artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
伝説の洋画家たち 二科100年展
会期:2015/07/18~2015/09/06
東京都美術館[東京都]
1914年に第1回が開かれた二科展の100回目を記念し、約1世紀の歩みを振り返る展覧会。毎年1回開いてりゃ今年102回目だけど、戦争で2回お休みしたからね。いやー二科といってバカにしちゃあいけませんなあ。とくに戦前期のなんと自由で生き生きとしたこと。第1回展の二科賞を受賞した十亀広太郎の《顔》なんか補色を大胆に使ってるし、第2回に首を吊った老人、第3回に行き倒れを描いた石井鶴三も暗いテーマにもかかわらず二科賞を受けている。その後もキュビスムと未来派を折衷させたような東郷青児をはじめ、萬鉄五郎、岸田劉生、小出楢重、古賀春江、神原泰、佐伯祐三らによる清新な作品が続く。思わず足を止めたのは、34年の第21回に出品された藤田嗣治、宮本三郎、向井潤吉の作品の前。この3人、ご存知のように後に戦争画のスターになる画家たちだが、その3人をひとつのコーナーに囲い込んで見せるというのもなんか意図的だなあ。なかでも森のなかで角突き合わせる動物を描いた向井の《争へる鹿》は、密林のなかを行軍する日本兵を捉えた《マユ山壁を衝く》を彷彿させるものがある。軍靴の近づく30年代末からは松本竣介や、前衛の集まる九室会の吉原治良や桂ゆきらが出品を重ね、まだ自由な空気が伝わってくる。それに比べて敗戦後はどうだろう。わずかに北川民次と岡本太郎が気を吐いてるくらいで、そのふたりもマンネリに陥っていく。美術界をリードした戦前に比して、戦後の二科の弱体化は数字にも明らかだ。全132点のうち、戦前(戦中)30年間の作品が118点を占めるのに対し、戦後70年間の作品はわずか14点。もっとも新しい作品は北川民次の70年の作品で、それ以後45年間は1点も出ていない。このような戦後の美術界への影響力の低下に反比例して、ハデな前夜祭や仮装行列で展覧会を盛り上げたり、芸能人やスポーツ選手の作品を入選させてマスコミを騒がせたりするようになる。作品とは関係ないところで話題を提供するしか生き残れなくなったようだ。いっそ続編として、70年代以降の芸能人だけの作品を集めた展覧会を企画したらどうだろう。
2015/07/23(木)(村田真)
MOTコレクション 戦後美術クローズアップ
会期:2015/07/18~2015/10/12
東京都現代美術館[東京都]
1階では戦後70年の美術の流れを通史的に外観しているが、定番ものではないレアな作家・作品が目立つ。まず最初の部屋で、いきなり中原實の見たことのない戦前戦後の作品に出会う。とくに海辺にたむろう水着の男女を描いた《海水浴》は、関東大震災の翌年の制作と知れば白昼夢のようにも思えてしまう。また、池田龍雄かと思った素描と版画は石井茂雄だし、井上長三郎も鶴岡政男もあえて有名な代表作を外してる、といったように。最後の部屋には大岩オスカールの《戦争と平和》(2001)と題された2点組の大作があり、モノクロが「戦争」、明るい色彩が「平和」を表わしているのだが、驚くことに「戦争」のほうは3.11の10年前、つまり9.11の年の制作なのに、津波に襲われたような風景にしか見えないのだ。
2015/07/17(金)(村田真)
オスカー・ニーマイヤー展 ブラジルの世界遺産をつくった男
会期:2015/07/18~2015/10/12
東京都現代美術館[東京都]
空飛ぶ円盤が海岸の崖の上に不時着し、そこからニーマイヤー本人が颯爽と降り立ってくる……というあきれたイントロ映像から展覧会は始まる。オスカー・ニーマイヤーといえば、祖国ブラジルの首都ブラジリアの都市計画にたずさわった建築家として知られるが、なぜか丹下健三やフィリップ・ジョンソンとダブってしまうのは、モダニズム建築の巨匠でありながら尻軽で新しもの好きだったこともあるが、たぶんみなさん長命だったからでしょうね(丹下91歳、ジョンソン98歳、ニーマイヤー104歳)。なにごとにも好奇心を持つことが長寿の秘訣かもしれない。それはともかく、冒頭の崖の上の円盤ことニテロイ現代美術館や、ミルククラウンのようなブラジリア大聖堂などの模型や写真のほか、サンパウロ・ビエンナーレの会場もあるイビラプエラ公園の30分の1模型もアトリウム空間に再現している。
2015/07/17(金)(村田真)
きかんしゃトーマスとなかまたち展
会期:2015/07/18~2015/10/12
東京都現代美術館[東京都]
1945年に発表され、今年70周年を迎える絵本『きかんしゃトーマス』。といってもぼくが知ったのは十数年前に子どもができてからで、自分の子ども時代にはなかったなあ。まだ翻訳されてなかったのか、うちだけ買ってもらえなかったのか。作者はウィルバート・オードリーという牧師で、最初は息子のために蒸気機関車の話を創作して聞かせてたという。4人の画家による絵本の原画に加え、映像、ミニチュアモデル、架空の地図、顔のある車体正面の立体モデル、実際に子どもを乗せてレール上を走るミニ機関車など。蒸気機関車が主人公だからか、遠近法やメカニックな描写は正確で、ここらへんに叙情的な日本の絵本との差を感じてしまう。
2015/07/17(金)(村田真)
おとなもこどもも考える ここはだれの場所?
会期:2015/07/18~2015/10/12
東京都現代美術館[東京都]
「このまっしろな空間は、わたしたちの想像の助けがあれば、どんな場所にだってなることができます」と書いてあるが、図らずも美術館がどんな場所であるかを議論する場になってしまった。出品はヨーガン・レール、おかざき乾じろ、会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)、アルフレド&イザベル・アキリザンの4組。ヨーガン・レールが昨年亡くなったのは知らなかったが、晩年は石垣島に住んでいたという。その石垣島の海岸で拾い集めたゴミを使って美しい照明オブジェを制作。トニー・クラッグと藤浩志を合体させたような作品だが、本人は別に現代美術の文脈で評価してもらおうと思っていたわけではないだろう。おかざき乾じろは「子どもしか入れない美術館」を制作。ぼくはたまたま監視員がいなかったので入ってしまったけど、内覧会といえども大人は入っちゃダメなんだそうだ。内部には子どもはおらず(内覧会だもんね)、同館のコレクションのホックニーやスミッソンらの作品が何点か飾られていた。次の会田家の部屋は暗く、インスタレーションやら映像やらでにぎやか。天井から「文部科学省に物申す」と題した巨大な檄文が垂れ下がり、壁には首相に扮した会田が「日本は鎖国すべき」とかヘタクソな英語で演説する姿が映し出され、奥では会田本人が寡黙になにやらこしらえている。よくやるなあと思ったが、まさか美術館側から横槍が入るとはね。そもそも会田を選んだらどうなるか、ある程度想像がつきそうだし、覚悟もしておくべきだったし、なにをいまさらって感じ。まあ結果的に動員が増えたうえ、「ここはだれの場所?」って「おとなもこどもも考える」ことになったから、美術館は会田家に陳謝・感謝しなければならない。
2015/07/17(金)(村田真)