artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

エマージング・ディレクターズ・アートフェア「ウルトラ004」

会期:2011/10/28~2011/11/03

スパイラルガーデン[東京都]

不況にも負けず、震災にも原発事故にもめげずに今日もアートフェアが開かれる。先月は東美アートフェアがあったし、このあとプリュス・ジ・アートフェアもひかえている。はたして売れるんだろうかと心配になるが、続いてるってことはそれなりに需要があるんだろう。そんなアートフェアのなかでも、この「ウルトラ」は画廊単位の出展ではなく、画廊の若手ディレクター(40歳以下)が個人で作家を選ぶ珍しい形式。だが悲しいことに、ぼくはほとんどのディレクターを存じ上げないし、ディレクターとほぼ同世代かそれ以下の出展作家も知らない人が多い。世代間のギャップは埋めがたいなあ。おそらく購買者も年配層より彼らに近い若い人たちが多いのだろう。作品も具象イメージの小品や工芸的作品が大半を占め、刺激的大作や破天荒な問題作は皆無に近い。若いのに、というより若いから、なのか。そもそもアートフェアにそんな問題作を期待するほうが間違っているのだが。

2011/11/03(木)(村田真)

試写「ブリューゲルの動く絵」

会期:2011/11/01

六本木シネマート[東京都]

ブリューゲルの絵画《十字架を担うキリスト》に想を得た映画。1枚の絵から物語を紡ぎ出す手法は、フェルメールの名画をもとにした『真珠の耳飾りの少女』をはじめしばしば見られるが、これは絵に触発されたというより、画面のなかに入り込み、絵をそのまま動かしたような映画だ。そもそも《十字架を担うキリスト》という絵そのものが、さまざまなドラマを同時多発的に描き込んだ迷宮のような絵物語になっていて、見ていて飽きることがない。ゆるやかな丘陵を舞台に数百もの人物がこまごまと描かれ、それぞれ馬に乗ったりケンカしたり遊んだりしている。この絵はいったいなにを描いたんだろう?と考えてしまうが、題名を見ると宗教画。しかし肝腎のキリストが見当たらない。目を凝らしてよーく探すと、ようやく画面中央に小さく描かれているのが見つかる。最初これを見たとき、もっとも伝えたい主題をあえて隠すように描くこんな描き方もあるのかと感心しましたね。ブリューゲルの生きた16世紀ネーデルラントは、宗教改革を進める隠れプロテスタントとそれを弾圧するカトリックの支配者が争っていた時代。だから、どうやらプロテスタントに共感していたらしいブリューゲルは、わざと主題を隠したり、キリストの受難をプロテスタント迫害に重ねたり、多様な解釈が可能なアレゴリーを用いたりした。それゆえに彼の絵にはナゾが多く、またそれが彼の絵の魅力にもなっているのだ。だから彼の絵は極端にいえば、そのまま動かすだけで1本の映画やドラマになってしまうのだ。この映画はそんな映画だといえる。まあブリューゲルの絵やキリスト教の歴史に興味ない人には退屈な映画だろう。

2011/11/01(火)(村田真)

表現するファノン──サブカルチャーの表象たち

会期:2011/10/29~2011/11/23

札幌芸術の森美術館[北海道]

ぼくも出させてもらっている展覧会。これは3年後に予定されている札幌ビエンナーレのプレ企画という位置づけで、プレ企画全体が「アートから出て、アートに出よ。」をテーマにしているらしい。つまりアートのど真ん中を行くのではなく、アートの周縁を行ったり来たり出たり入ったりするサブカルチャーを軸にしようということのようだ。なぜそうなのかといえば、初音ミクが札幌出身だからというのがひとつの理由だといわれている。「らしい」とか「ようだ」とか「いわれている」とか曖昧な書き方しかできないのは、すべて受け売りだからです。もうひとつ受け売りすると、タイトルの「ファノン」とはファン+カノン(基準・規範)の造語で、「ファンやユーザーによって生成されるコンテンツやその活動」を指すらしい。知ってた? そんなわけで展覧会も、レトロかつ未来的に改造したカスタムバイクが何台も並んでいたり、台上に立つと周囲のスピーカーから拍手喝采が鳴り響いたり、展示室にメイドカフェを設けたり、サブカル的オタク的コンテンツがいっぱい。で、なんでぼくの作品が出ているのかというと、画集をそのまま描いたぼくの絵が「2次創作」に当たるからだそうだ。なるほどそういう見方もあったのか。まあ出していただけるなら理由はなんでもいいけどね。

2011/10/29(土)(村田真)

ギヨム・ボタジ展「HOPE 2011」

会期:2011/09/16~2011/11/13

札幌宮の森美術館[北海道]

ある人からぜひ行くように勧められていたのだが、地図で探しても美術館が見つからず、住所を頼りにたどり着いてみれば、白亜の建物の前にシルクハットのドアボーイが待ちかまえていた。なんと結婚式場付属美術館だった。その白い外壁には色鮮やかな有機的形態が描かれていて、公開制作中だそうだ。館内には、細胞組織を拡大したような丸っこい形態をモチーフにした抽象画が展示されている。20世紀のモダンアートといった風情で、とくに新しさは感じられないが、洗練された色彩と形態はさすがフランス人なセンスであった。

2011/10/29(土)(村田真)

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モエレ沼公園

モエレ沼公園[北海道]

前回来たとき(真冬)まだ造成中だったモエレ沼に行こうとして吹雪に遭い、危うく遭難しかけた苦い経験がある。そのリベンジに燃える今回は早起きして地下鉄とバスを乗り継ぎ、朝8時半に到着。ちょっと早すぎたみたいで、レンタサイクルも開いておらず、しばらく待つハメに。いざ自転車に乗って出発したが、ほとんど無人でさびしいよお。ぐるっと一周し、モエレ山に登り、遊具を楽しみ、ガラスのピラミッドを堪能する。これは子どもと来たら1日遊べるなあ。ちょっと気になったのは、完成からまだ10年もたってないのにコンクリートの道や階段にひび割れが目立ち、遊具のカラフルな塗装がはがれかけていること。かつてゴミ処理場で、その前は名前のとおり沼地だったはずだから地盤がゆるいのではないかしら。入場無料だからメインテナンスもままならないのかも。よけいなお世話だが。

2011/10/29(土)(村田真)