artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
トーキョーワンダーウォール公募2016 入選作品展 第3期
会期:2016/08/06~2016/08/21
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都、映像]
平面が2回続いて、今回は立体、映像、インスタレーションの入選者8人の作品展。見た目はオッと思わせるけどなにがやりたいのかよくわからない作品が多いなか、見た目は地味だけど納得できる作品が堀園実の《Mirror emotions》だ。表面が凸凹の石膏ボードが16枚並んでいるのだが、よく見ると端のボードは色がついて凹凸もくっきりしているのに、反対側にいくにつれ徐々にボードが白くなり、凹凸もゆるやかになっていく。おそらく木の板に刻みを入れて石膏を流し込み、鋳型を取り、そこに石膏を流し込み……という作業を何度も繰り返したものだろう。彫り、刻み、鋳造するという「彫刻」の原点を確認するかのような作業だ。でもこれって70年代のポストもの派の作家たちがやっていた作業とよく似てね? それしか納得できないのはぼくがポストもの派世代だからですかね。
2016/08/19(金)(村田真)
開発好明:中2病展
会期:2016/07/16~2016/09/19
市原湖畔美術館[千葉県]
某女子大の教え子3人と千葉県の高滝湖畔にピクニック。東京駅から高速バスで市原鶴舞に出て、路線バスに乗り換えて湖畔美術館へ。ここは2年前の「中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス」の拠点になったところ。そのとき《モグラTV》で人気を博したアーティスト、開発好明の個展が開かれている。タイトルの「中2病」とは、性や自我や社会意識に目覚める思春期特有の背伸びしがちな言動を自虐的にいう造語で、そういえばぼくも中2のころっていちばん思い出したくない時代だったなあ。同展は日替わりのイベントやサービスがあり、今日は中学生の格好をしていけば入場無料になるというので、制服姿で来るように指示したら、みんな本当にセーラー服とかで来たのでタダで入れた。ちなみにぼくも黒いズボンに白いシャツ姿。全員で写真を撮られ、どこかにアップされた模様。
会場には巨大なポロック柄シャツやビュレン柄パンツ(まるでカーテン)、校長の顔写真に落書きした《らくがお校長先生》、墨が塗られた文章を想像で復元する《黒塗りテスト》など、おもに学校ネタの新旧インスタレーション約50点が並ぶ。来場1万人目の人にはグァム旅行が当たる! というサービスもあるが、会期なかばにして1,530人ほど。1万人にはほど遠い(もちろん1万人も入らない前提での企画だが、万一入ったら嬉しい誤算)。どの作品もポップでダサくて手づくり感にあふれ、幾何学的でオシャレな美術館に対する批評になっている。それは館外の作品により顕著で、エントランス前には竹を舟形に組んだインスタレーションの下に洗濯機が置いてあり、洗濯物が干してある。これは《洗濯船》という作品で、自由に服を洗っていいというが、だれがこんなとこで服を脱いで洗濯するか。ちなみに「洗濯船」とは、ピカソやモディリアーニがアトリエを構えていたというパリの伝説的な安アパート「バトー・ラヴォワール」のこと。前庭にはやはり角材を組んでハンガーを吊るした《青空クローク》が設置されてるが、だれがこんなとこに服や荷物を預けるか。これらは夏休みにピクニックがてら美術館を訪れるスノッブなプチブルへの強烈な批判であろう。いやー痛快っつーか。帰りは再び高速バスで東京駅に出て、近くの飲み屋に入ったら年齢を確認された。そうだ、みんな中学生の格好してたんだ!
2016/08/13(土)(村田真)
あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅
会期:2016/08/11~2016/10/23
3回目のあいちトリエンナーレ、今年は芸術監督に港千尋を迎え、「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」をテーマに、名古屋だけでなく岡崎、豊橋でも開催。ぼくは日帰りのため名古屋しか見ていない。テーマの「キャラヴァンサライ」とは旅の家、隊商宿のこと。芸術とは未知への旅のことだから、さまざまな国から人々が集まる芸術祭をキャラヴァンサライと位置づけ、さらなる旅の英気を養おうではないか、ということらしい。テーマというより意気込みですね。
まずは名古屋市美術館から。沖縄の建物の壁に残る砲撃跡をフロッタージュした岡部昌生の作品をすぎると、ジョヴァンニ・アンセルモ、小杉武久といった懐かしいアーティストの名前も。地下のライ・ヅーシャンは、ほぼ正方形の展示室の床にゴミや道具類を散りばめ、壁を一周できるように高さ1メートルほどの狭い通路を設置。高みの見物ともいえるし、観客と展示物の立場を逆転させたともいえる。美術館近くのケンジタキギャラリーでやってる「イケムラレイコ展」を見て、旧明治屋栄ビルへ。古いビルの各フロアに5人が展示。おもしろいのは6台の強力な照明を上向きに設置し、上から水滴を垂らして水蒸気を発生させる端聡のインスタレーション。照明器具がちょうど目の高さにあるので内部が見えず、横から見ると鍋でなにか煮てるのかと思った。繊維問屋街の長者町では空きビルを使ったプロジェクトを展開。白川昌生は問屋街で扱っていたラクダのシャツに着目し、ラクダと日本の関係史を掘り下げている。ほかに巨大なハリボテのシャチホコも。その上では佐藤翠が鏡に描いたクローゼットの絵を展示していて、その華麗さは一見場違いにも感じるけど、これも服つながりだ。別のビルでは壁に大きく「アートより友人」と横断幕が張られていたが、これはもしかして地域アートの真髄を突いている? 昔ながらの純喫茶クラウンでは、今村文による植物モチーフの作品が壁にインスタレーションされている。見るだけでもいいのだが、なにしろ暑いのでアイスコーヒーでひと休み。考えることはみな同じらしく、ぞくぞくと入ってくる。
最後は愛知芸術文化センター。ここでは大きな空間に1組ずつゆったり見せている。とりわけ広大なスペースを使っていたのが大巻伸嗣で、体育館ほどの広さの展示室の床に顔料で花模様を制作。花模様は中央の柱から同心円状に広がっていて、観客は隅のほうに渡した橋の上から見るのだが、会期終盤には直接床の上を歩いてもらうそうだ。この大巻以外は引っかかる作品が少なく、つい素通りしてしまう。いいかげん疲れていたというのは差し引いても、前2回に見られたようなインパクトの強いスペクタクルな作品が激減し、よくも悪くもキマジメな作品が多かった印象だ。午後6時からのレセプションパーティーにも出てみた。河村たかし名古屋市長らトップが熱心なのはけっこうだが、ドラゴンズもグランパスも低迷してるからって、トリエンナーレに過剰な期待をかけるのはどうなんでしょうね。
2016/08/10(水)(村田真)
─画廊からの発言─ 新世代への視点2016
会期:2016/07/25~2016/08/06
ギャラリー58、なびす画廊、GALERIE SOL、藍画廊、ギャラリーなつか、ギャラリー川船、ギャルリー東京ユマニテ、ギャラリイK、ギャラリーQ、ギャラリー現、コバヤシ画廊[東京都]
毎年そうだが、今年も炎天下、銀座・京橋の11画廊を見て回る。40歳以下を対象とした企画展で、出品作家はぼくが見た11人中9人が女性。このなかでは最年長の佐藤万絵子(なびす画廊)はキャリアも15年に及び、もはやベテランの域だが、作品は相変わらずゴミタメのように新鮮だ。寺井絢香(ギャラリーなつか)はバナナの束を描いてるのかと思ったら、角棒の先に丸いものがついたマッチ棒みたいなものの集合体らしい。これは変! 村上早(コバヤシ画廊)と日比野絵美(藍画廊)はどちらもモノクロの銅版画だが、日比野の抽象形態に対して村上は具象、しかも村上はこってり個人的な物語を詰め込んでいる。繪畑彩子(ギャルリー東京ユマニテ)は映像と小品の展示。映像は水槽にカメや魚が泳ぐというもので、その顔や手足は人間のもの。ほとんどモノクロで、ちょっと懐かしいシュルレアリスムのコラージュを思い出させる。こういうクセの強い作品に比べれば、鉄による花の彫刻を置いた内山翔二郎(ギャラリイK)と、マユのような壷型の彫刻を出品した松見知明(ギャラリー58)のふたりの男性陣は、きわめて真っ当に見える。
2016/08/06(土)(村田真)
The NINJA ─忍者ってナンジャ!?─
会期:2016/07/02~2016/10/10
日本科学未来館[東京都]
春の「ゲーム」展に続いて、中1の息子と「忍者」展を見に行く。息子はゲームも好きだが、なぜか忍者とかマジックとか大道芸も好きだ。まあだいたいこの年代の男子はチョロいからトリッキーなものに飛びつくもんだ。まず忍者関連のマンガや小説が並ぶ「忍者研究室」を抜けると、メイン会場は「体をきたえよ」「技をきわめよ」「心をみがけ」の3つのステージに分かれている。「体」では、植物の成長にしたがってより高く跳べるようになる「ヒマワリ跳び越え」をはじめ、手裏剣打ちや忍び足を体験。「技」ではさまざまな忍者道具や武器、食料、薬などを紹介。「心」では巨大スクリーンのナンジャ大滝の前で修業するとなにかが起きる、という趣向。かなりゆるいが、いちおう「科学」と名のつく施設なのでいいかげんなことはしていない。最後は忍者認定証をもらって、ショップでレトルトの「忍者カレー」を買って帰った。
2016/08/04(木)(村田真)