artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
MOTアニュアル2011──世界の深さのはかり方
会期:2011/02/26~2011/05/08
東京都現代美術館[東京都]
冨井大裕、木藤純子、関根直子、池内晶子、椛田ちひろ、八木良太という30~40代のアーティストの紹介。この複雑に絡み合った世界をシンプルな素材とそれぞれの「術」で探求している人たち、ということらしい。身近な商品をポップに組み合わせてみせる冨井、目に見えないくらいの細い絹糸を展示室いっぱいに張り巡らせた池内、カセットテープを球状に巻いて音を出す八木などそれなりにおもしろいが、残念ながら田窪のダイナミックな仕事に触れた後では稚戯にしか感じられない。こっちを先に見たほうがいい。
2011/02/25(金)(村田真)
田窪恭治 展──風景芸術
会期:2011/02/26~2011/05/08
東京都現代美術館[東京都]
田窪恭治の個展と聞いて、いったいなにを出すのだろうと思った。ぼくが最初に見た田窪さんの「作品」は、たしか山岸信郎さんがやっていた神田の田村画廊か真木画廊での個展だったが、ギャラリーに入るとガラーンとして作品らしきものはなにもなく、片隅のテーブルにウィスキーの空きビンが置いてあるだけ。こういうのが「現代美術」なのかと、当時20歳の美大生は途方に暮れたものだった。のちにそれが、どうやら「バーボンが1本空くまでのはなし」というイベント(まだパフォーマンスという言葉すらなかった)の残骸であることを知るのだが。それが80年代になるとなぜか廃材に金箔を貼ったオベリスク状の立体になり、建築家とともに廃屋に手を加えた「絶対現場」を経て、90年代の大半をフランスの小さな礼拝堂の再生プロジェクトに費やし、現在は故郷の四国で金刀比羅宮の文化顧問として琴平山の再生計画を手がけている。その数奇な歩みはさておき、肝腎の美術館に運び込んで展示できる作品はオベリスク以外ないではないか、いったいどうやって巨大な展示空間を埋めるんだろうと疑問に思ったのだ。でもそんな浅はかな考えを一蹴するかのように田窪さんはやってくれました。礼拝堂再生プロジェクトと琴平山再生計画を可能な限り原寸大で再現する(田窪は「再現」というより「東京ヴァージョン」だという)大規模なインスタレーションを展開したのだ。展示室内に建築をもう1軒つくるようなものだから、いくら巨大な現代美術館でも大きすぎることはない。もっとも経費はそれだけ膨らむが。そんなわけで、ここ20年の田窪さんの建築がらみの仕事を紹介(というより再考)する意味合いが強く、それ以前の「絶対現場」は写真のみ、オベリスクは1点もなかった。
2011/02/25(金)(村田真)
東京五美術大学連合卒業・修了制作展
会期:2011/02/17~2011/02/27
国立新美術館[東京都]
今年は全体に不作。昨夏の異常な暑さが影響したか。まさかね。見た順にいうと、まず女子美では、紙の裏表に絵を描いて両側から見えるように立てた大小島真木の作品は実験的だが、なぜ「デュアル」でなければならないのかよくわからない。あとは、絵のほかにスカートに首を突っ込む木彫を出した柳瀬はるかが目を引いた程度。武蔵美は、一見でたらめな抽象画に見えながらちゃんと絵になってる上野早智子、葉がカツラのような木を2本すばらしい色彩で表した笹井青依。多摩美は、青いカーテンだけをトートロジカルに描いた菊池宏介、橋本平八みたいに粘土を木で彫って台の上にのせた木村原理。造形大は、ベラスケスの原作を明るく軽快なタッチで翻案した佐藤理恵、こういう場所にはふさわしくない小さなキャンヴァスに近ごろ珍しい抽象を描いた八重樫ゆい。以上は合格。日芸は今年も全滅。ま、1時間ちょっとでサーッと見ただけなので、見逃した原石はたくさんあると思う。
2011/02/25(金)(村田真)
高畑早苗「WEAR ME 転変無常」
会期:2011/02/22~2011/03/05
ギャルリーパリ[神奈川県]
ドレスのような立体作品と絵画の展示。ドレスのほうはキャンヴァス地を切り抜いて固め、表面に装飾を施したもので、実際にはきつくて着れない。絵画は植物のツルか、寄せ来る波頭のようにも見えるニョロニョロな形態が描かれている。このニョロニョロ、若冲の《動植綵絵》や北斎の《冨嶽三十六景》にも出てくる波の表現によく似ている。でも高畑さんと若冲や北斎との接点が見つからない。そもそも昔は人物を描いたり女性性を前面に出していたのに、今回は人物がまったく登場しない。と思ったら、棚に名画などをコラージュした手づくりのアクセサリーが100点ほど並んでいて、そっちに人物が集中していた。
2011/02/24(木)(村田真)
シュルレアリスム展──パリ、ポンピドゥセンター所蔵作品による
会期:2011/02/09~2011/05/09
国立新美術館[東京都]
大規模な「シュルレアリスム展」といえば以前、東京国立近代美術館で開かれたものを思い出すが、あれはもう36年も前、ぼくがまだ学生のときだった。ヒエー。なんでまた忘れたころにシュルレアリスムなのかといえば、今年はアンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』刊行から87年という記念すべき年ではないので、きっとパリのポンピドゥー・センターが改修工事にでも入って、大量のコレクションが借りられることになったのかも。日本でシュルレアリスムというとダリとかマグリットみたいな通俗的な画家に人気が集まるが、今回はアンドレ・マッソン、ヴィクトル・ブローネル、フランシス・ピカビアといった日本ではあまり紹介されてない画家の作品が大量に出品され、ツー好みの展示になっている。とりわけマッソンは全出品作品173点中27点を占め、じつに1割5分6厘の高打率。同展にはゴーキーやポロックの初期作品も出ているので、マッソンが開拓し、抽象表現主義に受け継がれた「オートマティスム」にスポットが当てられているのがわかる。なかなか大人のシュルレアリスム展。
2011/02/23(水)(村田真)