artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ユベール・ロベール「時間の庭」

会期:2012/03/06~2012/05/20

国立西洋美術館[東京都]

これは残念ながら期待はずれだったなあ。期待が大きすぎたかも。ユベール・ロベールは廃墟画で知られる画家で、フランス革命前後の動乱期にルーヴル宮の美術館管理官も務めた人。彼自身ルーヴル宮に住み、アトリエも構えていたため内部を熟知していたのだろう、美術館の改修計画図を何枚も描き、あろうことかその廃墟図まで残している。開館したばかりの美術館を廃墟にするか? この自虐(自ギャグ)精神は見習いたいものだ。近年の磯崎新や元田久治らによる建築の廃墟図も、元をたどればロベールに行きつくだろう。ところが、そのルーヴルを描いた絵が1枚もない。のみならず、ルーヴル美術館からの出品自体ない(寄託作品は1点ある)。そもそも出品作品の多くはフランス南東部のヴァランス美術館(閉館中)から来ており、しかもその大半は素描なのだ。油彩は西洋美術館や静岡県立美術館など国内から集めたもののほうが多い(蛇足だが、東京富士美術館の《スフィンクス橋の眺め》は見るからにヘタ)。よっぽどのロベール愛好家でない限り入場料1,300円は高い。

2012/03/23(金)(村田真)

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青木野枝「ふりそそぐものたち」

会期:2012/03/01~2012/04/01

ギャラリー21yo-j[東京都]

天井が斜めってるギャラリー空間をいっぱいに使った彫刻インスタレーション。鉄板を細長く溶断したものを束ねてラッパ状の形態をつくり、それを12本林立させている。見上げると12個の鉄の輪が浮かんだようなかたち。各“ラッパ”は下方が細くて床との接点が小さいため不安定に見えるが、鉄の輪は3面の壁との接点で溶接され、また各ラッパも接点で固定されているという。これは力作。いつも思うのは、毎回すごい労力をかけて制作、運搬、設置しているけど、特定の空間に合わせてつくったインスタレーションだから売れにくいし、使いまわしもしにくいし、かさばるから倉庫代も大変だろうに、それでもつくり続ける強靭な意志はどこから来るんだろうということ。

2012/03/18(日)(村田真)

第31回損保ジャパン美術財団選抜奨励展 Final

会期:2012/03/03~2012/04/01

損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]

損保ジャパン美術財団による新進作家の支援を目的とする展覧会。二科会や国画会など既成の公募美術団体から1人ずつ選んだ計53人(絵画35人、立体18人)に加え、美術ジャーナリストや学芸員らの推薦による27人の絵画も合わせて80点を展示している。いわば団体系とインディペンデント系の呉越同舟だ。ポップでマンガチックなペインティングを何枚か組み合わせた高木真木人(野田裕示推薦)、ブルーグレーを基調にした表現主義的な抽象ながら軽やかさも感じさせる室井公美子(近藤昌美推薦)、油彩の特性を生かしつつ一見イラスト風の明快なイメージを定着させた小野さおり(名古屋覚推薦)らの作品が目に止まった。ちなみに小野は損保ジャパン美術賞、室井は秀作賞を受賞。もちろん3人ともインディー系で、団体系の作家は(立体を除き)ひとりも受賞していない。はっきりいってインディー系と団体系のレベルの差は歴然としている。展示は両者を明確に分けていないが、違いは一目瞭然なのだ(両者は額縁の有無でも見分けられる)。そもそもこの奨励展、77年から美術団体に財団奨励賞を授与し始め、81年から受賞作家を集めて開かれてきたもので、推薦制のインディーが加わったのは01年からのこと。おそらく80年代あたりから美術団体が大きく後退したため、インディー系に触手を伸ばす必要が出てきたのだろう。今回タイトルに「Final」とあるのは、現在のようなシステムはこれで終わりにし、13年から新たな公募展「損保ジャパン美術賞展」を始めるからだそうだ。おそらく団体系とインディー系の二重基準を解消するためだろう。

2012/03/16(金)(村田真)

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第15回岡本太郎現代芸術賞展

会期:2012/02/04~2012/04/08

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

応募作品の表現形式は自由、サイズも5メートル立方に収まればいいので、ほぼなんでもありってことだ。ベラボーな作品を好んだ岡本太郎らしい公募展だ。そんなわけで今年もベラボーな作品が集まった。まずは高さ5メートルを超す(早くも規格外)関口光太郎の《感性ネジ》。ネジのように螺旋を描く塔で、周囲にマリリン・モンローやらトカゲやら楽器やらが付着し、表面は新聞紙に覆われその上にガムテープを巻いていて表現主義的だ。これは岡本太郎賞。メガネの《エナジー・オブ・ダンス》は、床に家電製品が置かれ、中央にポールが立ってるインスタレーションだが、かたわらのモニターに目をやると、作者がポールダンスを踊ることによって発電し、家電製品を動かすというパフォーマンスをやってる。原発事故以来のエネルギー問題をポールダンスで解決しようというトンデモアートだが、パフォーマンスをやってないときはたんなるショボいインスタレーションだ。特別賞。あとおもしろかったのは、太田祐司の《ジャクソン・ポロックの新作をつくる》。横長のキャンバスに絵具をまき散らした絵画で、これだけではおもしろくもなんともないが、これもかたわらのモニターで、作者ではなくイタコのおばちゃんがポロックに憑依され、ポーリング(絵具を垂らす技法)する様子が映し出されている。このおばちゃん、きっとポロックのビデオを何度も見て練習したんだろう、なかなか堂に入った筆さばきで笑えるのだ。島本了多と山本貴大による《大学美術展覧会》も笑えた。美大のゴミ捨て場から拾ってきた数十点もの「作品」を展示しているのだ。大半はクズだが、なかにはちょっと気になる「作品」も。捨てた人が見たらどう思うだろうな。最後に、ベラボーではないけど、加納俊輔の《レイヤー・オブ・マイ・レイバー》。詳述する余裕はないが、一見ありがちなインスタレーションなのに、よく見ると「あれあれ?」って仕掛けが。こういうの好きだ。

2012/03/16(金)(村田真)

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山口晃「望郷──TOKIORE(I)MIX」

会期:2012/02/11~2012/05/13

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

分厚いガラス窓に囲まれた天井の高いフォーラムに、絵画の展示には不向きなこの空間に、絵師山口晃はどのように対処するか、そこが楽しみだった。しかしまさかこんな「解」を出してくるとは思わなかった。黒々とした電信柱を5、6本立てたのだ。その電信柱には山口の絵に出てくるようなゴチャゴチャとしたものが付随していて、そのうちの1本の下には便器までついている。この電信柱のシルエットはなつかしく、「三丁目の夕日」のような昭和の香りがする。その向かいの、いつもは壁に閉ざされた空間は床に少し斜めに角度がつけられ、そこにドローイングを展示。また、もう一方の部屋では、立て看のようなパネルに大きな東京の図を制作中だ。英語のタイトルは「TOKIOREMIX」で、Eの上にIが重ねられ、「東京リミックス」とも「ときおりミックス」とも読める。遊び心に満ちた展覧会。

2012/03/12(月)(村田真)

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