artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
塩田千春──存在のあり方
会期:2012/03/08~2012/04/21
ケンジタキギャラリー東京[東京都]
天井からクモの巣のように黒いヒモのネットを垂らし、その下に黒く細い鉄棒でつくられマネキンのような女体彫刻が横たわっている。ネットの結び目からは黒いヒモが垂れ、女体彫刻の心臓部には細い鉄棒が何本か突き刺さっている。ネットから垂れたヒモが落下して女体に刺さったようなかっこうだ。これを、天から降ってくる“黒い雨”に打たれて倒れた人間と見るのはうがちすぎか。いずれにせよ、なにか恐ろしげな物語を可視化したようなインスタレーション。
2012/04/20(金)(村田真)
斎藤春佳 個展「宝石と眼球が地中で出会ってもまっくら」
会期:2012/04/06~2012/04/26
トーキョーワンダーウォール都庁[東京都]
水流や植物や波紋を思わせる細かいカラフルな線描で画面を埋めていった絵。埋めていくといっても余白をたくさん残していて、それが彼女の絵の最大の特徴となっている。計画的というより場当たり的、というと聞こえが悪いので、予定調和的というより即興的な心地よさが伝わってくる。でもなにも考えないでこんな絵が描けるわけがない。かなり試行錯誤を積み重ねた人だろう。
2012/04/20(金)(村田真)
アンリ・ル・シダネル展──フランス ジェルブロワの風
会期:2012/04/20~2012/07/01
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
シダネルといえばローデンバックの幻想的な小説『死都ブリュージュ』を思い出す(それしか思い出せない)が、今回初めてまとまった作品を見ることができた。なるほど、淡いブルー系の色彩を多用するのは印象派、細かいタッチで描く技法は点描派、バラの花や人けのない食卓で心象を暗示するのは象徴主義、夜景や黄昏時の風景が多いのは世紀末芸術、といったように19世紀後半のいろんな流派をいいとこどりしたような作品だ。それだけにメインストリームに割り込めない脆弱さも感じるなあ。だいたい初期を除いて人物がほとんど描かれてないのも、西洋美術史の王道からはずれてるし。でもその亜流感が妙に心をくすぐったりするのも事実。シダネルはフランス人だけど、こういうタイプの画家ってベルギー人に多くね?
2012/04/20(日)(村田真)
ボストン美術館──日本美術の至宝
会期:2012/03/20~2012/06/10
東京国立博物館[東京都]
ボストン美術館が所蔵する日本美術の過去最大規模の里帰り展。日本美術には疎いぼくにも、アメリカに流出しなければ国宝になっていたであろう作品がいくつもあることくらいはわかる。とくにスゴイのが、繰り返し現れる赤い柱がモダンな《吉備大臣入唐絵巻》と、群衆や火炎の表現が目を惹く《平治物語絵巻》。これは間違いなく国宝もの。近世ではなんといっても曾我蕭白だ。まるで赤塚不二夫のマンガみたいにデフォルメされた《風仙図屏風》や《商山四皓図屏風》など10点ほど出ているが、やっぱり総延長10メートルを超す《雲龍図》にトドメを刺す。これは千葉市美の「蕭白ショック!!」よりショック度は大きい。とても充実した展覧会だった。以下余談。カタログ冒頭の「あいさつ」は展覧会の経緯と概要を述べる場所だが、ボストン美術館館長マルコム・ロジャースによる「メッセージ」には、「30年前、ボストン美術館の展覧会が日本で開催され」たとき「一人の若い学生が仙台から東京に足を運」んだが、「その学生が今や、本展覧会の共同キュレーターとなって」いるエピソードを紹介している。まさに血の通ったメッセージであり、名無しの「日本側主催者」による当たり障りのない「ごあいさつ」とは雲泥の差だ。ここらへんから意識を変えていかなければならないのではないか。
2012/04/19(木)(村田真)
大友良英 with 二階堂和美ライブ
会期:2012/04/15
万代島旧水揚場[新潟県]
7月から新潟市で始まる「水と土の芸術祭2012」のプレイベント。まずは信濃川の河川敷に完成した王文志(ワン・ウェンチー)による竹のドームを見に行く。これは3年前、やはり河川敷につくられたインスタレーションをヴァージョンアップしたもので、なかに入ると意外に広々としていてくつろげるうえ、竹の隙間から周囲の風景が透けて見えるというスグレもの。前回は市民の憩いの場としても人気を博したため、芸術祭に先行して制作してもらったという。そこから下流に15分ほど歩いて、ライブ会場となる万代島の旧水揚げ場へ。かつて漁獲物を水揚げした場所で、ガランとした巨大な空間は現在なにも使われておらず、芸術祭の展示のメイン会場になる予定だ。ライブは川(入江)に面した開口部にステージを設けたため、光を背にした逆光のなかで行なわれた。そのため客席からは大友も二階堂も顔の表情がほとんど読みとれないかわりに、向こう岸の倉庫や行き交う船や舞い飛ぶカモメを見ながらのライブ体験となった。おまけに漁船のエンジン音や「アーアー」というカモメの鳴き声も聞こえてきて、ふつうのコンサートならぶち壊しになるところを、自然体の大友と二階堂はそれを効果音として受け入れていたのはさすが。ちょっと寒かったけど、ライブは暖かかった。
2012/04/15(日)(村田真)