artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
第6回展覧会企画公募
会期:2012/01/14~2012/02/26
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
展覧会の企画の公募なのに、いわゆる展覧会らしい展覧会はひとつもなかった。そういう企画はむしろ拒否しているようにも感じられた。パンフレットによると、2011年度は「いま、本当に必要とされている『場』や『実験』とは何か?」「公共の場で行う『展覧会』とはどうあるべきなのか?」が問われたそうで、審査員の顔ぶれ(毛利嘉孝、神谷幸恵、黒瀬陽平ら)を見ても、まともな(つまりブツが整然と並ぶような)展覧会は期待できそうにない。じゃあどんな企画が選ばれたかといえば、展覧会の枠を踏み外したような、または展覧会とはなにかを問うような、いわばメタ展覧会ともいうべきものだった。たとえば1階(廣田大樹「HARU by Hija Bastarda」)は展覧会開催中というより設営中といった雰囲気で、2~3人の人たちがなにやらつくって展示に加えている。彼らが企画者なのか、アーティストなのか、それとも飛び入り参加の観客なのかわからないが、とにかく雑然として落ち着かない。そもそも企画者─出品者─観客といった役割分担もなさそうだ。パンフレットには「人と人との関係性を創造し、出会いと共同生活を可能にし、時間と場所の感覚を探求すること。これこそが、今回の展覧会での我々の意図する目標です」などと書いてあって、どうやら作品の発表の場というより、出会いのための場づくりをめざしているようだ。2階では音楽が流れ、3階では映像が映されていて、絵画や彫刻などの美術展を期待してきた人はあっけにとられるかもしれない。このように展覧会解体に向かう方向性は高く評価したいが、それが「展覧会」としておもしろいかというと残念ながらそうではない。それが問題だ。
2012/02/17(金)(村田真)
松井冬子 展──世界中の子と友達になれる
会期:2011/12/17~2012/03/18
横浜美術館[神奈川県]
横浜美術館では毎年のように30代前後の若手作家の個展を開いているが、いつも気がかりなのは広い会場が埋められるかどうかということ。たかだかキャリア10年程度で人さまにお見せできる作品がどれだけあるのか、横浜美術館の大空間に耐えうる作品がどれほどつくれるのか、疑問に思わないでもない。実際だれとはいわないが、展示室を進むにつれ作品が間延びし、最後はかろうじて埋めました的なツライ展示もあった。とりわけ今回は日本画で、しかも寡作といわれる松井冬子だけに、スカスカにならないか心配だったが、杞憂に終わりましたね。しかも一作一作かなり入魂の様子で、展覧会全体に異様な緊張感がみなぎっている。さすが松井さん、伊達ではありませんね。でも、作品のほとんどがモノクロームに近く、テーマやモチーフにも幅がない(よくいえばブレない)ため、見終わったあと、たくさんの作品を見たとか、いろんな作品を見たという印象が薄い。ある意味、全体でひとつの作品みたいな。それはそれでスゴイが。
2012/02/13(月)(村田真)
フェルメール──光の王国展
会期:2012/01/20~2012/07/22
フェルメール・センター銀座[東京都]
銀座松坂屋の裏にフェルメール・センターができたというので行ってみる。あれ? ここは以前TEPCO(東電のショールーム)が入ってたビルじゃなかったっけ。2階にプラスマイナスギャラリーがあったから何度か訪れたことがあるけど、いつのまになくなったんだろ。それにしても東電のあとに「光の王国展」が入るなんて、偶然とは思えん。などと思いつつ、エレベーターでいったん5階まで行き、なぜかフロアをぐるっと回って4階に下りると、そこがメイン会場。なんと、フェルメール作とされる全37点の絵画が制作年代順(推定)に展示されているではないか! もちろん複製だけど、単なる複製ではなく、描かれた当時のオリジナルに近い色彩を再現しようとした「リ・クリエイト」なのだという。しかもサイズは原寸大で、色だけでなくテクスチュアや艶も再現されているので(ボケたものもあるが)、各作品を見比べたり全作品を概観するには役に立つ。なにより額縁が各所有館と近いものを選んでいる点を高く評価したい。監修者の福岡伸一ハカセのこだわりか。もう1階下がると、福岡ハカセが著書『光の王国』で提出した仮説の是非を問うかのように、フェルメールと同時代の科学者レーウェンフックの書簡につけられた虫のスケッチが展示されている。レーウェンフックも画家と同じデルフトに住み、両者は交流もあったらしく、ハカセはこの細密なスケッチをフェルメールに描いてもらったものではないかとにらんでいるのだ。もうしそうだとしたら、フェルメール唯一の素描作品ということになるのだが……。最後はショップでフェルメールグッズを買って、入場料1,000円は安いか、高いか。
2012/02/09(木)(村田真)
靉嘔──ふたたび虹のかなたに、田中敦子──アート・オブ・コネクティング
会期:2012/02/04~2012/05/06
東京都現代美術館[東京都]
同時期に同世代のアーティストの個展をぶつけたのはどういう意図なのかわからないが、せっかく両方とも見たんだから比較してみるのが礼儀というものだろう。靉嘔(1931-)も田中(1932-2005)も50年代にそれぞれデモクラート美術家協会、具体美術協会という前衛芸術運動に参加し、その後どちらも色鮮やかな作品を追求してきた。しかし靉嘔のほうは、50年代末にニューヨークに渡り、フルクサスと合流してパフォーマンスやインスタレーション(当時は「ハプニング」「環境芸術」などと呼ばれた)を展開。トレードマークともいうべき「虹」を創作し、絵画や版画だけでなくインスタレーションにも応用、長さ300メートルの虹の旗をつくってエッフェル塔からたなびかせたこともある。いってみれば、やんちゃな前衛小僧といった趣だ。一方、田中は具体の初期にカラフルな電球を身にまとう《電気服》を発表し、パフォーマンスも行なったが、その後は一貫して極彩色の絵を描き続けてきた。赤や青や黄色の円のあいだを線がのたうつその絵が、実は電気服の配線図から展開されたものであることを今回初めて知った。なるほど、そういわれりゃそうだよなあ。でもそれを延々と増殖させ続けたってのがスゴイ。草間彌生よりある意味イッてる感じ。靉嘔も「虹」で半世紀もたせたけど、手を替え品を替えやったからな。振り返ってみると、靉嘔はすでに現代美術史に組み込まれて過去の名前になってしまった感があるけど、田中のほうは亡くなったにもかかわらず、まだ現在進行形で円と線がつむがれているような気がする。この違いはなんだろう。前衛的発散型(靉嘔)とオタク的内閉型(田中)の違いか。
2012/02/03(金)(村田真)
没後150年 歌川国芳展
会期:2011/12/17~2012/02/12
森アーツセンターギャラリー[東京都]
会期も終盤だったため、平日の昼間だというのにかなりの人出。しかもこうした展覧会場に大量発生しがちな有閑おばちゃんより、なぜか若いカップルやおっさんが多い。これは国芳ならではの特異性なのか、単に仕事のないヒマ人が増えただけなのか。おそらく両方でしょうね。出品作品421点は尋常な数ではないが、前期・後期でほとんど入れ替わるため実際に展示されているのは200点強。それでも多いな。困ったのは、大半が浮世絵版画だからサイズが小さいうえ図柄も細かく、おまけに今日は混んでいるため頭越しにしか見られないこと。国芳の活躍した江戸時代(幕末)には浮世絵はひとり手にもってながめるもので、美術館みたいな会場に展示することを前提に描いてなかったからな。もともと巨大な空間で大人数に見せるものではないのだ。だから《宮本武蔵の鯨退治》や《鬼若丸の鯉退治》など大判三枚続の大画面があるとホッとする。バケモノの絵にホッとするというのも妙なものだが。
2012/02/01(水)(村田真)