artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

生誕100年 岡本太郎展

会期:2011/03/08~2011/05/08

東京国立近代美術館[東京都]

初期から晩年までの絵画(ただしパリ時代の絵画は戦後の再制作)をはじめ、縄文土器の写真、《太陽の塔》のスケッチ、パブリックアートのマケット、椅子やネクタイなどのデザイン、おびただしい量の書籍など、多彩な活動を多角的に紹介している。すでに川崎市に岡本太郎美術館があるので、いまさら総花的な紹介でもないし、かといって絵画や万博に絞った企画ももうやられているし……てなわけで今回は「対決」がキーワード。すなわち「ピカソとの対決」「きれいな芸術との対決」「人類の進歩と調和との対決」といったように、既存の権威や常識に戦いを挑み続けた芸術家像を浮かび上がらせようとしている。たしかに絵画を見ても50年代までの作品はとても新鮮で、戦後の日本絵画のなかでは異彩を放っていることが納得できる。つまり対決姿勢が鮮明だ。しかし、それ以降は自己模倣のマンネリズムに陥ってしまうのも事実。不思議なのは、なぜ岡本太郎ともあろうものがマンネリズムを打ち破れずに、自己模倣を繰り返し続けたのかということだ。最後の展示室ではそうした晩年の似たり寄ったりの絵画を30点以上も集めて壁にびっしり飾っている。どれもこれも目玉が描かれているのでインパクトがあり、これはこれでおもしろいインスタレーションではあるが、それは裏返せばワンパターンだからこその効果ともいえる。これを「岡本太郎との対決」と章立てているところを見ると、つねに前衛であり反権威であることの、いいかえればつねに岡本太郎であり続けることの不可能性を示そうとした学芸員の良識ある悪意のインスタレーションというべきかもしれない。

2011/03/07(月)(村田真)

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倉敷芸術科学大学日本画コース有志卒業制作展2010
和光大学表現学部芸術学科卒業制作展2011
阿佐ヶ谷美術専門学校卒業・修了制作展2011

会期:2011/03/01~2011/03/06

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

同時期にBankARTで行なわれた卒展をまとめて3本。タイトルはそれぞれ「無人島」「0時間」「creative garden」というもので、内容とは関係ないよう。また、倉敷だけ「2010」になってるのはうっかりミス、ではなくて卒業年度に合わせたのだろう。肝 腎の作品だが、阿佐ヶ谷に何点か注目すべき作品があったものの(すいません地震で資料を失い名前が不明)、はっきりいって見るべき作品はとても少ない。な ぜ作品をつくるのか、つくらなくちゃならないのか、たんに卒業制作だからつくりましたというだけなら他人に見せる必要はないだろう。いま作品をつくること (見せること)の意味はなんなのか、もういちど考えてみる必要がある。大震災はムリヤリそのことをわれわれに突きつけてきた。

2011/03/06(日)(村田真)

第5回展覧会企画公募「エラスティック・ビデオ──curated by PLINQUE」「floating view:“郊外”からうまれるアート」「Girlfriends Forever!」

会期:2011/02/26~2011/03/27

トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]

キュレーターの育成・支援をめざした展覧会企画の公募展。といってもキュレーター志望ばかりではなくアーティストからの応募も多く、今回は44企画のうち入選した3企画はすべてアーティスト(キュレーションを行なうアーティストも含め)によるものだった。クラウディア・ラルヒャー企画の「エラスティック・ビデオ──curated by PLINQUE」は、ウィーンを拠点に活動する若いアーティスト集団PLINQUEを中心としたビデオ・インスタレーション展。いろんなビデオ作品があるなあと感心するが、それ以上とくに感想はない。佐々木友輔企画の「floating view:“郊外”からうまれるアート」は、郊外から出発したアーティストや郊外をモチーフにした作品を集めたもので、企画としてはこれがいちばん興味をそそられた。でも作品的にはものたりず、やはり「郊外」を都心のホワイトキューブのなかで紹介するには限界がある。また、松井えり菜+村上華子が共同企画した「ガールフレンズ・フォーエバー」は、「美大には女性が多いのにアーティストとして活躍する女性が少ないのはなぜか」という問いから発した女性アーティストだけの展示。松井、村上ともに1984年生まれのアーティストだが、彼女らと同世代のキャピキャピなアーティストに加え、なぜか辰野登恵子のようなベテランも混じっていて、作家選定がよくわからない。辰野のかわりに草間彌生が入っていればまだわかりやすかったのに(わかりやすすぎるか)。

2011/03/02(木)(村田真)

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仏教伝来の道──平山郁夫と文化財保護

会期:2011/01/18~2011/03/06

東京国立博物館[東京都]

第1部では、インド・パキスタンのマトゥラーやガンダーラから、アフガニスタンのバーミヤン、中国西域、敦煌、西安、そしてカンボジアのアンコールワットまで、平山が取材旅行で歩いた地の仏像や装飾品、壁画の断片などを自作とともに展示。これらの品々はおそらく彼自身が現地で買い集めたのだろう、大半が平山郁夫シルクロード美術館の所蔵になっている。文化財保護を謳いながら日本に持って帰って自分の美術館にコレクションするというのもどうなんだろう。それはおいといて、注目したいのはバーミヤン大石仏が破壊される前と破壊後の姿を描いた2点の対作品。まるで使用前・使用後の比較広告みたいだが、じつは破壊前の姿も2001年3月のタリバーンによる破壊後、春の院展に間に合わせるため急いで描いたものだというから、ジャーナリスティック精神の旺盛な日本画家だったことがうかがえる。第2部では、インドから中国に仏典をもたらした三蔵法師の道行きを描いた全37メートルにおよぶ《大唐西域壁画》を公開。これは平山が奈良・薬師寺のために20年以上を費やしたライフワークともいうべき大作で、お得意の荒涼とした土色のシルクロード風景や、青い空と白い雪の対比も鮮やかなヒラヤマならぬヒマラヤの山岳風景が並ぶ大胆な構成だ。いつも感じていたことだが、今回これを見て確信したのは、平山の絵は大きかろうが小さかろうが絵葉書にしか見えないということ。要するに陳腐なのだ。だから人気があるんだろうけど。

2011/03/02(木)(村田真)

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ヴィジェ・ルブラン展

会期:2011/03/01~2011/05/08

三菱一号館美術館[東京都]

ヴィジェ・ルブランといっても「だれそれ?」だが、フランス革命で首をチョン斬られたマリー・アントワネット妃に仕えた女性画家、といえばイメージが膨らむはず。歴史的にも、ロマンとしても、フェミニズムの視点からも興味深い素材だが、なぜか本国フランスでも展覧会は開かれたことがないという。それが日本で見られるのだから貴重な機会だ。でも順路に沿って見ていくと同時代の女性画家の作品ばかりで、なかなかルブランが出てこない。途中、マリー・レクジンスカという王妃が中国の風俗を描いた装飾画があったり、上野の西洋美術館が所蔵するマリー・ガブリエル・カペの美しい自画像に出会ったりして、あれ?だれの展覧会だっけ?と忘れたころにルブランが登場する仕掛け。結局ルブラン作品は83点中23点。なかでも注目はやはり、画家と同い年ということもあって気を許したといわれるマリー・アントワネットの肖像と、3点の自画像だ。当時、王妃の肖像はだれでも描けるものではなかったので、この肖像画がのちに何百回もコピーされ、アントワネットのイメージを決定づけたのだ。もっともこの肖像画もオリジナルではなく、自身によるレプリカらしいが。3点の自画像はそれぞれ36歳、39歳、45歳のときのもの。美貌で知られた画家だけにどれも美しいが、不思議なことにどれも20代にしか見えない。女性画家ならではのマジック!

2011/02/28(月)(村田真)

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