artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

project N 44 吉田夏奈

会期:2011/01/15~2011/03/27

東京オペラシティアートギャラリー4F コリドール[東京都]

40メートルくらいありそうな壁面にA1程度のパネル100枚以上をつなぎ、クレヨンなどで山岳風景を描いている。北アルプスの山々が基本だが、ヨセミテのハーフドームみたいな景観も混じっていて、どうやら世界中の山々をつなぎ合わせたものらしい。色はところどころにしか塗られておらず、大半は輪郭のみなので未完成なのかもしれないが、これはこれで微視的な岩々の連なりが大きな山全体を構成しているダイナミズムが感じられて悪くない。ちなみに、吉田が絵画制作に打ち込むきっかけとなったのは曽根裕による秋吉台でのワークショップだったというから、曽根展の階上で行なわれる今回の個展は恩返しになるか。

2011/02/11(金)(村田真)

曽根裕 展──Perfect Moment

会期:2011/01/15~2011/03/27

東京オペラシティアートギャラリー ギャラリー1&2[東京都]

L字型のギャラリーを大きく2つに分けて展示している。ひとつは大理石彫刻を中心とする新作インスタレーション、もうひとつは90年代の映像だ。大理石彫刻は、マンハッタン島や観覧車などおよそ彫刻にならないものばかりをモチーフに選んでいる。マンハッタン島はビルの凸凹や通りの溝まで克明に彫られているのだが、それがあたかも山のてっぺんにあるかのように急峻な崖に囲まれて屹立しているのだ。つまり台座の上のマンハッタン。観覧車は複雑に組まれた鉄骨をどのように大理石で彫るかが問題だが、梁の1本1本まで彫るのは不可能なので、浮き彫り状に処理していた。いちばん感心したのは「木のあいだの光」シリーズで、雪山の木々のあいだから射す光を放射状やプリズム形に彫刻しているのだ。光はふつう彫らないでしょ。そんな大理石彫刻を観葉植物のあいだから見え隠れするように並べている。すでにメゾンエルメスでのクリスタル彫刻を見ていたので驚きはなかったけど、これはこれで満足のいく作品だった。だが、もう一方のギャラリーでやっていたのは、もう何度も見た《ナイト・バス》と《バースデイ・パーティ》だったので、結局見ごたえがあったのは前半の7点ほどの大理石彫刻だけ。先日見た高嶺展とは逆に「なにこれだけ?」って感じで、ものたりなさの残る展示であった。

2011/02/11(金)(村田真)

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高嶺格:とおくてよくみえない

会期:2011/01/21~2011/03/20

横浜美術館[神奈川県]

最初の展示室で最初に見た作品は、縦長で全面が朱色、上のほうに3つの白い十字形を配した大きめのタブローだった。まずここで頭のなかは「???」。キツネにつままれた状態で歩を進めると、植物パターンの装飾あり、ストライプ模様の抽象あり、フランク・ステラばりのシェイプトキャンヴァスもあって、じわじわと口元がゆるんできた。これは毛布ではないか。毛布をパネルに張ってタブロー化し、それらしきタイトルと作品解説をつけたものなのだ。いやーこれはハメられた、というより、ツボにハマってしまった。別にこの手の作品は珍しいものではないが、ここでは観客が1点1点見ていくうちに徐々に気づいていくよう配置や点数、見るスピードまで計算し、そこで絵画とはなにか、美術館はなにをどのように価値づける場所なのかといったことにまで思いを巡らせるように仕向けている、その手法がじつに巧みなのだ。次の展示室は、2005年の横浜トリエンナーレにも出品された《鹿児島エスペラント》の新ヴァージョン。トリエンナーレのときはゆっくり見る雰囲気ではなかったので、ここでは心ゆくまで堪能。床に土や廃品が置かれ、そこにレリーフ状の文字が並べられ、スポットライトがその文字を追って文章を読み取らせる仕組みだが、これもスポットライトのスピード、音楽のリズム、文章から読みとる意味が見事にシンクロしていた。その後も新作・旧作いくつかあったが、もうこの2部屋で十分満足してしまった。

2011/02/10(木)(村田真)

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女子美術大学芸術学部工芸学科 卒業制作展2011「グラセラミックス!」

会期:2011/01/27~2011/02/01

BankART Studio NYK[神奈川県]

工芸科の陶とガラスコースだけだから、グラスとセラミックがミックスして「グラセラミックス!」。「陶ガラス!」じゃカッコ悪いからな。ところで、ぼくが工芸を好きになれない理由は、素材や技法にばかりこだわって思想がなおざりになりがちだからだ。なぜこの素材を用いるのか、なぜこの技法でなければならないのか、その理由が明確にわかる作品、つまり作品自体がみずからのレゾンデートル(存在理由)を語っているような、そういう作品が少ないように思う。もちろん工芸には「用」があり、それ自体を目的としていないのがひとつの答えだろう。しかし「用」だけですまないから工芸なのであってみれば、やはり自己検証は必要だ。「好きだから」「美しいから」という理由だけでつくられても説得力を持たない。というのが、展覧会全体とこの日行なわれたパブトークの印象。

2011/01/31(月)(村田真)

鬼塚勝也 ART展:RED CORNER「グローブを筆に変えて」

会期:2011/01/22~2011/02/12

FARM the salon for art,Tokyo[東京都]

六本木の芋洗坂を歩いてると、なにか展覧会をやってるのでのぞいてみる。縦長のキャンバスにボクシングのグローブと目がシルクスクリーンで刷られ、さまざまな色が塗られている。要するにウォーホルの絵画技法と同じ。色彩感覚は悪くないが、どこか素人っぽさを残している。作者はだれだろう、鬼塚勝也? 聞いたことあるなあ、まさかあの、元ボクサーの? 帰ってネットで調べてみたら、まさかの鬼塚でした。これは驚き。すべて自分でつくっているのかどうかわからないけど、かつてセコンドを務めた片岡鶴太郎の絵よりはるかにイイ。

2011/01/27(木)(村田真)