artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

レオナルド・ダ・ヴィンチ──天才の挑戦

会期:2016/01/16~2016/04/10

江戸東京博物館[東京都]

タブローが1点でもあればその人の名を冠した展覧会が成立するのは、フェルメールとレオナルド・ダ・ヴィンチくらい。それだけ寡作で貴重で、しかも人気が高いということだ。いま六本木で開かれてる「フェルメールとレンブラント」展でもフェルメールは1点のみ。レオナルドの展覧会でも、2007年には《受胎告知》、2012年には《ほつれ髪の女》、2015年には《アンギアーリの戦い》といったように、それぞれ1点ずつで成り立ってきた。で、今回は《糸巻きの聖母》。レオナルドのなかでもマイナーな、真筆にしてもかなり加筆修正が加えられているとしか思えない作品だ。空気感としては《聖アンナと聖母子》に近いが、前景の聖母子と背景の描写が合っておらず、まるで切り貼りしたような印象を与える。この《糸巻きの聖母》も含めて、同展にはレオナルドの《岩窟の聖母》や《洗礼者聖ヨハネ》などのコピーも多数出ているので、ちょっとした「偽レオナルド展」としても楽しめる。これだけコピーをつくられた画家も少ないのではないか。偉大な芸術家の証だろう。ちなみにレオナルドの手稿もいくつか出ているが、一部はファクシミリ版(コピー)なのに気づかない人が多い。

2016/01/29(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00033640.json s 10119827

メンヘラ展 Dream

会期:2016/01/20~2016/02/03

TAVギャラリー[東京都]

初めて訪れる阿佐ヶ谷のギャラリー。1階の店舗を利用したものだが、ガラス窓もそのままで、あまりギャラリーっぽく改装してないため作品展示は難しそう。逆に開放的なので入りやすいという利点もある。今回は2014年から継続的に開いてきた「メンヘラ展」の6回目。メンヘラってメンタルヘルスの略語に「er」をつけた造語だそうで、精神的に病んでる人のことらしい。知らなかった。中心になってるのは自身もメンヘラで東京藝大生の、あおいうに。彼女によれば「メンヘラに『夢を与える』、メンヘラが『夢を与える』という意味付けで、『メンヘラ展Dream』と名付けました」。出品はあおいのほか、あさか、あろ沢、廃寺ゆう子ら、名前からしてフツーじゃない。いずれも双極性障害や抑鬱、強迫性障害などを抱えているという。作品はいわゆるアウトサイダー・アート的な逸脱が見受けられるが、一方で作品としてしっかり見せようとしている人が多く、アートとしての意識は高い。

2016/01/25(月)(村田真)

ジェネレーションY:1977

会期:2016/01/23~2016/01/31

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

ファッション通販ZOZOTOWNを運営する前澤友作社長が集めたコレクションのうち、自分と同世代のペインター3人の作品を公開している。エイドリアン・ゲーニー、ジョナス・ウッド、リネット・ヤドム・ボアキエの3人で、いずれも1977年生まれ。ちなみにタイトルの「ジェネレーションY」とは、ジェネレーションX(1960年代から70年代なかばまでの生まれ)の次の世代という意味。それぞれ2~4点、計9点の出品だが、いわゆるペインタリーな具象の大作が多く見ごたえがある。とくに身近な日常風景をフラットに描いたジョナス・ウッドの作品は、一見ホックニーを想起させるポップな表現だが、絵画という形式に対する意識はきわめて高い。室内の壁、床、天井が織りなす垂直・水平線や、四辺いっぱいの大きな窓枠を画面の骨組みに据え、画中画や窓ガラスに映った鏡像によってイメージを重層化させる手法は見事というほかない。河原温やミニマルアートのコレクションも豊富というから、いずれ公開されるのを楽しみにしたい。

2016/01/22(金)(村田真)

アジア創造美術展

会期:2016/01/20~2016/02/01

国立新美術館[東京都]

「ドマーニ展」のついでに見た。絵画、水墨画、写真、彫刻、なんでもある。さらに書のインスタレーションもあれば、エロいイラストもあり、扇子のコーナーまである。なんなんだこのアナーキーさは。

2016/01/22(金)(村田真)

DOMANI・明日展

会期:2015/12/12~2016/01/24

国立新美術館[東京都]

文化庁が派遣する芸術家在外研修の成果発表展。今回は「表現と素材──物質と行為と情報の交差」をテーマに、2000年以降の研修生から14人が選ばれた。絵画の木島孝文、富岡直子、古川あいか、彫刻の松岡圭介、映像とインスタレーションの栗林隆、立体モザイクの西ノ宮佳代、写真の田村友一郎といった面々で、テーマどおり「表現と素材」はさまざま。まあだれを選んでもこのテーマから漏れることはないけどね。特筆すべきは木島孝文。縦横8メートル近い壁いっぱいに麻布、セメント、タイル、漆喰などを使った絵をはめ込んでいる。わざわざこの会場に合わせてつくったとしか思えない作品で、展示が終わったらどうするつもりだろう。もうひとりは、ふとんや枕やシーツのしわばかり描いている古川あいか。布の上に布の表情を上書きしてるわけだが、最近は古代彫刻やミケランジェロの着衣像のしわを継ぎはぎしたり、しわの絵を木枠に張らずに天井から吊るすなど、「素材と表現」をさらに重層化させて興味深い。ところで、同展は海外での研修の成果を示す展覧会だと思ったら、なぜかひとりマイペースで風刺木版画を制作し続ける作家がいた。風間サチコだ。彼女のように作風がブレない肝のすわった作家に在外研修は無意味、税金の無駄使いではないか? と思ったら、彼女は優秀美術作品買上制度で文化庁に作品が買い取られたため、在外研修は受けてないけど特別ゲスト枠で出てるそうだ。まぎらわしいよ。

2016/01/22(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00033350.json s 10119823