artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

現代中国の美術

会期:2011/01/22~2011/03/13

日中友好会館美術館大ホール[東京都]

中国政府主催で5年にいちど開かれる「全国美術展」は、日本でいえば日展とか二科展とか院展とか全部集めて10倍(人口比)にしたものの5年分、くらいの規模と権威がありそうだ。ジャンルは油彩画、中国画、版画、彫刻などに分かれているが、抽象はもちろん、表現主義とかデフォルメした表現とかもなく、どれもこれもリアリズム。とりわけ油彩画はほとんどすべて超絶的ともいえるリアリズム画法で描かれているのが不気味だ。中国の美術教育は写真のように描くことを至上命題としているのだろうか。モチーフは、失われつつある農村風景であったり、近代化する都市生活であったり、ひとことでいえば現代中国の風俗画というとこか。しかもそれが政府や社会への批判にはならず、かといって翼賛的な社会主義リアリズムにも陥らないところがまた現代中国らしい。

2011/02/18(金)(村田真)

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川俣正:フィールド・スケッチ

会期:2011/02/04~2011/03/21

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

川俣がデビューする70年代に身辺を撮ったスナップ写真。写っているのは建物の内外、郊外の風景、通路などで、人はまったくといっていいほど出てこない。1枚1枚はなんてことのないモチーフばかりだし、色もすでに褪せているが、そんな写真でも数百枚集まればなにか宝の山のように見えてくるし、現在の川俣の活動の原点をここに見出すことも難しくない。ちょうどゲルハルト・リヒターの「アトラス」みたいなもんか。目を引くのは部屋の片隅を撮った一群の写真で、白い天井と壁の境目がY字型にパースがついて妙に艶っぽい。それにしても感心するのは、こういう他人にはクズ同然のスナップ写真を何百枚も後生大事にとっておくこと。それが30数年後にはこうして日の目を見るのだから、やっぱり川俣は確信犯だ。

2011/02/15(火)(村田真)

タムラサトル展 100の白熱灯のための100のスイッチ

会期:2011/02/05~2011/02/23

Bギャラリー[東京都]

ゆっくりと水平に回転する金属棒の左右に針金状の棒が50本ずつ立ち、その背後からたくさんのコードが出て100個の白熱灯につながっている。金属棒が回転して針金をなぎ倒すと白熱灯が次々に灯り、針金が元に戻るときに揺れると点滅し、やがて消える。つまり針金の下にスイッチが仕掛けてあり、金属棒の力でスイッチがオン/オフになることがわかる。いってしまえば、運動エネルギーから光エネルギーへの変換を視覚化して見せてるわけだ。人間の目は光に敏感なので、こういう装置ではまず白熱灯の光に引きつけられ、その原因として金属棒や針金の動きを見るものだが、ここでは金属棒と針金の動きを前面に出すことでまず原因を明らかにし、その結果として背後の白熱灯を光らせている。最初からタネ明かしをしているマジックみたいなものかも。

2011/02/13(日)(村田真)

女子美スタイル☆最前線 JOSHIBI Degree Show 2010

会期:2011/02/11~2011/02/14

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

女子美の卒業・修了制作から選抜された123人の展示。絵画、彫刻、デザイン、工芸、メディアアートと多岐にわたるのでとりとめがなく、目に止まった作品はわずかしかない。織物を織るように絵を描く福井裕子、夜景を流麗なタッチで描写した市川陽子、そして、高さ40センチほどの細長いガラスの角柱を1本立てただけの伊藤沙由美くらい。こういうシチュエーションでは「パッと見」が重要なのだ。ところで、女子美は男子しか美術学校に入れなかった100年以上も前、女子にも門戸を開こうというんで開学した学校だけど、いまやどこの美大も女子学生が大半を占めるようになった。そこで女子美のとるべき選択肢は、もう役割は終わったと独自性を放棄する(つまり男子を受け入れていく)か、逆に女子学生だけというこれまでの蓄積を踏まえてイニシアティブをとっていくかだ。いま見ていると、どうも前者の道を歩んでいるように思えるのだが、もし「女子美スタイル」というものを本気で標榜するならば、後者の路線を開拓していく必要があるだろう。ま、どうでもいいけど。

2011/02/12(土)(村田真)

都市に潜む

会期:2011/02/05~2011/02/13

渋谷駅地下コンコース[東京都]

地下鉄副都心線の開業と、工事中の渋谷ヒカリエの宣伝を兼ねたのではないかと推察されるイベント「シブヤ1000」、のオマケみたいな現代美術展。「シブヤ1000」とは渋谷界隈で撮った顔写真やイラストなど1000人分を渋谷東口のコンコースに展示するもので、渋谷系のアホ面がずらりと並ぶ。それはいいんだけど、めざす「都市に潜む」展がどこでやってるのか見つからない。ほんとに都市に潜んでしまってるのか、と思ったら突き当たりの広場に(どこだ?)ありました。あったはいいけど、いろいろ規制がうるさいのか、壁にマスキングテープを貼ったり、柱に擬態したりしてほとんど目立たない。そんななか、スクール水着の少女たちが中2階から並んで飛び込もうとしている北川純の作品だけが、場違いながらノーテンキな無邪気さを放っていた。

2011/02/11(金)(村田真)