artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

終戦70周年記念「私の右腕は御國に捧げた」

会期:2015/08/25~2015/09/19

かんらん舎[東京都]

1943年に出版された『大東亜戦争 陸軍作戦記録画集』に収められた約20点ほどのカラー図版を中心に、画廊主の大谷さんが集めた資料を展示。この画集の印刷に間に合わなかった藤田嗣治の《アッツ島玉砕》は、別刷り(モノクロ)で収められたという。藤田らしい目立ち方だ。
その《アッツ島玉砕》の漢字と紀元暦によるサインが消され、アルファベット表記に直されたことを示す展示も。これは戦後、藤田がGHQの要請で作戦記録画を集めて東京都美術館に収め、アメリカに運ばれるまでの約5年間のあいだに藤田自身の手によって書き直されたもの。作戦記録画はあくまで戦時中の国内向けに描かれたものだが、戦後、外国人の鑑賞にも堪えられると信じてアルファベットに改めたという抜け目のなさ、変わり身の早さ。ここまで来るともう尊敬しちゃいそう。そのほか、戦時中に戦争賛美の詩歌をつくった詩人・歌人たちの詩集や歌集、アッツ島の戦闘で何人戦死し、何人捕虜になったかといった資料も展示。大谷さんは書棚から次々と資料を出してきてレクチャーしてくれるので、つい長居してしまった。

2015/09/03(木)(村田真)

未来食──食に関する3つのストーリー

会期:2015/09/03~2015/11/24

LIXILギャラリー[東京都]

ギャラリーに入るといきなりドハデな彫刻が目に飛び込んでくる。間島領一による巨大な目玉焼きのテーブルと、ニワトリの頭がついた2脚の椅子だ。親子であるという、ただそれだけ。それ以上深い意味があるわけでもなさそうで、いっそ潔いともいえる。これほどストレートに、しかも一貫して、食とアートをつなげた作品を制作し続けているアーティストも珍しい。謝琳は摩天楼や工場などの建物の模型のようなものを写した写真14点。彼女は砂糖やクリームで建築のような構築物をつくっていたが、それを写真に撮ったもの。実物は「食」と「建築」のちょうど中間あたりに位置するが、写真になると質感やスケール感が薄まり「食」より「建築」に一歩近づく。それだけに、これが砂上ならぬ「砂糖の楼閣」だとわかったときのインパクトは増す。でも実物を見たかったな。2カ月以上の展示には耐えられないだろうけど。

2015/09/03(木)(村田真)

横尾忠則「Swimming Girls」

会期:2015/08/26~2015/09/19

南天子画廊[東京都]

約半世紀前の1966年、南天子画廊で初個展したときに出品した《泳ぐ人》が正面奥の壁に鎮座。それを囲むように、泳ぐ人が複数になったり重なったり裏返ったりピカソの絵のように崩れたり、さまざまなヴァリエーションが展示されている。もう絵画の常識もルールも作法もない、なんでもありな境地に遊んでいる。ように見えるけど、意外と苦心してイメージをひねり出してる跡も窺える。どの作品にも記されてる「450」の数字が謎。ほかに、アラブ人に扮したルドルフ・ヴァレンチノを描いたシリーズも。

2015/09/03(木)(村田真)

阪本トクロウ──中空

会期:2015/08/29~2015/09/26

ギャラリーMoMoプロジェクツ[東京都]

湖や空(雲)、郊外のような風景などを描いてるのだが、フラットで少しグレーがかった深みがない色彩は日本画科出身だからか。建物、電信柱、夜景など人の痕跡はあっても人間はまったく出てこないせいか、冷たい印象を与える。カナダやフィンランドのような地面と湖水が複雑に入り組んだ図形や、ひびの入ったコンクリート壁など、とても惹かれるイメージがある。

2015/09/02(水)(村田真)

Unknown VOID 箕輪亜希子

会期:2015/08/28~2015/09/13

void+[東京都]

大きいほうの部屋には、中央に直径15センチくらいの石が鎮座し、周囲の壁や窓には、その石を草むらや水たまりや建物の脇などに置いて撮った写真が立てかけられている。なんか70年代のコンセプチュアル・アートを思い出すなあ。でも空気がぜんぜん違う。小さいほうのスペースには部屋いっぱいに大きなテーブルが置かれ、その上に小石、ボルト、ガラスの破片、カブトムシの死骸、花火のカス、小枝、タバコの空箱などを並べ、奥の壁のスクリーンにそれらが日常風景のなかにある状態を次々と映し出している。一見、静止画のように見えるが、風に揺れたり音が聞こえたりするので動画であることがわかる。かつてのようなコンセプトのゴリ押しではなく、むしろコンセプチュアリズムが排除したはずの叙情性が感じられ、さわやかな気分になる。

2015/09/01(火)(村田真)