手続きを考えるだけでも気が遠くなりそう。いくら分業しているとはいえ、これだけの作業をこなす合間に数百点ものドローイングを描くのだから、やっぱりクリストはすごい。というところに感心していてはいけないんだけどね。
2016/11/29(火)(村田真)
石内都「命の衣─百徳と背守り」
会期:2016/11/05~2016/12/18
鎌倉画廊[神奈川県]
閉廊まであと1時間。画廊は鎌倉山にあるので、4人いるからタクシーを飛ばそうと思ったが、なかなか来ないのでやっぱりバスで行くことに。どっちにしろ道は1本しかなく、すごい混雑で間に合わないことがわかったため、車中から電話して画廊を開けておいてもらい、15分ほど過ぎて到着。今日は交通難だ。今回の石内都展は、幼児の着物の背中に魔除けの刺繍を施した「背守り」と、老人や近所の人たちから集めた端切れを縫い合わせて子どもの成長を願った「百徳着物」を撮った写真の展示。着物のシワを伸ばして折り目正しくきっちり撮るのではなく、シワの陰影や部分的なボケなどをむしろ強調しているようにも見えるのは、石内がこれらを「標本」としてではなく「生体」として捉えているからではないだろうか。いいかえればこれらは「静物写真」ではなく「生物写真」なのではないか。
2016/11/26(土)(村田真)
松本竣介 創造の原点
会期:2016/10/08~2016/12/25
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館[神奈川県]
今日は某女子大の教え子3人と展覧会巡り。まずBankARTで待ち合わせ、柳幸典展を見てから鎌倉へ移動。ところがJRが事故のため動かず、地下鉄に乗り換えたため金も時間も無駄にかかってしまった。くっそおおお! 鎌倉に行くのは本館の最後の展覧会以来だが、今回は別館での展示。出品作品はコレクションが中心で、点数もそれほど多くない。油彩、デッサンなど竣介だけで約60点。ほかに麻生三郎、靉光、寺田政明、井上長三郎、鶴岡政男ら新人画会のメンバーや、藤田嗣治の裸婦像も。また、竣介の撮影した風景写真や書簡、雑誌(特に戦時中の座談会「国防国家と美術」と、それに竣介が応えた「生きてゐる画家」が載った『みづゑ』誌)、スケッチ帖などの資料類が充実しているのは鎌近らしい。それにしても、4年前に大規模な生誕100年記念展を葉山でやったのに、なぜまた半端な規模の松本竣介展を開くのか不思議に思ったが、これはどうやら鎌近の宿命なのかもしれない。鎌近が公立美術館で初めて竣介の作品を紹介したのは、画家の死後10年の1958年のこと。その後、遺族らから寄贈を受けて、68年に旧館の1室を松本竣介記念室として公開したが、まもなく閉室。84年に別館が開館すると、展示室の一部を松本竣介コーナーとして作品を公開してきた。鎌近はつねに竣介とともにあり、その作品を紹介し続ける運命にあるのだ。
2016/11/26(土)(村田真)