artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

吉田夏奈 展

会期:2012/04/02~2012/04/25

LIXILギャラリー[東京都]

ギャラリー中央に巨大な歪んだ楕円形のテーブルが置かれ、その表面に中心に行くほど濃い青が塗られ、端には緑が配されている。初め湖の地図かと思ったら、魚眼レンズで下からのぞいた山々の風景だった。かたわらには一辺が1メートル足らずの立方体が置かれ、上面を含めた5面にびっしりと樹木が描かれている。つまりこれ、森の立体絵。壁のコーナーには左右3枚ずつ計6枚のパネルにこんもりとした森の絵が。昨年、東京オペラシティのプロジェクトNに壁面いっぱいの絵を出していた人だ。この人のこだわりは、山や森のイメージを決して「1枚の絵」に収めないことだ。山も森も1枚に収められるほどケチなものではないと考えているのかもしれない。でも一歩間違えるとトリックアートに。

2012/04/12(木)(村田真)

蕭白ショック!!──曾我蕭白と京の画家たち

会期:2012/04/10~2012/05/20

千葉市美術館[千葉県]

蕭白とその周辺の若冲、大雅、応挙らの作品を集めたもの。東博の「ボストン美術館展」では蕭白が目玉のひとつになっているので、それに合わせた便乗企画か。ほおあるある、《柳下鬼女図屏風》に《林和靖図屏風》に《寒山拾得図屏風》に《雪山童子図》……。やっぱり蕭白はすごい、キチガイだと思いながら出口に来て、でもなにか物足りないなあと考えてみたら、《群仙図屏風》がなかったことに気づいた。しまった見逃したと思って出品目録を見ると、会期後半にしか展示されないらしい。目録によれば全期間を通じて展示される作品は1割にも満たず、大半が会期中に展示替えされるそうだ。もういちど見に来いってか?

2012/04/10(火)(村田真)

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石井香菜子 展──逃げ水のような

会期:2012/04/06~2012/04/15

ギャラリー零∞[東京都]

天井から窓枠のような白い枠がいくつか吊るされ、そこにビルの風景をプリントした半透明の紗のようなものがカーテンみたいに掛かっている。浮遊する窓のイメージは刺激的だが、鮮烈というほどではない。階下の銀座西欧ギャラリーでは石井を含めたグループ展「36.9℃」が開かれており、そこでも石井は写真と映像を出品。写真はベルリンの窓を撮ったもので、工事中のような内部とガラスに映り込んだ外の風景をダブらせている。映像は沖縄でのクルーズを撮ったもので、これも窓に映る陸の風景と海景が重なって見える。いずれも内と外、鏡像と実像との境界域に踏み込んだ作品。

2012/04/10(土)(村田真)

青木恵美子 展──沈黙の終わりに

会期:2012/04/09~2012/04/14

藍画廊[東京都]

大作絵画数点の展示。どれも画面の8割方が赤く塗られ、下方からはニュアンスに富んだ青や緑が滲出している。逆に大半が青く、下端だけ赤かったら風景を予想できるが、これはなにものも予想できず、抽象と呼ぶしかない。作品そのものは2月に名古屋の「アーツチャレンジ2012」でも見たが、このように同系色の絵を壁も床も天井も真っ白い空間に置くと、とてもよく映える。絵画はいつ、どこに、どのように展示しても絵画そのもの(内容)は変わらないが、見え方は大きく変わることがある。そのため晩年のマーク・ロスコはうるさいほど展示に口をはさんだという。これはもはや展示の域を超えた「絵画のインスタレーション」と呼ぶべき事態だろう。青木も絵の内容と同等のエネルギーをインスタレーションに注げば、新しい地平が開けるかも。

2012/04/10(土)(村田真)

大友克洋GENGA展

会期:2012/04/09~2012/05/30

3331アーツ千代田[東京都]

スタジオジブリや『ワンピース』など、近ごろ美術館やギャラリーでのマンガの原画展が流行ってる。しかも美術展などに比べてケタ違いの大量動員に成功しているのだから困ったもんだ。本来マンガというのは雑誌などに複製されたかたちが完成品だから、原画は見せるべきものではないはず。もちろん、いつも複製に親しんでいるからこそ読者は原画を見てみたいと思うのだし、そもそも大量の複製が完成品だから大量動員もできるのだが、でもそれじゃ1点制作の美術の立場がないでしょ。つーか美術の立場なんかとっくにないのだが。ともあれ、大友はほかのマンガ家に比べて圧倒的に絵がうまいので原画展も一見の価値がある。とくに今回は代表作『AKIRA』の原画2,300点を並べた展示が見もの。原画そのものもさることながら、シンプルな陳列棚はまるで博物館のようなインスタレーションだ。また、『童夢』に出てくる超能力で凹ませた壁が立体的に再現され、その前で記念撮影できるというのも笑える。実はこの原画展、宮城県出身の大友が東日本大震災へのチャリティとして企画したたもので、入場料収益の30パーセントを被災地復興に役立てる意向だ。大量動員できるマンガ展の最良の有効活用といえる。なお同展は日時指定の完全予約制。

2012/04/09(月)(村田真)

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