artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
会田誠「美術であろうとなかろうと」
会期:2011/11/05~2011/12/25
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
これまで有望なアーティストを支援する「エマージング」シリーズを続けてきたTWSが、今度は巨匠にスポットを当てた「エマージング/マスター」シリーズを開始。その第一弾が、来年東京都現代美術館で個展を予定している会田誠だ。1階はテントを中心に雑然としたインスタレーション、つーか、ただガラクタを持ち込んで散りばめただけともいえるが。2階はダンボール紙でゴシック聖堂の装飾のようなものをつくる「カードボードギルド」と、劇団死期の部屋。そして3階は高田冬彦と林千歩による映像インスタレーションで、ハリボテと着ぐるみを多用したパフォーマンス映像だ。ワークショップやコラボレーションが多く、会田の超絶テクによる諧謔に満ちた作品を期待するとハズレだ。それは来年の都現美のお楽しみということで、今回はその予告編というか、テンポラリーな移動スタジオというか。
2011/11/08(火)(村田真)
隅田川新名所物語
会期:2011/11/07~2011/11/13
隅田公園リバーサイドギャラリー[東京都]
隅田のリバーサイドギャラリーというから、てっきりウンコビルの隣のすみだリバーサイドホールギャラリーのことだと思ったら大間違いで、浅草側の土手の地下にある細長いスペースだった。ここってふだんなにに使ってるんだろ? 不思議な空間。ここに芸大の教官や学生39人が、台東・隅田界隈にインスピレーションを得た作品を出している。最初は比較的穏やかな平面作品が続き、次第に明治期の浅草の見せ物を描いた齋藤芽生みたいなアヤシゲな作品が増え、最後は映像や光による刺激的なインスタレーションで終わる趣向。とくに最後のほうの高田冬彦と大庭三奈によるピストン運動の映像は、ドテの下をぶち抜いた細長い穴であるこのギャラリーをヴァギナに見立てた作品か。だとすれば、高田におけるペニスは雷門の巨大提灯で、大庭のそれはスカイツリーだ。そしてドンづまりの田中健吾による光の点滅はエクスタシーを表わしていたりして。見てない人にはわからないね。
2011/11/08(火)(村田真)
油絵茶屋再現
会期:2011/10/15~2011/11/15
浅草寺境内[東京都]
日本の近代の黎明期にはいろいろな試行錯誤や勘違いが横行した。五姓田芳柳が浅草で始めた油絵茶屋もそのひとつ。当時まだ珍しかった油絵を、木戸銭をとって見せるという一種の見世物小屋だ。まだ画廊も美術館もなかった時代、自分たちの描いた油絵を見てもらい、普及させたいという目的もあっただろうけど、なにより売れない油絵をどうにかカネにしていかねばならないというせっぱつまった事情もあったに違いない。その油絵茶屋を同じ浅草の地に再現したのが小沢剛を中心とするメンバーだ。再現するといっても写真も資料も残っていないので、当時の引札(チラシみたいなもの)などを参考に、小屋の建設だけでなく、小池真奈美ら芸大系の若手画家たちが描いた油絵による役者絵も展示。ほんとにこんなんだったのかなあ、なんか違う気もするけど、でもこんな感じだったのかもしれない。それにしても、当時おそらく先端メディアだった油絵が、いまではほとんど最古のメディアになってしまったわけで、その先頭ランナーとビリケツをつなげたときにはたしてなにが見えてくるかを探る試みともいえるだろう。
2011/11/08(火)(村田真)
チョイ・カファイ「ノーション:ダンス・フィクション」
会期:2011/11/07~2011/11/08
シアターグリーン[東京都]
筋肉組織に電気信号を与えると伸縮することは以前から知られていたが、その筋肉の動きをデータ化し、ニジンスキーやピナ・バウシュら過去のダンス映像に合わせてダンサーの動きをコントロールしようという試み。実際、腕や脚にコードをつけたダンサーは、横に映される巨匠のダンス映像と同じ動きをしてみせる。ダンス公演というより、実験の成果を発表する生体科学のデモンストレーションに近い。だが、はたしてどこまでが電気刺激による動きなのか、疑問が残る。途中でコンピュータがトラブり、同じ動きを繰り返したところもわざとらしい。笑いをとるためのヤラセか? ひょっとしたら初めから電気など流れておらず、まったくのフィクションかもしれない(タイトルも「ダンス・フィクション」だし)。おそらく電気が流れているのは事実だろう。だが、コードをつなげば素人でも土方巽と同じ動きができるわけではなく、何度も練習したダンサーだからこそ映像と同じ動きができたのだ。ならば電気を流さずとも練習すれば同じ動きができるはずだし、そもそも過去のダンサーと同じ動きをしても単なる模倣にすぎないだろう。これはそれを先端科学技術を駆使してあえてやってしまうバカバカしさに最大の意義があるだろうし、その愚行自体がダンスなのだ。
2011/11/07(月)(村田真)
「マウリッツハイス美術館展」記者発表会
会期:2011/11/07
時事通信ホール[東京都]
現在改修工事中の上野の東京都美術館が、来年6月にリニューアルオープンする。その特別展第一弾が「マウリッツハイス美術館展」だ。マウリッツハイスといえば「絵画の黄金時代」と呼ばれる17世紀オランダ美術の宝庫。なかでも人気が高いのがフェルメール作品で、3点所蔵するうち《真珠の耳飾りの少女》と《ディアナとニンフたち》の2点がやって来る。とくに《真珠の耳飾り…》が貸し出されるのは「きわめてまれなこと」、とマウリッツハイス館長がネット中継で強調していたけど、数えてみたら日本に来るのは3度目で、どこが「まれ」なんだ? もうひとつの《ディアナ…》にいたっては来日4度目、もう常連ではないか。それにひきかえ、残る1点の《デルフト眺望》はまだ一度も来ていない。《真珠の耳飾り…》の人気が高いのはわかるけど、専門家筋では《デルフト…》のほうが評価は高い。そろそろ《デルフト…》を連れてきてはどうなんだ? あるいは《デルフト…》のほうが価値が高いから貸せないとか? ともあれ、いまさら《真珠の耳飾り…》じゃねーだろ感は否めない。そんなビミョーな空気を察知したのか、フィリップ・ドゥ・ヘーア駐日オランダ全権大使はあいさつのなかで、「もし1点もらえるなら、《真珠の耳飾り…》もいいが、私はフランス・ハルスの《笑う少年》を選ぶ」と述べた。さすが「閣下」、目玉のフェルメールでもナンバー2のレンブラントでもなくハルスを選ぶとは! いったいこの反骨と諧謔の精神を、会場にいた何人が理解しただろう。
2011/11/07(月)(村田真)