artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
第18回 岡本太郎現代芸術賞展
会期:2015/02/03~2015/04/12
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
似たような絵ばかり選ばれる絵画コンクールが横行する昨今(審査員の顔ぶれが似たり寄ったりだから仕方がない)、もっとも刺激的でもっともクレージーな現代美術のアワードといえば、岡本太郎の名を冠したこの賞しかないでしょう。なにはともあれ目立ちゃあいいみたいな姿勢は、現代美術の基本ですからね。いきおい光ったり動いたり音が出たりするインスタレーション系が多くなり、絵画は絶対的に不利になる。んが、今回は絵画(しかもベースは日本画)で岡本敏子賞を取った人がいる。昨年、東北芸工大の卒展に《日本の美術を埋葬する》を出して注目を浴びた久松知子だ。ここでは同作品に《日本画家のアトリエ》を加えた2点を出品。前作がクールベの《オルナンの埋葬》の構図を借りていたのに対し、新作は同じくクールベの《画家のアトリエ》を借用し、近現代の日本画家40人近くのポートレートとその作品を画中画として描いている。岡倉天心、横山大観、平山郁夫らは前作にも登場したが、針生一郎、李禹煥、中村ケンゴらは初登場だ。のみならず、ニコラ・ブリオーや『すばる』2014年10月号もあって必要以上に目配りが利いている。これは文句なく力作。ちゃっかり審査員もふたり入れてるし。これを上回る岡本太郎賞は、乗用車を石焼き芋の販売車に改造し、屋根にハデなデコラを載せたヨタの《金時》。実際この車で焼き芋屋をやってるらしいのだが、残念ながら展示は自動車本体がなく(搬入できなかったのか?)、芋の箱を積み上げてイルミネーションの一部を置いただけ。活動はすこぶるおもしろいけど、この展示じゃあヤンキーな過剰さが伝わってこない。車ものではほかに、ランドセルを持たされやすい子の代わりにランドセルを運んでくれる自転車をつくった藤村祥馬《どれいちゃん号》、屋根のついた宮型霊柩車のモデルに花柄の毛布を貼りつけた江頭誠《神宮寺宮型八棟造》があり(どちらも特別賞)、観客の人気投票ではヨタや久松を抑えて藤村が1位、江頭が3位に入っていた(2/19現在)。人気と賞とは必ずしも連動しない。個人的に好きだったのは、四井雄大のつくった陶器を菊谷達史が油彩で描いた《太陽と陶》。陶器自体も絵画自体もどうってことないが、モデルとその絵を同時に見せられるとちょっとドギマギする。この気分はなんだろう?
2015/02/19(木)(村田真)
黄金町通路:記録
会期:2015/02/07~2015/03/22
高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]
黄金町にmujikoboを構える倉田拓朴と、昨年黄金町バザールに参加するため滞在・制作していたフィリピンのポール・モンドックの2人展。ふたりともモノクロ写真で(モンドックは数点カラーが混じってる)、倉谷は黄金町の住人のポートレートを撮り続け、モンドックは横浜を歩き回って風景をスナップしている。倉谷が定点観測とするなら、モンドックは遊歩観測だ。作品も倉谷が選び抜いた大判のポートレートをドンと展示しているのに対し、モンドックはその隙間を埋めるようにスナップ写真を並べている。質より量か、量より質か。この対照的なふたりが出会う瞬間があった。倉谷が黄金町で屋外撮影している場面を、たまたま通りかかったモンドックが撮影したのだ。そのとき撮った2点の写真がこの展覧会の白眉であると同時に、黄金町の目指す方向性を暗示しているように思えた。
2015/02/17(火)(村田真)
没後100年 小林清親 展
会期:2015/02/07~2015/03/22
静岡市美術館[静岡県]
掛川から静岡へ、こだまだと15分、鈍行だと45分かかるが、料金は半分で済むのでローカル線を選択。明治期に活躍した浮世絵師、小林清親の没後100年展だそうだ。明治に入ると江戸期の浮世絵師と違って、描くものが洋風建築や鉄道、博覧会、戦争など近代化し、清親の表現も「光線画」といわれるほどの陰影の強調や正確な遠近法を駆使した写実表現に変わり、これ以上進むと浮世絵を超えてしまうところまで突き進んでいった。“最後の浮世絵師”と呼ばれるゆえんである。一方、極端な遠景と近景の組み合わせやケレン味たっぷりのポーズなど、浮世絵ならではの意表を突く表現も残している。そんな端境期ならではの驚くべき作例が、日清戦争時につくられた《我艦隊黄海ニ於清艦ヲ撃チ沈ル之図》。残念ながら後期の出品で実物は見られなかったが、カタログに収められている図版を見ると、清の戦艦が沈んでいく水中の様子を、まるで水槽の魚でもながめるように描いているのだ。近代以前にはこのような視覚体験はありえなかったし、近代以後はこのような美術表現はありえなかった。明治にまでズレ込んだ“最後の浮世絵師”ならではの表現といえるだろう。
2015/02/07(土)(村田真)
中村ケンゴ展「モダン・ジャパニーズ・ジャパニーズ=スタイル・ペインティング1994-2014」
会期:2015/01/04~2015/02/15
掛川市二の丸美術館[静岡県]
三島からこだまで掛川へ。駅から目的地へ歩いて行く途中、歩道に彫刻が置かれていたり、商店が昔ながらの白壁に統一されていたり、街並の美観に気を使ってるのはわかるけど、ハンパ感は否めない。目指す二の丸美術館は掛川城(といってもお屋敷風)の奥。中村ケンゴの個展は1階の展示室の半分と地下の1室を使ったもので、美術館とはいえ規模的には大きめの画廊程度か。作品は手塚マンガのフキダシやキャラクターの輪郭ばかりを組み合わせたり、ウェブ上の記号を用いて抽象画を構成したりしたもので、モチーフは現代日本、素材は日本画だから、タイトルは「モダン・ジャパニーズ・ジャパニーズ=スタイル・ペインティング」。作品の大半は見たことあるが、部屋の間取り図をモンドリアン風に彩色した「コンポジション・トーキョー」シリーズ40点が一堂に会したのは壮観だった。しかし掛川出身でも静岡出身でもない中村がなぜこんなところで個展を? その答えが、1階の展示室の残り半分で紹介している「ななつおひろめ、めでて、めでたく」という展示。これは掛川の現代美術研究会がプロデューサーの山口裕美さんの協力のもと、2007年から毎年アーティストに茶道具を制作してもらい、茶会でお披露目してきたプロジェクトで、今回はそのうちのひとり中村ケンゴをクローズアップしたってわけ。このプロジェクトにはほかにも名和晃平、土屋公雄、ひびのこづえらが参加している。今日はケンゴくんのトークとガイドツアーがあって、これから足湯に浸かりに行くというので誘われたけど、もう1カ所行くところがあるのでパス。
2015/02/07(土)(村田真)
菅木志雄「もの」が開示する「状況のオリジン」
会期:2014/11/02~2015/03/24
ヴァンジ彫刻庭園美術館[静岡県]
クレマチスガーデンの小道を歩いてヴァンジ彫刻庭園美術館へ。菅木志雄の個展には似つかわしくない環境だが、館内はシンプルなつくりで展示空間としては悪くない。でもヴァンジさんの人物彫刻が気になるなあ。菅さんの作品は屋外やロビーにも置いてあるのだが、どうやら水のない池の石をビニールで包んだり、窓に角材を斜めに立てかけた作品などは、ヴァンジ目当ての客には見過されてしまってるようだ。てか、コンクリートの立方体を矩形に並べたり、金属パイプを立体的に組み立てたりしたインスタレーションが、はたして人物彫刻を見に来た人たちの目に「作品」として認識されただろうか。「もの」が開示する「状況のオリジン」が、どこまで理解されただろう。「あら、準備中?」で終わらなかっただろうか。逆に、菅さんの作品を見に来た人たちには、メダルド・ロッソから舟越桂まで近代彫刻のエッセンスをサンプリングしたようなヴァンジの彫刻は、それなりに衝撃的だったはず。その意味では異質なものが出会う展覧会だった。
2015/02/07(土)(村田真)