artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ハンマーヘッドスタジオ新・港区
ハンマーヘッドスタジオ新・港区[神奈川県]
2008年に横浜トリエンナーレの会場として建てられた新港ピアが、にもかかわらず昨年のトリエンナーレでは使われず、代わりにBankARTが「新・港村」として活用したことは記憶に新しい。そんな経緯もあり、そのときの内装をそのまま残して(一部改装)、次のトリエンナーレの開催年(2014)まで格安の共同スタジオとして再出発することになった。アーティストでは牛島達治、開発好明、川瀬浩介、さとうりさ、タカノ綾、松本秋則ら、団体では青山目黒、メビウスの卵、スタジオニブロール、深沢アート研究所、中村恩恵/ダンスサンガ、ヨコハマ経済新聞など計50組ほどが入居。骨組みだけの木造家屋の一画に陣取った松本秋則のスタジオは竹製のサウンドオブジェにぴったりだし、壁が複雑に入り組んだスタジオを借りた「メビウスの卵」はまさにメビウスの迷路のような空間。でも一般住宅を縮小したかのように小さな部屋に分かれたタカノ綾のスタジオは、いったいどうやって使うんだろう? まあとにかくにぎやかで楽しそうだが、ぜひここが日本のヌルいアートシーンをぶち壊す「ハンマーヘッド」になってほしいと願うばかりだ。
2012/05/18(金)(村田真)
マリンコング
会期:2012/05/11~2012/05/26
メグミオギタギャラリー[東京都]
1960年にテレビ放映された『怪獣マリンコング」をモチーフに、フランク・トランキナ、ニナ・リッツォ、廣江友和、大森準平らが競作した作品展。うーん、そういわれればそんな怪獣いたような……とぼくでさえ記憶があやふやなのに、もっと若いアーティストや海外のアーティストは知っているはずもなく、いったいどうすればいいのだ。いや、知らないからこそ勝手に想像をふくらませて描けるのかもしれない。実際、フランク・トランキナやニナ・リッツォの作品はノドから手が出そうなくらい魅力的でした。たぶんマリンコングじゃなくても魅力的な絵だと思うけど。
2012/05/17(木)(村田真)
レディ・ディオール・アズ・シーン・バイ
会期:2012/04/22~2012/05/20
和光並木館1F[東京都]
近ごろ有名ブランドショップが次々と現代美術に触手を伸ばしているが、同展はクリスチャン・ディオールの婦人用バッグ「レディ・ディオール」をモチーフに、立体、写真、映像などのコミッションワークを公開するもの。出品はブルース・ウェーバー、ナン・ゴールディン、デヴィッド・リンチらに加え、日本から名和晃平、鬼頭健吾、宮永愛子らが参加している。こういう場合、お調子者は商品をヨイショする作品をつくりがちだが、それではたんなる宣伝にしかならないし、主催者もそんなものを望んではいないだろう。だからといって商品を告発するような作品が歓迎されるはずもないが、しかしどこかで批評精神は保っていたいみたいな。そんな条件下でアーティストがどんな解を出すのかが見どころとなる。写真にはそのまま広告として使えそうな作品もあるが、たとえば、商品(レディ・ディオール)を片手に血を流して路上に横たわる女性を撮ったコートニー・ロイのようなキワドイ写真もある。立体にはもっと過激な作品もあって、半透明の樹脂製のバッグを銃で打ち抜いた瞬間をそのまま固めたようなオリンピア・スカリーの作品や、もともとワニ皮製だったのか、透明樹脂でかたどったバッグのなかにワニの頭蓋骨を入れたウェン・ファンの作品もあって、けっこうスリリング。
2012/05/17(木)(村田真)
傍嶋崇 展──オモイオモイオモウ
会期:2012/05/08~2012/05/29
第一生命南ギャラリー[東京都]
大作7点の展示。うち6点に人物らしきかたちが見えるけど、とても人物画とはいえない。絵具は全体に厚く色面として塗られているが、表面はフラットではなく刷毛の跡をくっきり残している。ところどころかいま見られる下地の赤やグレーが意外と効果的だ。キャンヴァス代と絵具代だけでン十万円はかかってそうな大作だが(最近そっちのほうが気になる)、それでいて重厚感を感じさせず、むしろ軽快でユーモアさえ感じられる点が最大の特徴だろう。
2012/05/17(木)(村田真)
アートアワードトーキョー丸の内2012
会期:2012/04/28~2012/05/27
行幸地下ギャラリー[東京都]
全国の美大の卒業・修了制作展から選ばれた30人が出品。うち東京藝大が半数近い14人を占め、以下、武蔵美5人、名古屋芸大3人、京都芸大と東北芸工大が各2人と続き、東京造形、京都造形、金沢美大、愛知芸大が各1人ずつとずいぶん偏っている。多摩美や女子美は一人も入ってない。今年の「五美大展」を見た限り、多摩美は豊作だと思ったのになあ。中園晃二、水野里奈、吉田晋之介の3人はペインティングのツボをよく心得ている。とくに中園の画力は圧倒的。2台の戦車の砲を1本につなげた潘逸舟の模型と映像、義足を軸に細々したモノを集積した片山真理のインスタレーション、美の規範であるギリシャ彫刻を脱臼させた奥村昂子の布のオブジェなど、時流に流されない骨太さを感じさせる作品も印象に残った。ちなみにグランプリは片山真理、準グランプリは潘逸舟でした。
2012/05/17(木)(村田真)