artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
畠山直哉 展「ナチュラル・ストーリーズ」
会期:2011/10/01~2011/12/04
東京都写真美術館[東京都]
最初に見た畠山の写真は俯瞰した都市の風景写真だった。それから石灰工場や石灰岩の発掘現場、発破の瞬間、コンクリートに囲まれた渋谷川や地下水路、廃墟と解体現場などいろんなものを撮るなあと思ったが、それらがすべてセメントでつながっていることを知ったときは少し驚いた。まるで連想ゲームのような、こういうモチベーションの持続方法もあるのかと。今回はこれらに加え、石灰石の採掘現場を十数枚の紙に部分的に描いてつなげたパノラマ絵画や、発破の瞬間をとらえた連続写真の連続映写(つまり写真以上、映画以下のぎこちなく動く画像)、そして彼の故郷である陸前高田の震災後の風景まで発表している。こんなにブレない(というか正確にブレるというべきか)写真家も珍しい。
2011/11/22(火)(村田真)
中村キース・ヘリング美術館
小淵沢のキース・ヘリング美術館で、アメリカのコレクターを描いた映画『ハーブ&ドロシー』の上映会があり、アフタートークの座談会に呼ばれた。この美術館、医薬関係の実業家、中村和男氏が集めたキース・ヘリングの作品を公開するため八ヶ岳山麓の小淵沢にオープン。設計は北河原温で、垂直・水平線を排した展示室といい、赤、白、黒だけの外観といい凝りに凝っている。美術館建築はシンプル・イズ・ザ・ベストだが、リゾート地では建築そのものも客寄せの目玉になるため、必ずしもシンプルがベストとは限らないようだ。観客はまず長い通路を下って暗い展示室に入り、黒い壁面から浮かび上がるキースの絵と対面。ゆるやかなスロープを上ると、白く塗られた明るい展示室に出る。地下鉄の落書きからアートシーンに浮上し、親しみやすいキャラクターで人々を楽しませながらエイズでなくなったキース・ヘリングの短い人生を、闇と光で表現しているのだという。近隣にはプライベートスパやレストラン、温泉宿、アトリエもあって快適。美術館だけなら1回見れば十分だが、これだけそろっていればまた来てみたくなる。
2011/11/19(土)(村田真)
東京ミッドタウンアワード2011
会期:2011/10/28~2011/11/27
プラザB1Fメトロアベニュー展示スペース[東京都]
毎年ミッドタウン地下通路でやってるアートとデザインの2部門のコンペ。両部門合わせて1,470件の応募があり、13点の受賞作品を展示しているから、倍率は100倍以上だ。まず「都市」をテーマにしたアート部門では、チラシ広告によくある部屋の間取り図を切り抜いてつなぎ合わせ、鏡を使って増殖させた山本聖子の作品がグランプリを受賞。ほかに、アクリルミラーがもごもご歪む木村恒介や、明かりを灯したビルの模型を球状にまとめた栗真由美らの作品などがある。いずれもこぎれいにまとめていてコンペにはふさわしいかもしれないが、もっとアートならではのダイナミズムがほしかったなあ。デザインのほうのテーマは、ミッドタウン開館5周年にちなんで「5」。親指のついた5本指(?)のフォークはちょっとキモイが、道具が人間身体の延長であることを如実に示している。「ゴメンバコ」と「ごめんたい」はいずれも5面体の容器で、謝るときの贈り物として考えられたものだが、ダジャレが発想の原点だ。その他、ダイヤモンド型の角砂糖や、5文字だけの原稿用紙などウィットに富んだ作品ばかり。
2011/11/16(水)(村田真)
南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎
会期:2011/10/26~2011/12/04
サントリー美術館[東京都]
《泰西王侯騎馬図屏風》は桃山から江戸初期のあいだに制作された初期洋風画の代表作で、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世やフランス王アンリ4世をはじめ、ペルシャ王、モスクワ大公、トルコ王ら計8人が乗馬姿で描かれたゴージャスな屏風絵。残念ながら現在ではサントリー美術館と神戸市立博物館に分蔵されているが、今年それぞれ開館50周年と30周年を迎え夢の顔合わせとなった。もちろんいくら傑作とはいえ、これだけで会場を埋めるわけにはいかないので、狩野派による南蛮屏風や、輸出品としてつくられた蒔絵螺鈿の漆器、東西の描画技法が混在した西洋風俗図、そしてキリシタン弾圧を描いた殉教図や踏絵まで集めている。見ていくと、西洋=キリスト教によって目を開かされたのもつかのま、禁教令によって一気に闇夜に逆戻りしていった歴史が浮き彫りになり、まさにタイトルどおり「光と影」。肝腎の《泰西王侯騎馬図屏風》は予想以上の迫力で、西洋の動きや陰影表現が日本の素材とスタイルに融合し、唯一無二の絵画を創出している。その部分拡大写真がまた圧巻。髪の毛の艶、細やかな装飾、胡粉の盛り上がりまで余すところなく伝えてくれる。
2011/11/16(水)(村田真)
「アーヴィング・ペンと三宅一生」展
会期:2011/09/16~2011/04/08
21_21デザインサイト[東京都]
今日はミッドタウン3連発。まずは21_21へ。写真家アーヴィング・ペンとデザイナー三宅一生とはなんと異色の組み合わせ、と思いきや、ペンは一生のコレクションポスターを飾るため、1987年から13年間にわたり250点を超える服を撮ってきたのだ。そのポスターを一堂に会するほか、大型プロジェクターで写真を投影。また、一生がデザインした服をニューヨークのペンのスタジオに送り、そこで撮影した写真をもとに東京でポスターがデザインされるまのでプロセスを描いたアニメも上映している。その撮影現場に一生はいちども立ち会ったことがないという。イッセイミヤケのイメージを決定づけたシンプルなのにインパクトの強いポスター群は、彼のファッションデザインを独自に解釈した写真家ペンと、さらにその写真を素材にしたデザイナー田中一光という3者の個性が奇跡的にかみ合って生み出されたものであることがわかる。
2011/11/16(水)(村田真)