artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
菊池敏正「Neo Authentic」
会期:2012/05/08~2012/05/26
メグミオギタギャラリー・ショウケース[東京都]
頭蓋骨や船底のような有機的形態や、幾何学を立体化した数理模型(杉本博司も被写体にしていた)を精密に彫って彩色した木彫作品。作者は東京藝大大学院の保存修復彫刻研究室を出て、現在東大の総合研究博物館で制作しているという。モチーフはこの総合研究博物館のコレクションだろう。その緻密な超絶技巧にも舌を巻くが、それ以上に澁澤龍彦的な博物学的志向性に興味をそそられるし、それを木という単一素材に封じ込めようとする趣味性に心を動かされる。
2012/05/17(木)(村田真)
SWOON「Honeycomb」
会期:2012/04/27~2012/05/20
XYZ collective(SNOW Contemporary)[東京都]
ニューヨークのストリートアーティスト、SWOON(スウーン)の日本初個展。紙にプリントした人物像を切り抜いて街の壁に貼っていく作品で知られる彼女が、ギャラリーでどんな作品を見せてくれるのか楽しみだった。小さな扉を開けると、室内は暗い。照明を落とし、床に何本かのロウソクを灯している。壁3面にはやはり人物像などをプリントした紙を貼り、正面の壁はハニカム(蜂の巣)の構造体を積み上げて、まるで祭壇のような雰囲気。人物像はどこかアジアの神々を思わせ、ロウソクの火ともども呪術的な空気を醸し出している。タイトルにもなっているハニカムは、アメリカでミツバチが大量発生した「事件」に基づいているそうだ。側面の壁にはハイチ地震で被災した子どもたちとコラボした作品も混じっていて、社会問題に対する意識の高さがうかがえる。ストリートアートから想像したものとはちょっと違う意外なインスタレーションだったが、インスタレーションとしてはそれほど意外性はなく、むしろ優等生的といってもいいくらい。そのギャップが意外だったのだ。彼女にとってストリートアートはアーティストになるためのたんなるステップではなく、実践的なエクササイズの場なのかもしれない。
2012/05/16(水)(村田真)
公募団体ベストセレクション 美術 2012
会期:2012/05/04~2012/05/27
東京都美術館[東京都]
都美館の「リニューアルオープンを機に、『公募展発祥の地』としての歴史の継承と発展を図るため」企画された公募団体展の選抜展。これのいささか奇妙な点は、団体展の団体展であること、そして都美館が主催者であることだ。団体展は都美館にとって最大のお得意さまだが、かつてのような影響力を失ったここ20~30年はたんなる金ヅルというか、もっといってしまえば必要悪になってしまったと思っていた。なのに今回どういうわけか都美館が「指導力」を発揮し、井のなかで派閥闘争を繰り広げてきた美術団体をまとめるパトロン的立場に立ったことに、ある種の違和感を覚えたのだ。都美館が原点に立ち返ったともいえるが、これを時代に逆行した現象と感じるのはぼくだけだろうか。いや、ひょっとしたら時代に逆行しているのは自分だけかもしれない、とも思ってしまった。でも展覧会を一巡してみて、つい足を止めて見入ってしまうような作品にはお目にかからず、少し安心したのも事実。安心させないでくれよおお。
2012/05/03(木)(村田真)
大エルミタージュ美術館展──世紀の顔・西欧絵画の400年
会期:2012/04/25~2012/07/16
国立新美術館[東京都]
エルミタージュ美術館の300万点を超えるコレクションから89点の絵画を選び、16世紀のルネサンスから20世紀アヴァンギャルドまで1世紀ごとに5章に分けて紹介。第1章はいきなりティツィアーノ晩年の《祝福するキリスト》で始まるが、あとはレオナルド派によるモナリザのヌード像や、当時としては珍しい女性画家ソフォニスバ・アングィソーラによる女性像が目を惹く程度。そういえばエルミタージュ美術館展て毎年のように開かれているから、今回も在庫一掃セール的な極東巡業かと思って第2章に足を踏み入れたら、そんなことなかった。父娘愛を隠れ蓑に近親相姦的ポルノを描いた《ローマの慈愛(キモンとペロ)》と、田園風景に理想世界を封じ込めたかのような《虹のある風景》の2点のルーベンスは見ごたえがあるし、レンブラントやヴァン・ダイクの卓越した肖像画もバロック的な重厚感にあふれた傑作。いやそんな知られた巨匠だけでなく、たとえばマティアス・ストーマーとヘリット・ファン・ホントホルストによるロウソクの火を光源にした2点の宗教画や、ホーホストラーテンのだまし絵的な自画像も見逃してはならない。むしろこれぞバロックといいたい。第3章では、小品ながらシャルダンの《洗濯する女》、闇を照らし出す光の表現が巧みなライト・オブ・ダービーの《外から見た鍛冶屋の光景》、牢獄から宮廷画家に成り上がったというリチャード・ブロンプトンの《エカテリーナ2世の肖像》、西洋美術館の出品作品よりずっとよかったユベール・ロベールの《古代ローマの公衆浴場跡》などが目を惹く。注目したいのは、ヴィジェ・ルブランとアンゲリカ・カウフマンというふたりの女性画家の自画像で、どちらも40代の自画像なのに20歳くらいにしか見えない。女性画家の特権か。第4、5章の近代絵画になると有名画家が目白押しになる分、特筆すべき作品は相対的に少なくなる。いやもう18世紀までで十分ともいえるが、唯一の例外がマティスの《赤い部屋》だ。サイズも意外なほど大きくて、他を圧倒する存在感を放っていた。
2012/05/02(水)(村田真)
霜田誠二 展「玄米麹で」
会期:2012/04/23~2012/04/28
ステップスギャラリー 銀座[東京都]
世界を股にかける(どっちかというと情勢不安定なアジア、東欧圏に需要が高い)パフォーマンス・アーティスト霜田誠二の個展。彼はパフォーマンスだけでなく、詩も書くし絵も描く。子もつくるし、ミソもつくる。今回はちゃんとキャンヴァスにアクリルで描いた絵と、額縁入りの手描き「突撃新聞」に、その場でつくる玄米麹や手描きTシャツなども販売。このアクリル画、なにか匂うと思ったら一部に玄米麹を塗り込めているのだ。タイトルは「麹中」か「酵母展」にすればよかったかも。ちなみにこの画廊は銀座4丁目のギャラリー58が入ってるビルの上階に位置する。さぞかし家賃も高いだろうと思いきや、オーナーでアーティストの吉岡まさみ氏によれば、エレベーターのない5階なので周囲に比べればかなり安いという。まあエレベーターのないビルの5階だと、巨大な鉄の彫刻展は無理だろうな。
2012/04/27(金)(村田真)