artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

「Googleアートプロジェクト」記者発表会

東京国立博物館[東京都]

初めてグーグルの「アートプロジェクト」を見たときは驚いた。グーグルマップの「ストリートビュー」のように世界中の一流美術館の展示室をザックリ見て回ることができるし、特定の作品は細部まで拡大してつぶさに観察することができるからだ。これだよこれ、インターネットでいちばんほしかったのはこういう機能なんだよなあと喜んだものだ。そのアートプロジェクトに東京国立博物館をはじめ、国立西洋、ブリヂストン、サントリー、大原(岡山県)、足立(島根県)の各美術館も加わることになった。と聞いても正直あまりうれしくない。なぜならこういう機能は行きたくても行けない美術館だからこそ価値があるんだし、細部まで見る価値のある作品だからこそ拡大してみたくなるもんだからな。日本にそんな美術館やコレクションがはたしてどれだけあるか?

2012/04/09(月)(村田真)

ひっくりかえる展

会期:2012/04/01~2012/07/08

ワタリウム美術館[東京都]

Chim↑Pomのキュレーションで、ロシアのヴォイナ、フランスのJR、カナダのアドバスターズ、そして日本からはChim↑Pomのほか、「原爆の図」の丸木位里・俊、福島原発の「指さし作業員」竹内公太らが出品。こうして名前を並べただけでもよく実現したもんだと感心するような、ストリートアートと反原発・反核の展覧会。まあ日の目を見なかった目黒の「原爆展」と違って、こっちは勢いだけでヤリ倒した感は否めないが(なにしろ準備期間は半年たらず)。したがって展示はかなり乱暴だし、そもそもストリート系のアートを美術館に展示することの是非も問われなければならないが、そのことも含めて問題提起的な展覧会になっていた。この日はヴォイナのメンバー、アレクセイ・プルツセル・サルノがロシアでの活動を紹介。パトカーをみんなで寄ってたかってひっくり返したり、KGB本部前の跳ね橋が上がる直前に巨大なペニスの絵を描いてKGBに見せつけたり、きわめて挑発的、というより端的にいって犯罪そのものじゃないか。実際メンバーのふたりは逮捕監禁されてるそうだ。アレクセイの発言、「ロシアの内務省では100パーセント汚職が行なわれているが、だれも改革しようとしないのでわれわれがしている。改革とはひっくり返すことだ」「牢屋に入ることはもっともすばらしい贈り物だ。なぜなら国家がわれわれの活動を認めてくれたわけだから」。はたしてアレクセイは無事帰国できたんだろうか……。

2012/04/07(土)(村田真)

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本田孝義『モバイルハウスのつくりかた』

会期:6月から渋谷ユーロスペース他にてロードショー

渋谷ユーロスペース[東京都]

PHスタジオのドキュメンタリー映画『船、山にのぼる』を撮った本田孝義監督が、こんどは若手建築家の坂口恭平を追った。坂口は『0円ハウス』『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』などの著書でも知られるように、巨大(巨費)志向の建築界に背を向け、建設費も家賃もゼロに近い「巣のような家」を建てようと模索。多摩川の河川敷に住む通称ロビンソン・クルーソーの協力を得ながら、移動式の「モバイルハウス」を建てた。その一部始終を収めたのがこの映画だ。が、モバイルハウスが完成し、いざ多摩川から移動しようとしたその日、東日本大震災が発生。その後、坂口は出身地の熊本に妻子とともに移住し、モバイルハウスもそちらに移した。そのため映画のラストは予期せぬ方向に展開したが、結果的に原発事故を含めた震災後の生き方、暮らし方を考えるうえでいっそう厚みを増したと思う。それにしても、本田が坂口を知ったのが4年前に東京都現代美術館で開かれた「川俣正展」での川俣×坂口対談だったというのは示唆的だ。川俣自身も早くから都市のなかでの「0円ハウス」や「狩猟採集生活」を提案していたし、その弟子筋のPHスタジオも軽トラに白い家を載せて移動したことがあったからだ。本田のなかではすべてつながっているのだ。

2012/04/03(火)(村田真)

セザンヌ──パリとプロヴァンス

会期:2012/03/28~2012/06/11

国立新美術館[東京都]

ああセザンヌか、何年ぶりだろうくらいの気分で、つまりなんの期待も感慨もなく見に行った。展覧会は「初期」「風景」「身体」「肖像」「静物」「晩年」の6章立てで、「初期」では「よくこんなヘタクソなのに画家を目指したもんだ」とあきれるほど稚拙な作品が並び、先が思いやられる。とくに別荘のために描いた装飾画4部作《四季》には開いた口がふさがらない。……と思ったら、「風景」では《首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ》をはじめ、2点の《大きな松の木と赤い大地》《サント=ヴィクトワール山》など、いかにも構築的で「画面コンシャス」な傑作が並んでいて感激。さらに「肖像」では、自分の奥さんなのにちっともきれいに描こうとしてないのが潔い《赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人》や、そのままピカソに接続しそうな《アンブロワーズ・ヴォラールの肖像》もあるではないか。また「静物」では、美術の教科書に必ずといっていいほど載ってる《りんごとオレンジ》がオルセー美術館から来ている。もうこの数点だけでこの「セザンヌ展」はすばらしいと言い切ってしまおう。サブタイトルにもあるように、同展のテーマは画家が往復しながら制作した「パリとプロヴァンス」なのだが、そんなテーマなどかすんでしまうくらい作品がいい。これはオススメ。「ポロック展」でもそうだったが、展示室の最後にプロヴァンスのアトリエが再現されていた。

2012/04/02(月)(村田真)

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竹内公太「公然の秘密」

会期:2012/03/17~2012/04/01

XYZ collective(SNOW Contemporary)[東京都]

初めて訪れるXYZコレクティブ。駒沢大学駅から迷いながらようやくたどりつくと、シャッターの前に置かれた透明のブースのなかに竹内らしき人が入っている。ドアの絵が描かれたドア(つまりドアの表面に「ドアを描いた絵」を貼ってある)を開けると、内部は薄暗い車庫のような空間。壁面に、福島第一原発の前でカメラに向かって白い防護服の作業員が指さしをする動画が映し出されている。ネットで話題になった「指さし作業員」だ。その横に椅子とマイクのようなものが置かれ、だれかが話している。マイクのようなものは糸電話でシャッターの外に伸びているので、さきほどの竹内らしき人と話してるらしい。「らしい」とか「らしき人」というのは実際にぼくが糸電話で話してないので確認できないからだが、話したところで本人かどうか断定はできないだろう。同様に、いやそれ以上にネット上に飛び交う情報は、とりわけ原発事故に関する情報は、なにがホントでなにがウソか見きわめるのが難しい。つまりこの個展は「指さし作業員」が自分の仕業であることを告白すると同時に、ホントにそれが竹内の仕業なのかをもういちど来場者に問い直しているようにも受け取れる。あたかもカメラに向かって指をさすように。またそれによって「指さし作業員」がたんなる「パフォーマンスアート」に回収されることを拒み、まさに原発事故の真相のように「薮のなか」にまぎれようとしているのかもしれない。

2012/04/01(日)(村田真)