artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

ライアン・ガンダー展「墜ちるイカロス──失われた展覧会」

会期:2011/11/03~2012/01/29

メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

会場に入ってすぐ目につくのは床に散らばった数十枚の紙。そこには1枚にひとりずつ似顔絵が描かれており、杉本博司、須田悦弘、西野達らが識別できた。いずれもメゾンエルメスで展覧会を開いたアーティストだが、なぜか実際よりも老けて描かれている。法廷画家に頼んで約30年後の肖像を描いてもらったそうだ。その向こうには、セーヌ河畔でよく見かける古本屋の屋台のような深緑色のボックスがひっくり返り、壁には書籍リストが掲げられている。リストはやはりここで展覧会を開いたアーティストたちが選んだ本の題名で、ボックスのなかにはそれらの本が入っているという。解説を読むと、このフォーラムの開設10周年を記念して、ここで開かれた展覧会を主題にした作品を出しているらしい。いわば「メタ展覧会」。ここに足しげく通った人なら楽しめるかもしれないが、この展示だけ見ても「なんだこりゃあ」だろう。もうひとつの部屋には、ドガ風の踊り子が絵を見てる彫刻とか、イケアの家具を縦に並べたジャッド風ミニマルアートなどもあって、展覧会や美術史そのものにも言及している。ペダンチックな臭みがあるけど、けっこうこういうの好き。

2011/11/07(月)(村田真)

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阿部道子 展

会期:2011/10/07~2011/10/09

吉田町画廊[神奈川県]

4、5年前の学生時代の作品から最新作まで、日本画を大小10点ほど展示。なんの変哲もない身近な風景をていねいに描いていて、とくに最近は肌触りにこだわっているように見える。たとえば100号大の最新作には木と人(作者自身)が描かれているのだが、これが単なる木と人ではなく、地面に映った木と人の影。いいかえれば、そこには木も人も描かれておらず、ただ土と小石と雑草が描かれているだけなのだ。じつは阿部さんはぼくも間借りしている共同スタジオの隣人なので、この絵は描き初めから見ていた。最初は木に寄り添う自画像なんて陳腐な絵だなあと思っていたが、ずいぶん描き進んだとき、それが影だとわかって目からウロコが落ちた。なんか視線をひっくり返された感じ。ほかにも最近は水の波紋や壁の凸凹した感触など、描きにくいテクスチャーばかり描いている。

2011/11/06(日)(村田真)

やなぎみわ演劇プロジェクト第二部「1924 海戦」

会期:2011/11/03~2011/11/06

神奈川芸術劇場大スタジオ[神奈川県]

アートかと思ったらちゃんとした演劇だった。いや、そのうえアートにもなっていたから恐れ入る。いうまでもなく最初の「アート」はワケのわからないパフォーマンスを意味し、後の「アート」は感動を呼ぶ芸術を指す。つまり、とてもおもしろかったのだ。話は、関東大震災後に設立された築地小劇場をめぐるもの。大きな災害を前にして前衛芸術など必要とされるのか? この問いがテーマだとすれば、もちろんそれは3.11後の現代アートにもはね返ってくる。というより、3.11後のアーティストの苦悩が築地小劇場を召還したというべきか。やなぎは原案・演出・舞台美術を担ったというが、彼女の初期作品に登場する赤い制服のエレベーターガールを除けば、劇中やなぎらしい要素がほとんど登場しなかったのは意外。それより、演劇と美術、大正と現代、前衛と大衆の接点が提案され、まことに刺激的な舞台になっていた。

2011/11/06(日)(村田真)

『カオス*イグザイル』(カオス*ラウンジ)

会期:2011/10/22~2011/11/06

アキバナビスペースほか[東京都]

なぜか演劇祭の「フェスティバル/トーキョー」にカオス*ラウンジが入ってるので、秋葉原の第一会場に行く。いったいなにをやるんだろうと思ったら、そこはゲームセンター。クレーンゲームで玉を獲れば500円の入場料がタダになるというので、息子が2個ゲット、ぼくは1個、息子の母は0個。玉を会員証と交換して、歩いて5分ほどの第2会場へ。なんの変哲もない小さな場末のビルだが、壁に少女マンガチックなドローイングが展示してあるので間違いない。エレベータが使えないので階段で4階へ。途中3階には「あきば女子寮」なる部屋があり、のぞくと女の子がいるので思わず入りたくなるが、そこは会場ではないらしい。4階は左右の壁全面に鏡が張られ、正面、天井、床に少女マンガをモチーフにしたドロドロ状のドローイングが描かれている。5階には透明のテント内にパソコンやディスク、ペットボトルなどが散乱し、隣の部屋には映像が流れている。ビルの風情も手伝っておそろしく暗い内向的インスタレーションだ。帰りに階段で降りるときに気がついた。壁に貼ってあるマンガチックなドローイングはカオス*ラウンジの作品ではなく、あきば女子寮のものであることを。そして、ビルのなかにカオス*ラウンジのインスタレーションがあるのではなく、女子寮もドローイングも含めて、このビル全体がカオス*ラウンジのインスタレーションに採り込まれていたことを。まあおじさんとしては秋葉原という劇場都市の舞台裏をかいま見られただけでもワクワクしたわけで。

2011/11/05(土)(村田真)

正木美也子「五つの黒煙、三つの竜巻」

会期:2011/10/28~2011/11/20

アイランド・メディウム[東京都]

2階のアイランドへ。点描画が何点も並んでいる。もちろん点描画など珍しくもないので、ここではなにが描かれているかが重要だ。まるで色盲検査みたいな色の点々を見ていると、なにか不穏なイメージが浮かび上がってくる。ここ2年ほどのあいだに世界各地で起こった事件や事故の報道写真をもとに描いているらしい。煙が上がっているのはアフガニスタン、リビア、韓国など。点描であるのはおそらく、テレビの走査線であれ印刷の網点であれ、これらがメディアを通したイメージであることを強調するための手法だろう。でもスーラみたいに根をつめすぎて早死にしないように。

2011/11/05(土)(村田真)