artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
画家たちと戦争:彼らはいかにして生きぬいたのか
会期:2015/07/18~2015/09/23
名古屋市美術館[愛知県]
今日は「戦争画」仲間と中京方面に遠征。まずは名古屋市美で藤田嗣治研究でも知られるHさんたちと落ち合い、「画家たちと戦争」を見る。これは戦前から戦後まで活動した代表的な画家14人を選び、それぞれ戦前(-1937)、戦中(37-45)、戦後(45-)の作品を3点ずつ並べ、画家たちがいかに戦争の時代を生き抜いたかを検証するもの。いちばん振幅が激しいのが藤田嗣治で、戦前は乳白色の裸婦や自堕落な自画像を描いていたのに、戦中は凄まじい作戦記録画に手を染め、戦後は再び乳白色の少女像を描いたりしている。いったいどういう精神構造をしてるんだろ。圧巻は東京近美から借りた幅3メートルの《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》で、Hさんはじめみんな(7人)で大作に寄ってたかってあーだこーだ議論してたら、監視員に注意された。一方、横山大観は戦前・戦中・戦後すべて富士山一色。富士山の受け止められ方は戦前・戦後で違っただろうけど、描くほうの心情はたぶん変わんなかったと思う。大観は藤田と違って表向き戦争画は描かなかったが、神国日本の象徴である霊峰を描くことでずっと戦争画を描き続けていたといえるかもしれない。藤田に次ぐ戦争画のスターだった宮本三郎も、戦争で中断されなければ戦前と戦後の制作はつながっていただろう。でも藤田と違って宮本は戦争画に手を染めた懺悔として「ピエタ」に基づく《死の家族》を描き、自分のなかで決着をつけた気がする。戦前メキシコで壁画を学んだ北川民次は、戦中に《鉛の兵隊[銃後の少女]》《赤津陶工の家[生活三題・勤労]》など銃後の生活を描いたが、これらは戦前の仕事からも戦後の仕事からも浮くことなく、連続性が保たれていて揺らぎがない。岡鹿之助は戦前も戦後も叙情的な風景を得意としたが、戦中は単に洋風の城館が描けなかったからなのか、あるいは少しでも戦意高揚に役立とうとしたのか、日本のお城や農家を描いていて強烈な違和感がある。松本竣介は新人画会に属していたうえ戦後まもなく36歳の若さで亡くなったので、戦争による変化はつかみにくいが、「抵抗の画家」の印象を決定づけた自画像《立てる像》は、滅私奉公を是とした戦時下としてはやはり異彩を放つ。展示やカタログに凝ることなく、オーソドックスに作品を見せようとする姿勢が気持ちいい。
2015/07/26(日)(村田真)
アートと都市を巡る 横浜⇔台北
会期:2015/07/24~2015/09/13
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
2005年から、横浜のBankARTと台北のアーティストヴィレッジが相互に送り出したアーティストを受け入れる交換プログラムをスタート。その10年を記念して計21組のアーティストの作品を展示。当時つくった作品を出すものもいれば、新作をつくるものもいる。圧巻はオフニブロール(高橋啓祐+矢内原美邦)による壁2面を使った横長の映像インスタレーション。白い両端から人のかたちが中心に向かって吸い込まれていく映像だが、壁が直角に折れ曲がった中心部は赤。つまり会田誠の《ジューサーミキサー》のように人が巻き込まれて血に染まっていく色であり、それは日の丸をも意味する。先日見た村田峰紀の作品と並んで印象深い日の丸だ。台湾では陳妍伊(チェン・イェンイ)の変貌ぶりに驚く。彼女は横浜に来たときキモノに興味を持ち、和服の一部をサンプリングした工芸的ともいえる作品を発表していたが、今回は監視カメラをつくって街中に設置した写真を出している。ずいぶん社会意識が高まったようだ。どちらも第1回目のアーティスト。2回目に派遣された東野哲史は作品を出さず、3カ月間の台湾滞在中に記した日記を丸ごと壁2.5面に書き写した。これはこれで壮観だが、台湾の人が読めないのは残念。
2015/07/24(金)(村田真)
ディン・Q・レ展:明日への記憶
会期:2015/07/25~2015/10/12
森美術館[東京都]
1968年にカンボジアとの国境近くのベトナムに生まれ、10歳のときポルポト派の侵攻から逃れるため渡米したという経歴が、アーティストになった彼の作品を決定づけている。祖国の伝統的なゴザ編みの手法を借りて、写真を裁断してタペストリー状に編んだ「フォト・ウィービング」シリーズで注目を浴びる。ベトナム人が自作したヘリコプターと映像を組み合わせた《農民とヘリコプター》、枯れ葉剤散布により生まれた結合双生児のための産着や人形などからなる「傷ついた遺伝子」シリーズ、ベトナム戦争に従軍した画家によるのどかな風景の戦場スケッチなど、ほとんどすべてがベトナム戦争にまつわるもの。ネタにこと欠かないともいえるが、ひとつのネタから免れないともいえる。
2015/07/24(金)(村田真)
水口鉄人 ∞
会期:2015/07/23~2015/08/12
ギャラリーt[東京都]
先月、BankARTのオープンスタジオにも出していた水口の個展。BankARTと同じシリーズだが、すべて新作。といっても初めて見る人はどこに作品があるのか、どれが作品なのかとまどうに違いない。だって会場には段ボール箱や段ボールケースが無造作に置かれ、壁に掛けてあるキャンバスもなにも描かれてなく、透明なテープがちょこちょこと貼られてるだけだから。もちろんこれらが作品で、この段ボール箱やキャンバスに貼られたテープは絵具やメディウムでつくられたものなのだ。BankARTのときはモンドリアン風の「テープ絵画」もあって楽しませたが、今回はそういった「サービス」もまったくなし、誠に素っ気ない展示に徹している。作品は10点ほど。
2015/07/23(木)(村田真)
《写真》見えるもの/見えないもの#02
会期:2015/07/13~2015/08/01
東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]
佐藤時啓、鈴木理策、榮榮&映里ら13組の出品。佐藤は、3.11の被災地の南三陸や女川を大型カメラやピンホールカメラでストレートに捉えている。永井文仁は都市の写真集を丸めて撮影することで画像を歪めてるが、それがまるで津波に襲われた街のように見えるのは偶然か。野村浩は展示室にテントを立てている。なかに入ると10秒ごとにLED電灯が明滅し、床にばらまかれてるコノハムシ型の紙片の影が下に焼きつく仕掛け。これは写真の原理だけど、原爆で壁に焼きついた人影を思い出すのはぼくだけか。今回は社会へのまなざしもテーマのひとつになっている。
2015/07/23(木)(村田真)