artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

富士山イメージの型

会期:2015/01/17~2015/07/05

イズフォトミュージアム[静岡県]

今日は静岡県の美術館をハシゴ。初めに訪れたのは三島駅から富士山の方角へ無料シャトルバスで20分ちょっと、クレマチスの丘。ベルナール・ビュッフェ美術館にヴァンジ庭園美術館……だれの趣味で集めたのか知らないけれど、それらのコレクションを反面教師とするかのような意欲的な企画展を開いてる。まずはフォトミュージアムへ。富士の裾野(正確にいうと愛鷹山の裾野か)に位置する美術館としては避けて通れない、いやむしろ汲めども尽きぬモチーフというべき富士山に焦点を当てた展示。第1部では幕末以降、写真の導入により富士山のイメージがいかに定着してきたかを探り、第2部では、東京帝大で寺田寅彦に学び、御殿場に私設の雲気流研究所を設けて富士山にかかる雲の定点観測を行なった阿部正直博士の写真やスケッチを紹介している。おもしろいのは第1部だ。開港後の横浜では、外国人の土産物として日本の風景や風俗を写した「横浜写真」が人気を博し、海外に「フジヤマ・ゲイシャ」的な日本の定型イメージを植えつけたという。はて、横浜写真にそんなに富士山が写っていたっけと思ってよく見ると、なるほど、どの写真にも背景にちゃっかり富士山が「描かれ」ているではないか。以後、富士山は記号化され日本のシンボルとして内外に定着していくのだが、皮肉なのは第2次大戦中、霊峰として戦意発揚のプロパガンダに使われた富士山は、一方で、太平洋を北上してきた米軍の爆撃機には恰好の目標になっていたこと。その雄姿が日本人の心の支えになった反面、図体がデカすぎて標的にもなっていたのだ。この罪つくりな山塊にいっそう愛着が湧いてくる。

2015/02/07(土)(村田真)

第18回 文化庁メディア芸術祭

会期:2015/02/04~2015/02/15

国立新美術館[東京都]

21世紀の文展、とは謳ってないけど、まあそんな感じ。コンテンツは新しいのに、それを受け入れる枠組みが古い。だからこんなところで受賞したりすると、最先端の作品もダサく見えてしまう。いい例が、アート部門で優秀賞を取った坂本龍一/真鍋大度の《センシング・ストリームズ》だ。むしろここではダサい作品のほうが本領を発揮する。たとえばアート部門のEmilio Vavarella《THE CAPCHA PROJECT》。解説によれば「ウェブサイト上でスパム防止に用いられるキャプチャコードを、中国人画家がキャンバスに模写し」たもの。ようするにウェブ上の記号を模写専門の中国人画家にコピーさせた絵で、制作費と売り上げはVavarellaと中国人で折半する契約まで交わしてるという。ダサおもろいわ。もうひとつ、エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した下浜臨太郎/西村斉輝/若岡伸也の《のらもじ発見プロジェクト》。商店の看板などで見かける独特の(つまりダサダサの)文字を「のらもじ」と命名し、その形状を分析してコンピュータでフォントを制作、ウェブサイトからダウンロードして使用できるようにした。「タイポグラフィにおける民藝運動」だという。半分笑えるが、フォントの使用料を文字の持ち主に還元するなど、ちょっと優等生的でもある。ところで、キャプションやカタログを見て疑問に思ったのは、外国人の名前と作品名がすべてアルファベット表記になってること。いっそ日本人名も解説もすべてアルファベットにするならまだしも、部分的にアルファベットが使われると読みにくいことこのうえない。タイトルは無理に和訳することはないけど、東欧など人名の読み方がわからない地域もあるから、ダサくてもカタカナ表記するべきではないか。たとえば、エミリオ・ヴァヴァレッラ《キャプチャ・プロジェクト》みたいに。韓国人は別にハングル表記じゃないし。

2015/02/03(火)(村田真)

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TWSエマージング2014

会期:2015/01/10~2015/02/01

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

3人の展示だが、炭田紗季の作品が目を引く。窓から富士山の見える旅館の壁にウォーホルの絵が飾ってあったり、檜風呂の向こうに教会の尖塔と富士山に似た火山が見えたり、山車にリオのカーニバルの半裸娘が乗っていたり、山車からサンタさんがプレゼントを配ったり……。とにかく日本の伝統的なるものと欧米的なるものを強引に共存させた絵。これは日本の現代美術のひとつの典型をカリカチュアライズしたものともいえる。「私は日本人である自分が嫌いで、好きだ」という作者のコメントを借りれば、私はこういう作品が嫌いで、好きだ。

2015/01/31(土)(村田真)

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「神々のたそがれ」試写

会期:2015/01/30

シネマート六本木[東京都]

地球より800年ほど進化の遅れた人たち(?)の住む惑星に、地球人が派遣され……という「SF映画」。だと思って見に行ったら、期待は見事に裏切られたというか、予期せぬ映画として楽しめた。殺戮、糞尿、血、家禽、内臓、その他モノクロでなにがなんだか判別のつかないものが3時間にわたって画面にぶちまけられるのだ。もうストーリーなんてあってないようなもの。まあ、タルコフスキー監督『ストーカー』の原作者であるストルガツキー兄弟のSF小説が原作なので、あらかじめ覚悟はしていたが。登場人物が押せ押せで画面に入り込んだり、カメラ目線でこちらに微笑んだり、かなりセルフコンシャスな映画。

2015/01/30(金)(村田真)

LUMIX MEETS/JAPANESE PHOTOGRAPHERS #2

会期:2015/01/21~2015/01/29

IMA CONCEPT STORE[東京都]

六本木アクシスの前に、加納俊輔の作品をポスターに使った展覧会の告知が出ていたので入ってみた。ここは写真季刊誌『IMA』と同じ母体で、フォトギャラリー、カフェ、ブックショップを備えたスペース。同展は日本の若手写真家を支援するもので、パナソニックが特別協賛している。出品は加納のほか、Kosuke、佐久間里美、水谷吉法、山崎雄策、山本渉の6人だが、加納以外は知らない(加納も作品を知ってるだけだが)。加納は、たとえば板に貼った写真を撮影し、それをまた板に貼って写真に撮り……といったトリッキーでありながらコンセプチュアルな作品をつくっているアーティストで、たしかに写真メディアを用いているけれど、支持体は木の板や大理石だったりするので、扱いとしては美術ジャンルだと思っていた。これまで画廊や美術館で何度か見かけたが、写真界でもこうした手の込んだコンセプチュアル写真が、ふつうのストレート写真と一緒に並ぶこともあるんだ。

2015/01/28(木)(村田真)