artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

TWSエマージング179 松尾勘太「境界とその周辺」

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

昆虫みたいなふたつの大きな目をした人物(?)などを描いている。いや、ふたつの目は双頭にも見えるから宇宙人かも。どれも背景が暗く、どことなくキリコかシュルレアリスムを思わせる。でも決して「シュール(幻想的)なイメージ」に頼ってるわけでもなく、ペインタリーな効果も楽しめるというおいしい絵画。

2012/05/23(水)(村田真)

TWSエマージング178 小山篤「MAN MACHINE」

会期:2012/05/12~2012/06/03

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

3階は2部屋に分かれ、ふたりの絵画を展示している。小山は未来都市の予想図か、機械の設計図を思わせる渋い色彩の線描画。多摩美を出た後、東京理科大で数学を学んだという経歴を見てなんとなく納得。パースや立体感の出し方が工学系だからだ。人体図もあるが、これも人体の設計図みたいに骨格の上に肉づけしていくような描き方で、ちょっとジャコメッティを思い出した。ほかにあまり類例を見ない珍しい絵。

2012/05/23(水)(村田真)

TWSエマージング177 川久保ジョイ「Speak the Unspeakable」

会期:2012/05/12~2012/06/03

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

2階の最初の部屋には「写真と世界の関係性は写真では表現できない」とか「写真は可視世界に属さない」とか「写真を見ることは出来ない」とか、写真を巡るアフォリズムが紙に「焼き付け」られている。なにをいまさらと思いつつ次の部屋に入ると真っ暗で、手探りで進んでいくと1カ所だけ小さな穴が開いているのを発見。この部屋が暗箱になっており、自分がピンホールカメラのなかを通っていることがわかる。「暗室」を出ると、正面の壁に後ろ向きの人たちを写した写真が入れ子状に写されている、つまり写真を撮った写真が展示してある。手前には4つの台があり、それぞれインスタントカメラが置かれ、自由に撮影できる仕組み。1台を手にとりシャッターを押したら、部屋中にパッとストロボが光った。この光はピンホールを通して手前の「暗室」の壁に、「写真の写真」を撮影するぼくの後ろ姿を映し出すに違いない。ここで試みられていることは、先のアフォリズムとは逆の「写真と世界の関係性」を写真で表現することであり、つまるところ「写真」を可視化しようということだ。このパラドキシカルな堂々巡りは刺激的。

2012/05/23(水)(村田真)

TWSエマージング176 二藤建人「不測に向かって放り込む」

会期:2012/05/12~2012/06/03

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

この「TWSエマージング」シリーズはあまりメディアに取り上げられる機会が少ないようだけど、けっこう高い確率で新しい才能に出会える貴重な場だ。今回は同時開催されている4人とも「アタリ」で、打率10割。まず1階の二藤建人。養生したギャラリーの床に泥水のプールを設置して上にトタン屋根を被せ、その屋根に何カ所か穴を開けて水に溶いた石膏を下の泥水に流し込む。石膏が固まったころ、泥からその固まりを掘り出す。これが初日に行った作者のパフォーマンスで、その結果としてのインスタレーションと記録ビデオを展示している。これを見てちょっとなつかしい気分になったのは、70~80年代に戸谷成雄や黒川弘毅らが試みていた彫刻の原点回帰ともいうべき作業を思い出したからだ。彼らが試みていたのは、たとえば鉄を入れて固めた石膏から鉄を彫り起こしたり、無作為にできた鋳型にブロンズを流し込んだりするような、いわば「彫刻」と呼べるギリギリの作業であり、そこからもういちど彫刻概念をとらえ直そうとしていたのではないか。二藤はそれを知ってか知らずか、「彫刻とはなにか」をわかりやすくユーモラスに再構築してみせたのだ。

2012/05/23(水)(村田真)

ZOKEI賞選抜作品展

会期:2012/05/14~2012/06/02

東京造形大学付属美術館[東京都]

造形大では毎年「ZOKEI展」を開き、優秀作品に「ZOKEI賞」を与えているが、今回は受賞作品のなかから選抜した絵画、彫刻、デザイン、映像など19人の作品を展示。絵画だけに絞ると、さまざまな「うなじ」をクローズアップして描いた上田裕子のリトグラフがよかった。画面のほぼ上半分を黒(髪の色)が占め、下3分の1ほどが肌色におおわれ、よく見るとウブ毛や陰影も描かれているけれど、遠目にはモノクロームの色面抽象に見えなくもない。ペインティングではありそうな図像だが、大判の版画ならではのフラットな感じがよく出ている。一方、安達裕美佳の作品は「五美大展」で見たときは冴えなかったが、ここでは湯浅加奈子の絵画ともども色彩が映えている。こうした鮮やかな色づかいはこの世代特有のものなのか、それとも個性に由来する天然ものなのか……。

2012/05/21(月)(村田真)