artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

狩野一信の五百羅漢図展(後期)

会期:2016/01/01~2016/03/13

増上寺宝物展示室[東京都]

五百羅漢図といえば幕末の狩野一信のそれが有名だが、タイトルにあえて「狩野一信の」とつけているのは、森美術館で「村上隆の五百羅漢図展」が開かれ話題になっているので、便乗しようとしたのか掩護射撃しようとしたのかは別にして、こっちが本家本元だと主張したかったからに違いない。もちろん五百羅漢図は一信以前から描かれていたけど、一信の作品はスケールにおいても表現においても空前のもので、これがなければ村上の五百羅漢図も発想されなかったはず。今回(後期)は軸装の全100幅のうち第41幅から第60幅までの公開。わずか20幅とはいえ、一信にとってはもっともノッていた時期ではないかと思わせるほど奇想天外な表現に満ちている。例えば修行する羅漢を描いた第45図。これが描かれた幕末は西洋美術のさまざまな技法・知識が導入されつつある過渡期だったが、遠近法や陰影表現などは正確に伝わらないまま見よう見まねで駆使されていたため、光線の逆の「影線」みたいなありえない表現が見られるのだ。同じケレン味でも、村上が戦略的にケレン味を狙ったとすれば、一信は意図しない天然のケレン味にあふれているのだ。

2016/01/06(水)(村田真)

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プラド美術館展──スペイン宮廷 美への情熱

会期:2015/10/10~2016/01/31

三菱一号館美術館[東京都]

チラシを見てもパッとしないし、始まって1カ月半も経つのに評判も聞かないのでスルーしようかと思ったけど、やっぱり腐ってもプラド、たとえカスでも見る価値はあるだろうと思い直し、朝早く出かける。さすがに日曜日は東京駅周辺も静かちゃんだが、館内に入るとこれがけっこう混んでるんだな。会場をざっと半分くらい見て、いつになく小品が多いことに気づく。海外から借りる場合、運搬の事情で小品が多くなるのは仕方ないけど、今回は本格的に小さい。ベラスケスのコピーとおぼしきスペイン王妃のミニアチュールなど、わずか7.3×5.3センチしかない。もちろん小さけりゃ悪いってもんじゃなく、たとえばイタリア時代のエル・グレコの小品や、ルーベンス自身の手になる習作などは、弟子の筆の入った大味な大作よりはるかに魅力的だ。もうひとつ見どころは額縁。昔ながらの額縁がそのまま使われているものが多く、とくに初期フランドルの油彩画には画面と額縁が一体化しているものがあって興味深い。個々の作品では、晩年のティツィアーノの特徴が出ている《十字架を担うキリスト》、義父を描いたベラスケスの初期の肖像画とヴィラ・メディチの風景画、十字架が折り重なる迷宮画のような作者不詳の《自らの十字架を引き受けるキリスト教徒の魂》、自ギャグ(自虐的ギャグ)を感じさせるダーフィット・テニールス2世の《猿の画家》と《猿の彫刻家》、小品を組み合わせた動物図鑑のようなヤン・ファン・ケッセルの《アジア》、18世紀末の熱気球を描いたジョン・フランシス・リゴーの《3人の花形空中旅行者》、ジャポニスムもあらわな19世紀のマリアノ・フォルトゥーニ・イ・マルサスの《日本式広間にいる画家の子供たち》など、見るべきものは多い。

2015/12/27(日)(村田真)

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TWS-Emerging 2015[第7期]

会期:2015/12/19~2016/01/24

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

朴ジヘ、大岩雄典、福本健一郎の3人展。朴は鉄パイプで骨組みを組み、そこに蛇腹のアルミパイプを絡ませたり、自転車の車輪やビニール製マネキンを置いたりしたインスタレーション。だからなんだよ。大岩は水槽の上に天井から電球を吊るしたり、「サメに注意」の標識を置いたり、ゴディバのチョコの包装紙を飾ったり、2台の扇風機を向かい合わせに置き、1台は回し、もう1台は回さなかったりするインスタレーション。だからなんだよ。福本は東南アジアの熱帯林に触発された2点の大作絵画と、中小50点ほどの展示。濃密な上に色彩の使い方がすばらしい。これは納得できる。やっぱり絵画は説得力がある。

2015/12/25(金)(村田真)

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ジ・アートフェア+プリュス―ウルトラ2015

会期:2015/12/18~2015/12/28

スパイラルガーデン[東京都]

3日ずつ3期に分けての展示で、今日は2期目で18のブースが出展。さっき初めて知ったけど、このめんどくさいタイトルは、ジャンルの垣根を超えて優れたアートを提供することを目指す「+プリュス」と、40歳以下の若手ディレクター個人を出展単位とする「ウルトラ」という、ふたつの部門から成り立ってることを意味してるんだって。そうだったのか、これまで知らずに見ていた。いや別に知らなくても問題ないけどね。どっちにしろ、いくらジャンルの垣根を超えて若手ディレクターが作品をチョイスしても、そこはアートフェアだから売りやすい小品が中心となる。気になった作品が1点あった。カラフルなインコの死骸から花が生えたように羽根をつなげた小松宏誠の作品で、なにかすごく不穏でよかった。

2015/12/23(水)(村田真)

高畑早苗「妄想中世──po パーソナルオブジェ」

会期:2015/12/10~2015/12/23

佐賀町アーカイブ[東京都]

ふたつの壁面にびっしりと小品が掛かっている。当初350点あったという(即売なので少しずつ減っている)。高畑は18歳のときにパリに行き、ギャラリーでデビュー。そのころの作品も奥の部屋に飾ってある。その後ニューヨークに移住し、ギャラリーと専属契約を結んだという。直前に藝大生のヌルい作品を見たせいか、絵のうまさでは負けるけど、初めから確たるヴィジョンを持ち、アーティストとして揺るぎなく生きてきた心がまえが違う。

2015/12/23(水)(村田真)