artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ZOER & VELVET展覧会「BLAS」

会期:2015/08/07~2015/08/29

カイカイキキギャラリー[東京都]

お盆の時期なのに開いている。さすが中小のギャラリーと違ってマネジメントがしっかりしてるなあ。ZoerとVelvetはフランスの若手グラフィティ・アーティストで、ギャラリーの壁3面にキャンバス布を張り、その上に描いている。高さ3メートル、全長20メートルくらいあるだろうか、ギャラリー史上最大の作品だそうで、1カ月間滞在しこの場で制作したという。タイトルの「BLAS」は“blasphemy(神への不敬、冒涜)”の略で、現在ヨーロッパで大きな問題になっている異教徒・異民族の移民・難民への差別といった社会問題をテーマにしたもの。地中海岸だろうか、海辺や難民キャンプのようなイメージをコラージュした風景が、軽快なタッチで描かれている。日本ではほとんど話題にならない社会的なテーマを取り上げるのも、たった1カ月でこれだけの超大作を仕上げるのも、グラフィティ・アーティストならではのこと。

2015/08/13(木)(村田真)

鎌倉からはじまった。1951-2016 PART2:1966-1984「発信する近代美術館」

会期:2015/07/04~2015/10/04

神奈川県立近代美術館[神奈川県]

鎌近閉館までのカウントダウン第2弾は、1966-84年に紹介された所蔵作品の展示。70年の「エドワルド・ムンク展」をはじめ、「ペーテル・ブリューゲル版画展」「ジェームズ・アンソール展」「ピラネージ版画展」など、この時期いちばん鎌近に通ってたなあ。でもここに出品されるのは所蔵品だけなので、ムンクもアンソールもない。目立ったのは高橋由一から岸田劉生までの明治大正期の絵画で、なかでも本多錦吉郎《中禅寺湖夜景》、安藤仲太郎《日本の寺の内部》、中村不折《根岸御行松附近夜景》といった脂派の暗い油絵がよかったなあ。も少し後だと岸田劉生の《野童女》《童女図(麗子立像)》、関根正二の《村岡みんの肖像》《少年》、もっと時代を下ると、川端実《作品B》、杉全直《野草》あたりが見もの。今回はBankARTスクールの受講生たちと一緒だったので、版画を展示してる別館まで足を伸ばしたら、ブリューゲルとムンクの版画が1点ずつ出ていた。ところで鎌倉館が閉館したら、この別館はどうなるんだろう? わざわざここまで版画を見に来る人は少ないだろうし。

2015/08/08(土)(村田真)

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蔡國強──アート・アイランド

会期:2015/07/28~2015/09/06

アートフロントギャラリー[東京都]

「大地の芸術祭」に合わせ、十日町のキナーレに蔡國強の巨大インスタレーション《蓬莱山》が展示されているが、その制作と並行してつくったドローイングを展示。ドローイングといっても蔡が絵筆を振るうわけではなく、子どもたちが描いた亀、飛行機、ロケットなどのかたちを和紙の上に並べ、上から火薬をまいて火をつけ、一瞬の爆発によって輪郭を描き出すというもの。気になるお値段は、小さいほう(B全)でなんと1,850万円というから驚き。これが中国伝統の錬金術? などとはいわない。収益の一部はユネスコ平和アーティストプロジェクトに寄付されるのです。

2015/08/07(金)(村田真)

試写『氷の花火──山口小夜子』

70年代にスーパーモデルとして活躍した山口小夜子のドキュメンタリー映画。86年を境に彼女はファッションモデルからパフォーミング・アーティストに軸足を移す。そのきっかけとなったのは、山本寛斎の証言によれば、彼自身の放ったセクハラまがいの言葉だったらしいが、映画のラストシーンにその寛斎のショーに出た最後の姿が映し出され、胸が詰まる。映画は生前のショーやCM映像、没後8年目に開封された数々の遺品、寛斎のほか高田賢三、ジャン=ポール・ゴルティエ、セルジュ・ルタンスらの証言などによって構成される。男の関係者の多くがゲイというのが、彼女の美の世界を物語っているように思える。


「氷の花火 山口小夜子」予告編

2015/08/06(木)(村田真)

アートアワードトーキョー丸の内2015

会期:2015/07/31~2015/08/09

丸ビル1階マルキューブ[東京都]

全国の美大の卒業生・修了生による選抜展「アートアワードトーキョー」、毎年5月に丸の内の行幸地下ギャラリーで行なわれていたが、今年は丸ビル1階に会場を移し、真夏の開催となった。行幸地下ギャラリーは、長さ100メートルくらいある通路の両側のショーウィンドウをギャラリーに見立てた空間で、もともと人通りは少ないし、ショーケースのなかにお行儀よく並んだ現代美術を見ていくのはあまり気分のいいものではなかった。今回は雑踏のなかのオープンスペースに仮設壁を立てて展示しているため、狭くなったけれども多くの人の目に触れ、作品を間近に見ることもできる(その分リスクも増すが)。作品は絵画が大半を占めるが、ただ絵画だけの展示はむしろ少なく、映像や立体と組み合わたインスタレーションが多い。こういう展示はあまり感心しないけど、抽象画と色を塗った木の枝を組み合わせた宇都宮恵(東京藝大)の作品は成功している。個人的には会場の隅っこに囲いをつくって資材置き場みたいにし、目立たないように絵画を飾った川角岳大(愛知芸大)のインスタレーションが好みですが。

2015/08/06(木)(村田真)