artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

村上隆のスーパーフラット・コレクション

会期:2016/01/30~2016/04/03

横浜美術館[神奈川県]

これは驚き。個人はもちろん、美術館でもこれほどのコレクションを有するところはあまりないんじゃないか。まずエントランスの奥に置かれたキーファーの3点セットに度肝を抜かれ、李禹煥がわざわざ床に描いた絵画に唖然とさせられる。どんだけ金使ってんだ!? 階段を上ると、長さ10メートルほどもありそうなジャン・ホァンの毛皮の巨大彫刻や、ウォルフガンク・ライプの米のインスタレーションが鎮座。2階の展示室は蕭白の水墨画や縄文土器をはじめとする陶器類、家具や雑巾などの骨董品、白隠、仙厓らの書といったように古美術に占められている。小便するヌードモデル彫刻をデッサンするというデイヴィッド・シュリグリーのインスタレーションを経て、後半はホルスト・ヤンセン、ウォーホル、シュナーベル、大竹伸朗、中村一美といった村上が影響を受けたアーティストや、奈良美智、ダミアン・ハーストといった同世代のライバルの作品が並び、さらに進むとぼくの知らない若手作家の作品も大量に買い込んでいることがわかる。最後のパートは常設展示室まではみ出し、出口では福島第一原発の「指差し作業員」がこちらに向かって指を差してくる。このあと同館のコレクション展を見たら「熱」の違いに寒々とした気分に陥ってしまった。出品点数約1,100点、コレクション全体で5千点以上あるというが、その大半はおそらくここ10-15年で集めたものだろう。ならせば1日1点ずつ増やしていった計算だ。1点平均100万円としても50億円! これじゃあ美術館はかなわないよ。ところで、同展にはカタログもなければ作品解説も出品目録もない。村上の意向なのか美術館の都合なのかは知らないけれど、カタログがないのはともかく、出品目録がないのは残念というより不親切じゃないか?

2016/02/01(月)(村田真)

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第64回 東京藝術大学卒業・修了作品展

会期:2016/01/26~2016/01/31

東京都美術館+東京藝術大学大学美術館[東京都]

ワケあって最終日の朝イチに訪れる。日曜の午前9時半だというのになぜか混んでる。美術館だけでなく藝大構内もすごい人。藝大の卒展ていつからこんなに人気があるんだ? 残念なのは人気の割にいい作品が少ないこと。ステラのように正方形を同心状に描いた日下部岳の《田》《口》はおもしろいけどね。よかったのは、板や布に輪ゴム、ティッシュ、シールなどを貼った長田奈緒、ソルト(塩)のトルソを鏡像として描いた荒井郁美、写真の上にドローイングして壁3面いっぱいに貼り出した光岡幸一くらい。

2016/01/31(日)(村田真)

山部泰司──変成する風景画の流れ展

会期:2016/01/25~2016/01/30

ギャラリーQ[東京都]

山部は関西を拠点とする作家なので、東京で発表するのは何年ぶり、いや何十年ぶりだろう。80年代には関西の「イエスアート」や、東京と京都の芸大の交流展「フジヤマゲイシャ」の中心メンバーだった、なんて覚えてる人も少なくなったし。ぼくは一昨年の暮れに大阪で個展を見たので、いまの山水画のような風景画は知っていたけど、この1年ちょっとでまた少し変わりつつあるようだ。前回は赤褐色が大半を占めていたのに、今回は青または青灰色が増えていること、前は樹木のあいだを水が流れていたのに、今度は植物と流水が一体化しつつあるように感じること、などだ。振り返ってみれば、山部は作品そのものの魅力もさることながら、作品が少しずつ変化していくプロセス自体が魅力的なのかもしれない。数年後にはどのように変わっているか、楽しみだ。

2016/01/30(土)(村田真)

佐藤万絵子展「机の下でラブレター(ポストを焦がれて)」

会期:2016/01/09~2016/01/30

アサヒ・アートスクエア[東京都]

2フロアぶち抜きの広い空間に、クシャクシャになった大きな紙が折り重なるように置かれている。「机の下でラブレター(ポストを焦がれて)」という奇妙なタイトルは、書き損じて丸めたラブレターがポストに入れてもらえず、紙クズとなって机の下にたまっていくさまを表わしているのか。そのイメージをそのまま巨大化したようなインスタレーションだ。紙には緑や青で殴り描きが施され、まるでドローイングの荒波のなかに立たされたよう。

2016/01/30(土)(村田真)

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大久保如彌──THIS IS NOT MY LIFE

会期:2016/01/16~2016/02/13

ギャラリーMoMo両国[東京都]

ギャラリーは手前と奥のふたつの空間に分かれていて、手前には大きめの室内風景画が3点ほど展示されている。さらりとしたタッチのいまどきの絵だ。奥の空間には壁に小さめの自作の絵が20点ほど掛けられてるほか、床には絨毯が敷かれ、テーブルや椅子、鏡、観葉植物などが配置され、リビングルームのように仕立てられている。そこに掛けられた絵も色彩感覚がよく、ファッショナブルだ。さてもういちど手前に戻ると、3点の室内風景画が奥の部屋を三つの角度から描いたものであることに気づく。これはよくできている。おそらく数カ月前にいちど奥の部屋をしつらえてスケッチするか写真に撮り、手前の3点の絵に仕上げたのだろう。しかもよく見ると、1点は鏡に映したように左右逆転している。また奥の部屋には絵が飾られているため、手前の室内画には画中画が描かれることになるが、その画中画の額縁の影が薄紫色に塗られているだけでなく、その絵の実際の影の部分にも薄紫色のスプレーが壁に直接吹きつけられていたりする。虚像と実像が入り交じった魅力的な絵画インスタレーション。今年見た展覧会のなかでベスト1だ。まだ1カ月もたってないけど。

2016/01/29(金)(村田真)