artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
サイ・トゥオンブリーの写真 ─変奏のリリシズム─
会期:2016/04/23~2016/08/28
川村記念美術館[千葉県]
スクールの生徒たちと美術館見学。目的はステラの絵画とロスコ・ルームだが、サイ・トゥオンブリーの写真展もやってるので、あまり気が進まないけどせっかくだから見てみる。これが期待はずれに(?)よかった。当初気が進まなかったのは、トゥオンブリーはリヒターみたいに写真に連動した絵を描くわけではないので、写真には興味が持てなかったからだ。でも見てみたら、これが実になんというか、ストライクゾーンが狭いというか、ツボに見事にハマる写真だった。被写体はモランディのような数本の瓶だったり、古代遺跡だったり、部屋の片隅だったり、絵や彫刻の一部だったり、花のクローズアップだったり、とりとめのないものばかりで、生身の人間はまったく登場しない。ポラロイドで撮影されてるためか(展示作品は拡大したドライプリント)、ブレたり焦点が合わなかったりするものが多く、一見なんでこんなものを、こんなふうに撮っているのか理解しにくいが、同時に「好き」か「嫌い」かでいえば明らかに「好き」な写真であることに間違いない。ではなんで好きなのかというと、好きなモチーフとか奇抜な構図とかを狙っているからではなく(いや好きなモチーフもあるが)、四角い画面になにかが写るという意味で「写真」を撮っているからだ。説明を必要としない写真というか、弁解のない写真というか。もうそのまま「写真」。こういう写真は撮ろうと思って撮れるものではない。その困難さを絵にたとえれば、まさにトゥオンブリーの絵画になる。描こうと思って描ける絵ではないからだ。ああ見てよかった。写真100点のほか、絵画と彫刻約30点も加えた展示。
2016/07/17(日)(村田真)
12 Rooms 12 Artists 12の部屋、12のアーティスト UBSアート・コレクションより
会期:2016/07/02~2016/09/04
東京ステーションギャラリー[東京都]
世界最大のアートフェア「アート・バーゼル」などに支援する金融グループ、UBSの企業コレクション3万点以上のなかから、12作家の約80点を選んで展示。「12の部屋」といっても作家ごとに12室に分けているわけではなく、ただ作家別に展示してあるだけ。エド・ルーシェとルシアン・フロイドが中心で、ふたりで50点以上を占めている。チラシにはフロイドの油彩画が使われているが、フロイドの油彩はこれ1点だけで、25点はエッチング、1点は水彩だ。エド・ルーシェは28点のうち油彩は3点だけで、あとは版画とドローイングばかり。ミンモ・パラディーノは油彩1点、サンドロ・キアは油彩2点、デイヴィッド・ホックニーはドローイング2点にフォトコラージュ1点の出品。なんか期待はずれの展覧会だが、唯一、片脚が台座からはみ出したアンソニー・カロのブロンズ彫刻《オダリスク》は、見て得した気分になれた。
2016/07/15(金)(村田真)
From Life─写真に生命を吹き込んだ女性 ジュリア・マーガレット・キャメロン
会期:2016/07/02~2016/09/19
三菱一号館美術館[東京都]
昨年、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で、生誕200年を記念する回顧展が開かれたジュリア・マーガレット・キャメロンの巡回展。キャメロンは48歳のとき娘夫妻からカメラを贈られて撮り始めたという遅咲きで、その後の活動期間も亡くなるまでの15年足らずにすぎないが、写真を撮り始めてわずか1年半後にはV&Aの館長に作品を売り込み、首尾よく収蔵され(寄贈を含めて114点も!)、展示されている。それが1865年のことなので、初展示から150年の記念展でもある。それにしても日本だったら、カメラを手にしてまもないアマチュアがピンぼけ写真を美術館に売り込むなんて、勘違いの中年おばさんと非難されるはず。館長もよく購入の決断を下したものだ。実際キャメロンの写真はブレやピンぼけ、プリントの傷も多く、技術的にはどうかと思うが、結果的にそれが19世紀ヴィクトリア朝の空気を写し出しているのも事実。というよりむしろ、キャメロンの写真が19世紀イギリス社会のイメージを決定づけた面もあるかもしれない。それほど彼女の写真は人口に膾炙しており、キャメロンの名前を知らなくても作品はどこかで見たことがあるはずなのだ。特に知られているのが、アンニュイな表情をした一群の少女写真であり、詩人のテニスン、生物学者のダーウィン、天文学者のハーシェルらの肖像写真だ。思い出したけど、映画「ハリー・ポッター」のハーマイオニーやダンブルドア校長などは、キャメロンの写真から出てきたんじゃないかと思えるほど似ている。ああいうイメージなのだ。
2016/07/15(金)(村田真)
瀧本光國「彫相」
会期:2016/06/25~2016/07/30
東京画廊+BTAP[東京都]
瀧本はイタリアで豊福知徳に師事した彫刻家で、作品は一見シュテファン・バルケンホールみたいな荒削りの人物像に着彩した木彫。高さ2メートルを超す片脚だけの大作もあれば、15センチほどの小品もいくつかある。どこかで見たことあるような気がする作品もあって、なんだろうと思ったら、萬鉄五郎の《日傘の裸婦》だった。ほかの作品も絵を元にしているらしい。裸婦が中心だが、窓枠の向こうの人物とか、ドアの陰から顔を出す人物といった状況を彫刻にした小品もあって、のどから手が出そうになる。ちなみにタイトルにある「相」とは木目のことであり、また木を目で見ることでもあるらしい。
2016/07/15(金)(村田真)
石内都展 Frida is
会期:2016/06/28~2016/08/21
資生堂ギャラリー[東京都]
メキシコシティにあるフリーダ・カーロ博物館からの依頼により、フリーダの遺品を撮った写真。パリやロンドンでは展示されたが、日本では初公開となる。遺品は色鮮やかなドレスをはじめ、コルセット、靴、装身具や化粧品、眼鏡、義足、割れた鏡など。カメラは大型ではなく35ミリ、特別な照明も使わず自然光の下で撮ったという。これまで傷や痛みの記憶、遺品などを撮ってきた石内ならではのモチーフだ。フリーダほど心身ともに傷を抱えた女性はいないからね。
2016/07/15(金)(村田真)