artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年
会期:2012/06/13~2012/09/17
国立西洋美術館[東京都]
ベルリン国立美術館といっても、そういう美術館がドーンと建ってるわけではない。ベルリン市内に点在する15の国立美術館・博物館の総称なのだ。今回はそのうち絵画館、素描版画館、ボーデ博物館の3館からの100余点を紹介。サブタイトルは「学べるヨーロッパ美術の400年」。現在開催中のエルミタージュ美術館展が「世紀の顔・西欧絵画の400年」、秋に開催予定のメトロポリタン美術館展が「大地、海、空──4000年の美への旅」だから、400年とか4000年という時間は美術史的にまとめやすいのかも。美術史4万年ともいうし。同展は15~18世紀の近世に絞り、彫刻や素描も展示している。こういう大型展での彫刻や素描はつけたし程度のものが多いので普段はちゃんと見ないが、今回は違った。彫刻はロッビア一族の彩釉テラコッタ、ドナテッロ工房の大理石レリーフ、リーメンシュナイダーら北方の繊細な木彫など、近世以降衰退していく限界芸術的な彫刻が多く、いとおしささえ感じられた。素描も必見で、ドッジョーノやギルランダイオの衣紋、シニョレッリやベッカフーミの人体などは、ある意味で絵画以上の魅力がある。でもやっぱりメインは油彩画。目力(めぢから)がすごいデューラーの肖像画、色が褪せて主題がなんだかわからなくなったルーベンスの風景画、巨匠にもヘタクソな時代があったんだと安心するベラスケスの初期作品、本物よりレンブラントらしいレンブラント派の《黄金の兜の男》、画中画の金の額縁と実物の金の額縁がハレーションを起こすコルネリウス・ビショップ帰属の室内画など、見どころは少なくない。そのなかでもクライマックスともいうべき位置にあるのが、フェルメールの《真珠の首飾りの少女》だ。似たような《真珠の耳飾りの少女》(は都美術館ね)に比べて知名度は低いけど、これもなかなかの問題作。テーブルの描き方が遠近法的におかしいとか、左上の鏡の位置が高すぎるとか、その鏡の横の窓枠の上に卵が置かれているとか、いろんな説があるが、いちばんびっくりしたのはテーブルの下にエアコンみたいなものが隠れていること。画集だと真っ黒につぶれてよくわからないけど、これなに?
2012/06/12(火)(村田真)
第1回AGAIN-ST展
会期:2012/06/11~2012/06/23
東京造形大学CSギャラリー[東京都]
若手彫刻家による自主企画展。冨井大裕、深井聡一郎、藤原彩人、保井智貴という30代の彫刻家と、愛知県美術館学芸員の石崎尚が結成したAGAIN-STの企画で、上記4人の彫刻家がそれぞれひとりずつ彫刻家を選んで(田中裕之、樋口明宏、中野浩二、植松琢麿)計8人が出品する。「AGAIN-STは彫刻を問う集団である。我々は危機感を共有している。声高に死が叫ばれる絵画よりもなお、黙殺される彫刻は深刻である。(以下略)」との宣言文にあるように、このグループは現在の彫刻に危機感を有し、その可能性を問うている。絵画にもこのようなグループがあっただろうか。かつていくつかあったような気がするが、最近はあまり聞かないなあ。絵画が漫然としているというより、彫刻のほうがより危機感が深いということかもしれない。作品を見ると、いかにも彫刻然とした彫刻は少なく、どっちかといえば彫刻だったり、台座のようなものを出してたりして、けっこうおもしろい。素材だけ見ても、深井と藤原は陶、冨井は水準器やバイス(万力)などの工具、樋口はアンティーク彫刻を使っている。こうした「彫刻とはなにか」を問うような彫刻、いいかえればコンセプチュアルな彫刻の動きは、おそらく20~30年にいちど波のように押し寄せるだろう。夜、出品作家が開いたシンポジウムでは、彫刻と工芸や建築の違いや日本における彫刻教育の特殊性などが話し合われ、興味深いものだった。危機感を抱えるとはいえ、ひと世代前と違ってみんな明るく前向きだ。
2012/06/11(月)(村田真)
ARTRAIN Koganecho Artist Selection Exhibition
会期:2012/06/04~2012/06/10
吉田町画廊[神奈川県]
関内駅近くの吉田町にはなぜか画廊が何軒か並んでいる。びんびんの現代美術やバリバリのコマーシャルギャラリーはないけれど、これだけ発表の場所があるということは、それなりに需要もあるということだ。一方、そこから南西に1キロほど離れた黄金町界隈には、作品の供給源たるアーティストたちが群居する。これまであまり縁のなかった両者をつなげたのがこの企画。アートレインったってアートの雨じゃなくて、アートをつなぐ列車(トレイン)のほうね。黄金町方面からテンペラ画のメリノ、日本画の阿部道子が出品。ヒエロニムス・ボッスのような幻想世界を緻密に描くメリノと、身近な情景を克明に描写する阿部の対照的な展示だった。
2012/06/07(木)(村田真)
ブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト
会期:2011/10/29~2012/10/上旬
東京都現代美術館パブリック・プラザ[東京都]
美術館のエントランスの横に角張った雲みたいな建造物が建っている。このなかで昨秋から約1カ月ずつ、1年間にわたって若手アーティストを紹介していこうというのがブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクト。パヴィリオンを設計したのはブルームバーグさんではなく、若手建築家の平田晃久。じゃブルームバーグってなんだっつーと、金融情報プロバイダーで(なんだそれ?)、このプロジェクトのスポンサーらしい。このなかで、5~6月は毛利悠子の個展が開かれている。靴を脱いでパヴィリオン内部に入ると、さまざまな日用品や家電、楽器、機械類が置かれ、一部はコードでつながれて動いたり光ったりしている。センスのよいインスタレーションだけど、こういうのはもう少し落ち着いた場所で見たい気がする。
2012/06/05(火)(村田真)
トーキョーワンダーウォール公募2012入選作品展
会期:2012/05/26~2012/06/17
東京都現代美術館[東京都]
平面・立体合わせて878人の応募者のなかから、入選者73人の作品を展示。競争率が約12倍の難関だが、その結果がこれだから、審査会場にはさぞかし巨大なゴミの山が築かれたに違いない。そんなゴミの山から宝を探すのがこの公募展の醍醐味といえよう。全体にパターン化した作品が目につくなか、最後の部屋のムカイヤマ達也と九鬼みずほの絵画がよかった。この部屋にはなぜかほかにも鮫島ゆい、江川純太ら佳作が固まっているが、優秀作品を最後にもってきたわけではないことは、受賞作品が全体にばらけていることからも明らかだ。つーか、なにを基準に受賞作品を選んでいるんだろう?
2012/06/05(火)(村田真)