artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ローラン・グラッソ展「ソレイユ・ノワール」
会期:2015/11/11~2016/01/31
銀座メゾンエルメス フォーラム[東京都]
柱に沿って祭壇画を思わせる三連パネルが10枚ほど並び、その前に彫刻を置いたり、ネオンを仕掛けたり、絵や写真を飾ったり、屏風のようにパネルに直接描いたりしている。日食や流れ星などの天体現象を描いた油絵は、15世紀フランドル絵画やプレルネサンスのイタリア絵画に倣った精密なもの。本人が描いたのかな? 綿密に計算され、工芸的な完成度を誇るディスプレイだが、つくり込みすぎの感がしないでもない。
2016/01/21(木)(村田真)
はじまり、美の饗宴展──すばらしき大原美術館コレクション
会期:2016/01/20~2016/04/04
国立新美術館[東京都]
倉敷にある大原美術館のコレクション展。展示室に入ると、いきなり場違いな古代エジプトやオリエントの美術品が並んでいて面食らうが、昔のコレクターは啓蒙的だったのか、美術史どおり古代から律儀に集めたようだ。次の部屋にはエル・グレコの《受胎告知》が掲げられ、奥にはモロー《雅歌》、モネ《睡蓮》、ゴーギャン《かぐわしき大地》、セガンティーニ《アルプスの真昼》など近代絵画の名品がごっそり並んでいる。ここで疑問その1。大原美術館は休館中というわけでもなさそうなのに、こんな大量に目玉作品を貸し出して大丈夫だろうか。わざわざ倉敷までエル・グレコや印象派絵画を見に行った人はがっかりするんじゃないか、と余計な心配をしてしまう。疑問その2。まだ展覧会の3分の1も来てないのにもう有名作品が出尽くしてしまって、後が続くんだろうか。この疑問はすぐに解けた。大原美術館は西洋名画のコレクションが有名だけど、数からいえば日本の近代・現代美術や工芸品が圧倒的に多いのだ。日本の近代では同館コレクションの基礎を築いた児島虎次郎の《和服を着たベルギーの少女》をはじめ、岸田劉生、関根正二、藤田嗣治、安井曾太郎、棟方志功らの代表作がズラリ。最後の部屋は「VOCA展」の授賞作品や滞在制作事業「ARKO」で収集した辰野登恵子、福田美蘭、やなぎみわ、町田久美ら(なぜか女性作家が多い)のペインティングを中心とする作品に占められている。こうしてみると、日本の美術館としては老舗といわれながらもまだ設立100年足らず、今後ますます現代美術の比重が増し、美術館の方向性も少しずつ転換していかざるをえないだろう。
2016/01/19(火)(村田真)
鎌倉からはじまった。1951-2016 PART3:1951-1965「鎌倉近代美術館」誕生
会期:2016/10/17~2016/01/31
神奈川県立近代美術館鎌倉[神奈川県]
鎌倉館最後の企画展「鎌倉からはじまった。1951-2016」のいよいよ最終回。開館した1951年から65年までに開かれた展覧会の出品作品から、萬鉄五郎《日傘の裸婦》、古賀春江《窓外の化粧》、松本竣介《立てる像》、麻生三郎《自画像》など100点近い絵画、彫刻を選んで公開している。今日はクロージングパーティーがあるので中庭はすごい人だかり。考えてみれば、現館長の水沢勉さんが生まれたとき(1952年)すでに美術館はあったのだから驚きだ。いや、これは驚くべきことだろうか。ヨーロッパでは開館100年、200年の美術館なんてザラにあるから珍しくもないが、近代美術館としてはやはり驚いていいかもしれない。なにしろニューヨーク、パリに次ぐ世界で3番目の近代美術館なのだから。でもそれより驚くべきは、この65年間で歴代館長は7人、学芸職は館長も含めてのべ31人しかいなかったこと。こんなに少数精鋭で安定した美術館はほかにないんじゃないか。
2016/01/16(土)(村田真)
ボッティチェリ展
会期:2016/01/16~2016/04/03
東京都美術館[東京都]
去年Bunkamuraで「ボッティチェリとルネサンス展」をやったばかりなのに、またかよ。でも去年の展覧会がボッティチェリの紹介より、画家の活躍を支えていたフィレンツェという都市の経済や文化の紹介に重きを置いていたのに、今回は周辺の画家たちの作品も展示されるとはいえ、基本ボッティチェリの展覧会になっている。ボッティチェリといえば聖母子像がよく知られ、今回も何点か出ているが、なかでも《聖母子(書物の聖母)》と《聖母子と洗礼者聖ヨハネ》は、ほとんど死んだような聖母マリアの表情といい、いまだ中世を思わせる装飾的な背景といい、とても美しい。メディチ家3代の肖像に画家の自画像も入った有名な《ラーマ家の東方三博士の礼拝》は、30人を超す群像表現なので大作だと思い込んでいたが、縦1メートル強と意外に小さい。これもよく画集などで見かける《書斎の聖アウグスティヌス》は、もともと教会の壁に描かれたフレスコ画を切り取ったもの。運ぶのが大変そうだ。古代ギリシャの伝説の画家アペレスの失われた作品を復元しようとしたのが《アペレスの誹謗(ラ・カルンニア)》だが、前景の人物(誹謗、不正、無知などの擬人像らしい)がなにを意味しているのかわからないうえ、背景の細かい浮き彫り彫刻ばかりが目につき、違和感テンコ盛り。《磔刑のキリスト》は十字形に切り抜いた板にキリストを描く試みで、「シェイプト板絵」か。ほかにも画家の師であるフィリッポ・リッピ、ポッライオーロ、ヴェロッキオらの作品もあって、けっこうお腹いっぱい。
2016/01/15(金)(村田真)
フェルメールとレンブラント:17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち展
会期:2016/01/14~2016/03/31
森アーツセンターギャラリー[東京都]
フェルメールとレンブラントを中心とする17世紀オランダ絵画展。展示は風景画、建築画、海洋画、静物画、風俗画などジャンル別のオーソドックスな構成で、最後のほうにフェルメールの《水差しを持つ女》とレンブラントの《ベローナ》が登場する。このふたりの作品はこの2点だけだが、こうして順を追って見ていくと、このふたりが同時代の画家のなかでもいかに卓越していたかがよくわかる。とりわけフェルメールは時代すら超越する異次元の奇跡のようなものだ、といえば大げさか。ところでこの展覧会、京都市美術館で立ち上がったのはいいけれど、東京はなんでマンガ展ばっかりやってるような会場でやるんだろう。曲がりなりにもオールドマスターズなのに。しかもこの後、東日本大震災復興事業として福島に巡回するというから変わってる。変わってるといえばカタログも少し変わってる。同展は世界中の美術館や個人から借り集めた作品で成り立っているが、目玉のフェルメールとレンブラントはどちらもメトロポリタン美術館所蔵。変わってるのは、カタログの最初の論文が、同展実現に尽力したメトロポリタン美術館のオランダ・フランドル美術専門の学芸員、ウォルター・リートケの追悼文に当てられていることだ(彼は1年前の2015年2月3日、ニューヨークの地下鉄事故で死去)。本来なら彼の論文が最初に載るはずだったのに、それが不可能になったので追悼文を掲載したのかもしれないが、異例のことだ。しかもその追悼文を書いてるのが、彼のライバルともいうべきワシントン・ナショナルギャラリー学芸員で、フェルメール研究でも知られるアーサー・ウィーロックなのだ。もうひとつ、カタログには「ロンドン・ナショナル・ギャラリー略史とそのオランダ絵画コレクション」なる論文が載ってるが、ナショナル・ギャラリーからは目玉でもない3点の作品しか出されていない。なんかチグハグな印象を受ける。
2016/01/13(水)(村田真)