artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

坂上チユキ展「陽性転移 第一章:中国趣味」

会期:2016/01/09~2016/02/07

MEM[東京都]

坂上は青を基調とする絵具やインクで極細の点描画を制作している画家。いわゆるアウトサイダー・アートの特徴を備えつつ、美術界でも高い評価を得ている。点で描くのは原始生物を思わせる有機的な抽象的パターンだが、今回は唐の時代の逸話をテーマにしているらしく、漢字のような形象も現われている。作家自身による略歴には「約5億9000万年前プレカンブリアの海にて生を授かる」で始まり、「4億3800万年前大気上層でオゾン層がつくられ、大気が安定した頃の海の青と空の青、これ即ちCeruleanならぬSilurian Blue。この青は未だ脳裏に鮮明に残っている」との記述があり、これが青を使う理由らしい。

2016/01/11(月)(村田真)

梅津庸一個展「ラムからマトン」

会期:2016/11/20~2016/01/11

ナディッフギャラリー[東京都]

ギャラリーの中央にベッドが置かれ、上に衣服が被せられている。その端から頭髪がはみ出しているが、ホンモノではなさそうだ(以前、展覧会場で作品とともに寝泊まりしたことがあるので一瞬本人かと疑った)。サイドテーブルにはペットボトルや食べかけのお菓子が散乱し、黒く塗った壁には大作が1点と小品が7点。壁の隅には「真珠湾攻撃部隊一覧」として隊員名簿が張り出されている。センスのよい投げやりなインスタレーションだ。タイトルの「ラムからマトン」というのは、デビュー10年、子羊のラムから成熟したマトンに肉質が変わったということらしいが、10年やそこらで成熟してほしくないなあ。

2016/01/11(月)(村田真)

村上隆のOHANA-OHANA-OHANA

会期:2016/01/01~2016/02/14

六本木ヒルズA/Dギャラリー[東京都]

森美術館の大個展に合わせ、お花をモチーフにした立体作品やポスターを展示販売。正面には直径2メートルほどの球体の表面をお花で覆った《Gigantic Plush Flower》が鎮座し、奥には1人掛けから3人掛けまでお花模様のソファが並んでいる。ソファはともかく、役に立たない巨大な球体なんかだれがなんのために買うんだろう? 球体は大中小あるそうだが、でかければでかいほど邪魔になるし、維持管理も大変になる。だがそれゆえに金持ちほどでかいほうを買いたがるのかもしれない。これがアート経済学のおもしろさだ。ポスターのほうは「五百羅漢図」から派生したシリーズや、無数のドクロを背景にざっくり円を描いた「円相」シリーズなどがあって、とくに「円相」のポスターはちょっとほしくなる。

2016/01/11(月)(村田真)

学芸員を展示する

会期:2016/01/09~2016/03/21

栃木県立美術館[栃木県]

美術館が「美術館建築」や「学芸員の仕事」や「コレクション」といった自己言及的テーマを、常設展ではなく企画展として取り上げるようになったのは90年代からだろう。それは80年代から美術館自体が急増したこと(しかも奇抜なデザインの建築が多かった)、それに伴い学芸員(キュレーター)の仕事が注目され始めたことのほか、バブル崩壊により予算が削減され、身近な素材で安上がりに展覧会を企画しなければならなくなった事情もあるに違いない。この「学芸員を展示する」も、基本的に自館のコレクションを素材にした「舞台裏まで見せちゃいます」的な企画展だ。構成は「コレクションができるまで」「作品を守り伝える」「調査研究」「展覧会を創る」「つなぐ美術館」の5部。地元画家の清水登之をはじめ、高橋由一、川上澄生、トロワイヨン、ターナー、ゴールズワージーらの作品のほか、版木、輸送用の箱、来歴を示すラベル、箱書きなども併せて紹介している。パネル展示の「美術館すごろく」では展覧会ができるまでを双六形式で見せているが、これを見ると、「企画会議でプレゼン」からスタートし、予算要求や助成金申請、文献調査、出品候補リスト作成、出品交渉、作品撮影、ディスプレイ業者と打ち合わせ、カタログ制作、論文執筆、広報、作品借用、展示、「展覧会オープン」でゴールするまでじつに雑多で、しばしば「雑芸員」と自嘲気味に語られるのも理解できる。途中「まさかの予算大幅削減!」のコマがあり「振り出しに戻る」となっていて、学芸員も楽じゃないと訴えている。

2016/01/09(土)(村田真)

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ビアズリーと日本

会期:2015/12/06~2016/01/31

宇都宮美術館[東京都]

世紀末を彩るイギリスのイラストレーター、ビアズリーの展覧会はこれまで何度か開かれてきたが、ビアズリーと日本美術の接点を探る展示は初めてお目にかかる。ビアズリーというと繊細な曲線と大胆な構図、白黒の明快なコントラストから日本美術の影響を受けたジャポニスムの画家、という見方もあるが、同展を見る限りビアズリーが受けた日本美術の影響より、ビアズリーが与えた日本美術への影響のほうがはるかに大きいように思われる。展覧会の初めのほうでは北斎や英泉らの浮世絵、植物装飾の型紙など、ビアズリーが影響を受けた日本美術が展示されているが、彼自身「ちょっとばかし日本的なやつだが、でもまったくのジャポネスクではないんだ」と述べてるように、影響は限定的だったようだ。中盤では、ビアズリーの代表作にとどまらず世紀末芸術を代表するといっても過言ではない《サロメ》、雑誌『イエロー・ブック』や『サヴォイ』に掲載されたイラストなどを展示。後半では、ビアズリーの早逝後『白樺』などで作品や論文が掲載され、大正期にブームを巻き起こした様子が紹介される。高畠華宵や竹中英太郎らは「サロメ」を描いてるし、恩地孝四郎、田中恭吉、蕗谷虹児、山名文夫など影響を受けた画家は数知れない。ひょっとしたら、ビアズリーの絵を見たときに感じる親近感は、彼が日本美術の影響を受けたからというより、彼の影響を受けた大正・昭和のデザイナーやイラストレーターの作品に目がなじんでいたからかもしれない。ちなみにビアズリーの影響を受けた日本人の多くは日本画出身だ。

2016/01/09(土)(村田真)

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