artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
東京五美術大学連合卒業・修了制作展
会期:2012/02/23~2012/03/04
国立新美術館[東京都]
近年、美大ごとの特色が失われ、均質化しつつあるように感じていたが、今年はわりとはっきりと違いが表われたように思う。とくに武蔵美と多摩美。この2校はいつになく優秀作が多く、平均点も高く感じられたが、それぞれ見てる方向が違うような気がする。武蔵美は絵画も彫刻も正面からマジメに追求しているという印象だ。たとえば、4脚の椅子を積み上げたアトリエ風景を描いた大高友太郎の絵は、ただそれだけといえばそれだけなのだが、自分の置かれた場所から絵画を立ち上げようとする姿勢が感じられたし、布をかけた鏡を木彫にし、鏡像をレリーフ状に彫った茂木美里は、あえて非彫刻的なモチーフに挑んでいるように思えた。対照的に多摩美はサブカル系が多く、マンガチックな表現やセンセーショナルな作品が目につく。床にギザギザの穴が開いてるように錯覚する絵を置いた吉野ももの作品は、単にトリックアートというだけではすまされない強さを感じさせるし、粗い麻に内臓的モチーフを描いた松本奈央子や、李禹煥の失敗作のような宮原明日香の絵はそれだけで目を引く。女子美はなぜか動物ネタが多く、ぬるいメルヘンチックな空気に包まれている。造形はいちばんアンチフォーマルなインスタレーションが多い反面、井上琴文や小川晴輝ら注目すべき抽象絵画もあった。日芸は相変わらず団体展の予備校といった印象しかない。全体的に既視感が漂っていたのは、「ワンダーシード」に出してる学生が多いせいかも。
2012/02/27(月)(村田真)
鮫島ゆい展「Tangent point 0」
会期:2012/02/22~2012/03/11
ニュートロン東京[東京都]
青い空に黒い輪郭くっきりの白い雲が浮かんだようなフラットな絵と、絵具コテコテのペインタリーな抽象画の2パターン。大きなキャンヴァスにはこのふたつが同居していて、これはいいかも。ウェブサイトをのぞいたら京都出身で今年24歳という若さ。なんでこんな絵が描けちゃうんだろうってくらいイイ絵を描いてます。今後注目株。
2012/02/25(土)(村田真)
塩賀史子展「光の名残──明滅の庭」
会期:2012/02/22~2012/03/11
ニュートロン東京[東京都]
ウィンドーに藤の花の絵が飾ってあって、一瞬、松井冬子の《世界中の子と友達になれる》かと思った。もっとも松井の絵には藤の花の代わりにハチがびっしり描かれていたが。1階は池の蓮や森林など、2階は椿などの花の絵を展示。写実的だが細密ではなく、ペインタリーなタッチも残している。とくに森林風景は独特の世界観が表われていて薄気味悪いほど。人物を描かせたらどんなんだろう、ちょっと見てみたい気がする。
2012/02/25(土)(村田真)
志村信裕「恵比寿幻灯祭 Dress」
会期:2012/02/10~2012/03/11
TRAUMARIS SPACE[東京都]
キラキラ光るリボンをのれんのように吊るし、そこにキラキラまぶしい映像を当てるとキラキラキラキラするインスタレーションがメインだが、それよりテーブルの隅に置かれた酒瓶に10センチくらいの小さなえびすさまの映像を映し出す作品がカワイくて、ついついお酒を飲みながら聞いてみたら、わざわざこのためにえびすさまにぴったりのモデルを探し出し、トラウマリスのオーナーが成人式に着た振り袖を引っぱり出して前後逆に着せ、大きなキンメダイ(マダイより赤くて映える)を買ってきて持たせるなどけっこう手が込んでいるのだが、しかしなぜえびすさまなのかと根源的な問いにぶつかってしまい、ここは恵比寿でいまは恵比寿映像祭の真っただなかであることに気づくのだった。
2012/02/24(金)(村田真)
戸島麻貴展──メタ・モルフォス
会期:2012/02/10~2012/02/26
MEM[東京都]
ボックス状の額縁のなかに、いや額縁状のボックスのなかにというべきか、蝶の絵が入ってる……と思ったら動いている。もちろん生きた蝶が入ってるわけではなく、CGによる合成画像だ。紫がかったメタリックブルーの羽はいわゆるモルフォ蝶ってやつだ。大きなボックスのなかでは10匹以上の蝶が標本箱よろしく整然と並んでいるが、やがて羽ばたき、雲散霧消していく。タイトルの「メタ・モルフォス」は、このモルフォ蝶とメタモルフォーゼ(変身・変態)をダブらせたもの。美しいし、よくできているけど、それだけになにかが足りない。
2012/02/24(金)(村田真)