artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

コレクション展1 あなたが物語と出会う場所

会期:2015/05/26~2015/11/15

金沢21世紀美術館[石川県]

実は「われらの時代」展で唯一共感したのが、藤浩志のビニール・プラスチックを使ったインスタレーション《ハッピーパラダイズ》だが、あとで確認したらコレクション展だった。知らないうちに別会場に紛れ込んでたみたい。藤の作品は何千(何万?)個ものカラフルな樹脂製のリサイクル玩具を分別し、恐竜を組み立てたもの。コンセプト的にもヴィジュアル的にも有無をいわせぬ迫力がある。あとは、できやよい、大巻伸嗣、小沢剛、中村錦平、イ・ブルの出品だが、前にどこかで見た作品が大半。コレクション展だからね。

2015/07/12(日)(村田真)

われらの時代:ポスト工業化社会の美術

会期:2015/04/25~2015/08/30

金沢21世紀美術館[石川県]

まだ先の話だが、金沢21世紀美術館と水戸芸術館が共同で「80年代展」を計画してるらしく、そのプレイベントとして峯村敏明氏とともに「80年代美術」について話しに行った。そのトークの直後に見せてもらったため、頭が「ポストもの派」のまま切り替わらず、「ポスト工業化社会」には追いつきませんでした。出品は金氏徹平、小金沢健人、泉太郎、三瀬夏之助、束芋、スプツニ子!ら10組で、ひとつのハコ(展示室)に1組の個展形式。日本人が殺害された砂漠の風景を映像で再現した小金沢や、気宇壮大なヴァナキュラー絵画を復活させようとする三瀬など、惹かれる作品もないではないが、「美術」を1から構築し直そうとしたポストもの派ほどにはシンパシーを覚えない。まあ世代も違うし、比べるのも大人げないが。

2015/07/12(日)(村田真)

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井村一巴 個展「Physical address」

会期:2015/06/23~2015/07/12

みうらじろうギャラリー[東京都]

セルフヌード写真の黒い背景に針で無数の穴をあけて、植物のツルのような菌糸のような、ときにクラゲのようなパターンを点描している。まるで自分の身体から異物がニョキニョキと生えてくるようなイメージ。あるいは皮膚に施す刺青の代用かも。いずれにせよ作者の深層心理がちょっと気になる。

2015/07/11(土)(村田真)

蔡國強:帰去来

会期:2015/07/11~2015/10/18

横浜美術館[神奈川県]

ニューヨークに移住して20年、久しぶりに日本で個展を開く心境を「帰去来」というタイトルに込めたという。作品は全部で10点。たった10点というなかれ、1点1点が大きく、最後の《壁撞き》なんか企画展示室をブチ抜きで丸ごと使ってる。まず最初の部屋は《人生四季》という4点の連作。支持体に火薬をまき爆発させて描いたものだが、なにやら妖しげな雰囲気。それもそのはず、月岡雪鼎の春画《四季画巻》にインスピレーションを得たものだそうだ。春画には厄除けの効能があるとされており、なぜか雪鼎の春画は火除けとして重宝したらしいが、蔡さんはそのことを知って火をつけたんだろうか。大作《壁撞き》は、99匹の狼が次々と跳躍し、ガラスの壁にぶつかっては再び跳躍を繰り返すという寓話的な情景をフリーズさせたようなインスタレーション。99という数字は道教では永遠の循環を象徴するらしい。ガラスの壁は「見えざる壁」で、ベルリンの壁と同じ高さに設定してある。2006年にベルリンで初公開され、現在はドイツ銀行のコレクション。ちなみに狼はリアルに再現されているけど剥製ではなく、羊毛でつくられたフィギュアというところが蔡さんらしい。エントランス正面の半円筒形のホールには8×24メートルの超巨大な火薬絵画を展示。これは6月にこの場所で制作した《夜桜》で、桜の花の繊細ではかない美しさを一瞬の爆発で表現したもの。それにしても火薬絵画は瞬発性や偶然性を楽しむことはできるが、長時間の鑑賞に耐えるものではない。だからズドーンと重いわりにすぐ見終わってしまう。無理を承知でいえば、もっと《文化大混浴》とか《農民ダ・ヴィンチ》とか持ちネタはたくさんあるんだから、全館使って多彩な蔡ワールドを展開してほしかった。

2015/07/10(金)(村田真)

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吉澤美香 2015「名誉・利益・恐怖」

会期:2015/07/04~2015/08/07

ギャラリー・アートアンリミテッド[東京都]

9枚の正方形の紙に左右対称に植物模様を描き、その上に頭蓋骨、毒グモ、トロフィー、宝石といった不穏なモチーフを珍しくリアルに描いている。タイトルの「名誉・利益・恐怖」は、古代ギリシャの歴史家トゥキディデスによれば戦争を起こす三つの要因であり、頭蓋骨や毒グモは恐怖を、トロフィーは名誉を、宝石は利益を象徴しているという。戦争とか反戦とか声高に叫ぶのではなく、比喩を用いていまの政治に危機感を表明したものと受け止められる。最近、村田峰紀といいオフニブロールといい会田誠といい、若手・ベテランを問わず少なからぬアーティストが政治性を帯びた、トゲのある作品を発表するようになった。そんな世界とは無縁と思われがちだった吉澤美香がこうした作品を手がけるのは、やはりいまの日本に対して相当な危機感を抱えている証だろう。

2015/07/09(木)(村田真)