artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
大小島真木 個展「獣たちの声は精霊の声となり、カヌムンは雨を降らし、人びとは土地を耕した。」
会期:2012/04/07~2012/04/29
island MEDIUM[東京都]
アンリ・ルソーが描いたような南国の濃密な空気が漂うDMに吸い寄せられて見に行ったら、ギャラリーは3331内の向かいの小さな部屋に引っ越していた。その小さな展示室に作品がところ狭しと飾ってあり、濃密感は十分。描かれているのは、タイトルにも謳われているとおり、森のなかに精霊たちがウヨウヨいて、人間と獣とのあいだに境界線がなく、ということは人間がまだ自然のなかにすっぽり包まれていたプリミティブな世界らしい。そんな世界が好きだから濃密な絵になったのか、濃密な絵を描いていたからそんな世界に入り込んだのか。ともあれ絵の内容と形式は一致している。
2012/04/27(金)(村田真)
近代日本洋画の開拓者──高橋由一
会期:2012/04/28~2012/06/24
東京藝術大学大学美術館[東京都]
朝一で石巻から上野の「高橋由一展」内覧会に直行。そういえば由一展て栃木とか香川では見てきたけど、東京では初めてかもしれない。この由一という名は本名ではなく維新後に名乗ったもので、ぼくはてっきり「油(絵)」から採った名だと思っていたが、チラシを見たら「画」のなかに「由一」が含まれていることが明示され、なるほどと思った。「油画」を縦書きにすると「由一」が2回も出てくるわけだ。展示は「油画以前」「人物画・歴史画」「名所風景画」「静物画」「東北風景画」の5章立て。この構成を見て国立新美術館の「セザンヌ展」を思い出した。どちらも人物、風景、静物を分け隔てなく描いてるし。ところで由一とセザンヌがほぼ同時代人だって知ってた? 出品作品は初期の博物画から代表作の《花魁》、3点そろえた《鮭》、晩年の《岩倉具視像》や《西周像》、劇画チックな歴史画、浮世絵の構図にヒントを得た風景画、愚直で不気味な《甲冑図》や《桜花図》など計132点で、ほかに原田直次郎による由一像や、由一の油絵の師チャールズ・ワーグマンの作品など関連資料も豊富に出ていて充実している(が、展示替えがあるらしく、ぼくの好きな《豆腐》が見られなかったのは残念)。ホイッスラーを彷彿させる《月下隅田川》や、火焔を描いた2点の「鵜飼図」などの夜景図も目を惹く。いかに浮世絵や狩野派を油絵に変えるか、いかに日本画や写真と差別化するか、いかに日本社会に西洋画を定着させるか、いかに油絵で食っていくかなど、さまざまな問題を抱えた由一像が浮かび上がってくる。
2012/04/27(金)(村田真)
安部泰輔──ヒヨリモノ
会期:2012/04/27~2012/06/03
日和アートセンター[宮城県]
東北新幹線で仙台に出て、高速バスで石巻へ。駅前で自転車を借りて海岸沿いのガレキの山を見ていく。あたりまえだが、写真で見るのとは違って匂いも音もする。夕方、被災した市街地の空き店舗を改装した日和(ひより)アートセンターへ。ここは横浜市の黄金町との文化芸術交流の拠点としてこの3月にオープンしたばかりの施設で、アーティスト・イン・レジデンスを軸に展覧会やワークショップを開いている。この日は、古着をリサイクルした作品で知られる安部泰輔が滞在・制作した成果を発表する初日。ギャラリー内に数本の柱を立て、刺繍した古着を貼りつけている。安部は横浜で何度も会っているが、ここのスタッフも黄金町から移り住んだ人だった。被災地でアートになにができるかを問うより、アートを媒介に人が動くという潜在力に賭けた確信犯的なプロジェクト。
2012/04/26(木)(村田真)
「8/」オープニングパーティー
会期:2012/04/23
渋谷ヒカリエ8階[東京都]
渋谷東口の東急文化会館跡にオープンするヒカリエの8階は、クリエイティブフロア8/(ハチと読むらしい)。小山登美夫ギャラリーやd47ミュージアムなどが入居し、アートやデザインに力を入れるのはいいんだけど、なにかこの匂い以前にも嗅いだことあるような。六本木のアクシスとか、渋谷西武のロフトとか。いずれも華々しくオープンしたものの先細りしていった気がする。まあ末永く発展されんことを祈るばかりだ。で、小山さんちでは第1弾として、ダミアン・ハーストの「ニュースポットプリンツ」を展示。色違いの円が整然と並んだ版画で、先ごろそのペインティングが世界8都市にあるガゴシアンギャラリー計11軒で同時開催され話題になったばかり。版画とはいえ高いだろうなあと思ったら、小さいものなら買えない値段ではなかった。買わないけどね。
2012/04/23(月)(村田真)
BEAT TAKESHI KITANO──絵描き小僧展
会期:2012/04/13~2012/09/02
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
2年前、パリのカルティエ現代美術財団で開かれ人気を集めたビートたけし=北野武の個展の帰国展。「ペンキ屋のせがれ」というたけしのアウトサイダーアートを思わせる絵画のほか、金魚の魚体にカバの頭部をつなげた異種交配のオブジェ、倒れて破損する縄文土器、絞首刑で死なない方法の図解、自動的に描けるポロック絵画など、一瞬のひらめきを深く考えずに立体化したような一発芸的作品ばかり。反射神経と瞬発力に特化しているという意味でこれは、アウトサイダーアートというよりストリートアートに近い。チラシには「アートって特別なものじゃなく、型にはまらず、気取らず、みんながすっと入っていきやすい、気軽なものであるべきだと思う」というたけしの言葉があるが、そんな「気軽なもの」だったら美術館は必要ないだろう。たしかにストリートアートに美術館は必要ない。今度はぜひ路上でカマしてほしい。
2012/04/20(金)(村田真)