artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
トーマス・デマンド展
会期:2012/05/19~2012/07/08
東京都現代美術館[東京都]
紙でつくったハリボテを撮ったたんなるトリッキーな写真、だと思っていた。実際、さまざまな屋内風景を厚紙で再現して撮ってるんだけど、見ていくうちに徐々に不穏な空気を感じずにいられなくなった。ごくありふれた浴室をスナップショットしたような《浴室》、コピー機が並んでいるだけの《コピーショップ》、壁が幾何学パターンの無響室を再現した《実験室》……。どれも人間が不在なのはいうまでもないとして、モチーフの選び方がつまらなすぎて尋常じゃないし、構図も無作為すぎて不気味なくらいだ。これはただ現実世界と紙でつくった虚構世界のギャップを見せたいわけじゃない、背後になにかもっと大きな企みが仕組まれているに違いない。それが確信に変わったのが《制御室》と題された1枚。モスグリーンの壁にメータやスイッチなどが無数に並び、上から天井板らしきものが垂れ下がっている。制作は2011年なので、これが福島第一原発の制御室内を想定したものであることは間違いないが、この本物の制御室がじつは脆弱なハリボテでしかなかったことを、また、そのときだれも人がいなかったという不在感を、これほど雄弁に、これほど不気味に表わした作品はないだろう。そうやってあらためて作品を見直してみると、どれもいわくありげな場所・状況を慎重に選んでいることがわかってくる。今回初めて見る映像作品にも驚いた。これはモチーフの選択だけでなく、そこに時間の要素を加えることで人間の知覚の曖昧さを突いているように見えた。いやあおもしろかったなあ、今年前半期の展覧会ベスト5には入りそう。
2012/06/05(火)(村田真)
マックス・エルンスト──フィギュア×スケープ
会期:2012/04/07~2012/06/24
横浜美術館[神奈川県]
なんだろうこの展覧会。別に生誕(あるいは没後)何年という記念展でもないし、今年はドイツ年でもないし、いまなぜエルンストをやらなければならないのか、きっかけが見えない。もちろんそんな外的なきっかけなんかなくたって、学芸員がぜひやりたいと考えていい作品を集めてきたら、むしろそっちのほうが望ましいのだが、その点でもハンパ感が否めない。120点の出品作品のうち油彩画は30点のみで大半は版画。しかも版画は10点のシリーズでも1点と数えるから、実感としてはほとんど版画ばかりで、合間に油彩画がはさまってるという印象だ。出品は国内の美術館所蔵品が大半だが、そのなかで「いい作品」と呼べるのは、大阪市立近代美術館建設準備室の《偶像》と、京都国立近代美術館の《怒れる人々(訴え)》くらい。ほかの「いい作品」は、《期待》がミュンヘンのピナコテーク・デア・モデルネ、《ユークリッド》がヒューストンのメニル・コレクション、《嘘八百》がパリのポンピドゥー・センターといずれも海外の所蔵だ。あれこれイチャモンをつけてきて最後にいうのもなんだが、けっして悪い展覧会ではない。エルンストのすべてを知りたいという人は別にして、作品点数も適度だし、作品内容もバラエティに富んでいるうえ適度に刺激的なので、今日は時間があるからちょっと見に行くかって人にはおあつらえ向きといっていい。
2012/05/30(水)(村田真)
眞壁陸二「time after time」
会期:2012/04/06~2012/05/31
ベイスギャラリー[東京都]
画面を縦や横に分割し、樹木のシルエットを描いた作品。2010年の「瀬戸内国際芸術祭」では男木島の路地に壁画を描いて話題になったが、たしかにこれは装飾的に見えるせいか、タブローより木塀などに描いたほうが見映えがする。それを意識したのか、細い木の板を並べた作品もあるが、これは遠目には、かつての彦坂尚嘉の「ウッド・ペインティング(PWP)」シリーズを想起させる。まだまだ展開の余地はありそうだ。
2012/05/24(木)(村田真)
門田光雅「Trope」
会期:2012/05/12~2012/06/02
SATOSHI KOYAMA GALLERY[東京都]
絵具をこってりキャンヴァスにおいてヘラでぐいぐいなすりつけたような絵画。その大胆きわまりないタッチと、なかば偶然に生じる鮮やかな色彩のコンビネーションは、なにか具体的イメージを喚起させないでもないが、すぐに視線を絵具そのものに戻してくれる。新作では一つひとつのタッチにゆるいS字型のカーブが見られるようになったせいか、画面が整理されてカオス感が弱まり、イメージの喚起力も減ったように思う。言いかたを換えれば、抽象性が増したともいえるが。
2012/05/24(木)(村田真)
第5回東山魁夷記念日経日本画大賞展
会期:2012/05/19~2012/06/03
上野の森美術館[東京都]
全国の美術館学芸員や美術評論家らが推薦した58作品から入選した30作品を展示し、このなかからさらに大賞や特別賞を決めていくという。会場や選考委員長(高階秀爾)も含めて「VOCA展」がモデルになっているのは明らかだが、異なるのは対象作家が55歳以下とやや高いこと、推薦作品からさらに展示作品が選ばれること、そしてなにより「日本画」という曖昧な枠があることだ。この「日本画」がどこからどこまでを指すのかがよくわからない。たとえば、鴻池朋子や淺井裕介は現代美術ではよく知られているが、だれも彼らの作品を日本画だと思わないだろう。今回、鴻池は襖絵を出したから日本画なのか。淺井の泥絵はさらに日本画から遠く、どっちかといえばミティラー画のようなインドの土着絵画に近い。これらを日本画と呼ぶには無理がある。なのに鴻池が大賞に選ばれているところを見ると、選考委員たちもそれが「日本画であるかどうか」などもはやどうでもいいと考えているに違いない。いっそタイトルから「東山魁夷記念」と「日本画」を削除すれば、すっきりするぞお。
2012/05/24(木)(村田真)