artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
北野謙 展 our face project:Asia
会期:2011/11/26~2012/01/29
MEM[東京都]
目に焦点を合わせて周囲がぼやけた肖像写真、のように見えるが、じつは数十人分の肖像写真のネガを1枚ずつ目の位置を合わせて焼き付けていった、いわば集団肖像写真なのだ。今回は、東京の反戦デモに参加した若者たち、滋賀県の高校の野球部員、ガンジス川で沐浴するヒンドゥー教徒、バリ舞踊のダンサー、天安門広場を警備する兵士たちなど、アジア各地で撮ったさまざまな集団の「群像」を展示している。このまま拡大していって、たとえばインド人全員の顔とか、全世界の政治家の顔とか、全人類の顔とか焼き付けたら、はたしてどんな顔になるんだろう。それはムリでも、たとえば卒業写真などクラス全員この方式で撮れば、だれがブスだったとかだれがデブだとかいわれなくなるし、差別もなくなるはずだ。なわけないか。ところで、ギャラリー内には梱包材が置いてあるし、テーブルの上には荷物が積み上げてあるし、なんか雑然としてるなあと思ったら、展覧会はすでに終わっていたのでした。失礼しました。
2012/01/31(火)(村田真)
行きつ戻りつ つくり つくられること
会期:2012/01/12~2012/02/12
ナディッフギャラリー[東京都]
佐野陽一、久村卓、山極満博の3人展。だが、ギャラリーの壁には佐野の写真が10点かかっているだけなので、不注意な人は佐野の個展と勘違いするかもしれない。が、ギャラリーの入口の螺旋階段の下に目をやれば、そこには小さな小さなプチギャラリーが店を開いているし(山極)、奥の倉庫をのぞけば密かにビデオショーをやってるし(久村)、床にゴミがたまってるのかと思ったら硫黄岳の土だったりして(久村)、あっちこっちに作品があることに気づく。階上の本屋にも、作品運搬用の箱の内部をプチギャラリーに見立てたり(山極)、在庫本用の引き出しの内部がプチアトリエになってたり(山極)、台の上に石みたいな石鹸(石鹸みたいな石かも)を置いたり(久村)、数カ所に作品が隠されている。サービス精神旺盛な楽しい展覧会。
2012/01/31(火)(村田真)
関根美夫──身体から記号へ
会期:2013/01/26~2013/02/23
東京画廊[東京都]
関根美夫は具体美術協会の創立メンバーのひとり(もの派は関根伸夫)。代表的なソロバンの絵を中心に、初期のアンフォルメルな抽象画や貨車を描いた絵(開いた扉から能面や女の人がのぞいてる)なども展示されている。タイトルに倣っていうと、初期のアンフォルメル絵画が身体性を強調したものだとすれば、その後のソロバンや貨車の絵は身の回りの日用品を記号化したポップアートといえる。画廊のオーナーによれば、関根は川崎重工の経理を担当していたそうで、貨車もソロバンも彼にとっては身近なものだったのだ。ソロバンの絵は壁に横一列に隙間なく並べられているため、全体でひとつの幾何学的抽象画と見ることもできる。おもしろいのは、ソロバンの示す数が、たとえば「1986」とかその作品の制作年になっていること。なるほど、これで「デート・ペインティング」をやればよかったかも。
2012/01/31(木)(村田真)
第7回 shiseido art egg展「久門剛史」
会期:2013/01/08~2013/01/31
資生堂ギャラリー[東京都]
大小ふたつの展示室にそれぞれ4畳半ほどの台をつくり、一方は畳を敷いてこたつを置き、もう一方はフローリング仕立てでデスクを置いている。かたわらにはレンガを円筒形に積み上げた井戸のようなもの、大きなゴミ箱が設置され、天井からは照明が吊るされている。スピーカーから子どもの声や時報、ファクス音、電車の通過音などが聞こえ、急に照明やこたつが光ったり……。ちょっとおもしろいけど、もっともっとおもしろくなりそうな可能性を秘めた作品。もうひとつ時計の作品もあって、秒針に小さなルーペがつけられ、その下の文字盤にぐるっと黒い点が打たれている。黒い点は小さな文字で文章になっており、ルーペで読む仕掛けなのだが、文字が小さいうえにルーペがカチコチ動くので読みとれない。洗練された手つきだ。
2012/01/31(木)(村田真)
鶴友那「時の集積と追憶」
会期:2013/01/12~2013/02/09
目のまわりが黒ずんだ女性(と花)をモデルにした絵。女は和服を着ているものが多く、ちょっと不健康で退廃的な大正ロマンの香りを漂わせる。と思ったら、作者は関東大震災後の大正時代を東日本大震災後の現代にダブらせてるそうだ。これで女の手足を切断したら会田誠になる……ならないか。作者の鶴(名前からして抜きん出てる)は今年26歳、佐賀大の大学院を出たばかりの若手というから驚く。聞くところによると、リアリズム絵画で知られる小木曽誠が教鞭をとる佐賀大学文化教育学部からは、有望な画家がすでに何人も輩出しているとのこと。美大でないからといってあなどれない。
2012/01/31(木)(村田真)