artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
第5回 新鋭作家展 型にハマってるワタシたち
会期:2016/07/16~2016/08/31
川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]
この新鋭作家展は公募で作家を選ぶのだが、ただ作品を審査して入選作を展示するのではなく、市民も作品づくりに参加し、一緒に展覧会をつくっていく1年がかりのプロジェクトなのだ。そのため審査もポートフォリオ、プレゼンテーション、面談と3段階に分けて慎重に行なわれる。で、今年選ばれたのが大石麻央と野原万里絵という同世代のふたり。大石は、ハトのかぶりものと黄色いTシャツを着けたハト人間のポートレートを展示。これは会期前に開かれた「着るアート体験&撮影大会」で、100人を超す市民にかぶりものと黄色いTシャツを着けてもらって撮影。これらの写真に加え、ハト人間の等身大の像も展示している。野原は高さ5メートル、幅10メートル近い大絵画2点の出品。木炭でステンシルの技法を使って描かれたモノクロ画面だ。こちらは「パンと炭で巨大壁画に挑戦」というワークショップを開催。子供たちが型紙を使って野原とともに協働制作を行なった。大石は同じマスクとTシャツを使い、野原は型紙をステンシルとして用いる点で、どちらも「型」を重視していることから、タイトルは「型にはまってるワタシたち」になったそうだ。美術館ほどの規模もコレクションもない施設だが、それだけに市民に密着した活動に磨きがかかっている。
2016/08/28(日)(村田真)
ときたま展 ぷらたま生誕!
会期:2016/08/22~2016/08/27
巷房[東京都]
ペラペラの透明なプラスチック板「プラバン」に、油性ペンで絵を描いて切り取り、トースターで熱すると3分の1ほどに縮まって手ごろなアクセサリーとなる。知らなかった。ときたまは1年前これにハマって半年足らずで千個を越えた。次にサイズを大きくしたり、3枚組み合わせて自立する彫刻にしたりどんどん進化。全部で1500個ほどになり、「ぷらたま」と名づけて個展を開くことにしたという。3階の巷房1では大作(といっても30センチくらい)を百個ほど、地下の巷房2では透明な袋に入れた小品を千点ほど、階段下には数百個を床にインスタレーションしている。しかしいくらハマったとはいえ、絵を描くのが好きじゃなかったと自認する人(だから描かれているのは抽象パターン)が、1年たらずで1500個もつくるか? 本人いわく「人間、何がやってくるか分からない。天からやって来たとしかいいようがない」。抽象パターンといい、天啓といい、集中力といい、ある種のアウトサイダーアートを思わせる。
2016/08/26(金)(村田真)
UNKNOWNS 2016
会期:2016/08/22~2016/08/27
藍画廊、ギャラリー現[東京都]
東京造形大学の絵画専攻の学生が出品し、慶応義塾大学美学美術史の学生が批評を書くというこの交流展も5回目。造形大は近藤昌美ゼミ、慶応大は近藤幸夫ゼミの学生が参加していたが、慶応の近藤先生が2年前に亡くなったため、今年がおそらく最終回になりそう。今回は藍画廊に菊池遼と瀬端秀也、ギャラリー現に品川はるなが出品。同じゼミながら作品は三者三様だ。菊池は写真を元にぼんやりしたイメージを浮かび上がらせたり、洞窟壁画に描かれた動物の輪郭をトレースしたり、いろいろ出してるが、作者の関心はおそらく、人間はいかにものを見るか、認識するかにあるだろう。瀬端は乳首かペニスを思わせる肉感的な形象を描いている。その丸っこい形態は、60年代のアメリカのTVアニメ「キャスパー」とか「オバケのQ太郎」を思い出すが、作者は知らないだろうね。品川は画面を単色のアクリル絵具で覆い、その一部をはがすのだが、はがした絵具は取り去らないで垂らしておく。ものによっては画面にカーテンがかかってるようにも見え、キャンバスと絵具との関係を問い直しているようにも感じる。絵具を物体として扱う傾向は近年しばしば見られるが、こうした扱い方は珍しい。
2016/08/26(金)(村田真)
ブレイク前夜展
会期:2016/08/18~2016/08/28
スパイラルガーデン[東京都]
BSフジで「ブレイク前夜~次世代の芸術家たち」という番組があるそうだが、そこで取り上げられた期待される作家25人を紹介するもの。といっても現代美術は少なく、日本画、版画、陶芸、盆栽、人形といった伝統技巧に頼るジャンルが目立つ。そのせいか、共通するのはみんな仕事が細かく仕上げも丁寧で、ひとことでいえば工芸的なこと。ペインティングもいくつかあるが、加茂昂と佐藤令奈がいい。加茂は雪山と瓦礫の山、佐藤は赤ちゃんの顔とモチーフはまるで違うが、どちらも筆触が魅力的だ。
2016/08/19(金)(村田真)
会田誠 展「はかないことを夢もうではないか、そうして、事物のうつくしい愚かしさについて思いめぐらそうではないか。」
会期:2016/07/06~2016/08/20
Mizuma Art Gallery[東京都]
コンビニ弁当のプラスチック容器を支持体に見立て、着色した発泡ウレタンを塗布した「絵画」。それが重い鉄のドアを開けるとすぐに始まり、そのまま一直線にギャラリーをグルッと一周している。奥の小部屋の2段掛け3段掛けも含めれば50点以上ある。たまに同じ容器(支持体)もあるが、中身(色彩と形態)はすべて違う。コンビニ弁当をモチーフにした作品はこれまでいくつか見たことあるが、もともと容器自体3つか4つに仕切られ、抽象レリーフのように見えないこともない。その容器の色に合わせてけっこう周到に発砲ウレタンの色が選ばれている。幾何学的抽象と有機的形態の合体、食物容器に食べられないもの(ウレタンの形態はウンコを連想させる)の対比、大量生産と手作業、チープな素材の割にリッパな価格、など考えるところの多い作品だが、パッと見て思い出したのは岡崎乾二郎の《あかさかみつけ》だったりする。長ったらしいタイトル(岡倉天心からの引用らしい)もそれっぽいし。
2016/08/19(金)(村田真)